298 コアたちの心もガッツリ掴んでいる

 日付が変わる時間になったが、アルはディメンションハウスには泊まらず、キエンダンジョンの自宅に転移した。

 転移魔法陣を設置しても魔力がたっぷりある時はまどろっこしいので。転移なら一回だ。転移魔法陣を使うならまずサルタナダンジョンの小部屋の上に行き、岩をどかして…となるので。小部屋に直接転移でもいいが、それもまたまどろっこしい。


 遅い時間でもにゃーこたちと一号が出迎えてくれる。

 …まぁ、ゴーレムには睡眠は必要なく、じっとしている時があるのは身体を休めているだけで起きているのだ。

 アルはさっさと温泉に入りながら、先輩組ダンジョンの氷ドロップはどうするかなぁ、と考える。


 いきなり、氷ドロップが出るようになるのは、ダンジョンマスターがいると疑われるかもしれないが、テレストがダンジョンマスターは精霊の類だと思っていたし、その存在はマイナー。コア及びダンジョンの気まぐれだと思う人も多いだろう。

 そろそろ時期外れだが、エイブル国の日中はまだ暑い。

 王都のかき氷の自販設置が終わったら、カップラーメンの自販をパラゴダンジョン前とアリョーシャダンジョン前に設置するので、氷までは別にいいか。


 街の中にあるダンジョンは、混乱が予想されるため、設置はしないことになった。

 その代わり、街の外、そう離れていない適当な場所でカップラーメンを買って、その場で食べられるし、飲み物も買えるドライブインみたいなカップラーメン店はどうか?という企画が持ち上がっている。

 混雑して来たら撤収、という幻のカップラーメン店になりそうな感じで。

 店舗にするのは、試作品の評価も直に訊きたいということもあった。


 しかし、それならカップラーメンの食べ方を知っているのは極一部だけなので、自販だけ設置より店舗も最初は設置した方がいい。

 商業ギルド本部でもらった営業許可は屋台と同じく小規模店舗のものなので、店舗にしてもまったく問題ない。自動販売魔道具という特殊形態だからこそ、無理に当てはめるなら、となったワケだが。


 一ヶ所三日以内なら契約違反にもならない。

 それもエイブル国内での契約なので、ラーヤナ国、ヒマリア国、ザイル国、ブルクシード王国では適用されない。少しでもトラブルが減るし、筋を通すのなら商業ギルドと契約しておいた方がいいが、反響が大き過ぎたので、ちょっと面倒だと思ったり。


 『こおりやさん』店員の故郷という触れ込みで、店員に交渉させたらどうだろう?

 コアたちの分身は魔力を使うが、人間にもなれる。

 ただ、同じ人間にずっと、というのは無理がある。観察に長けてる人、カンが鋭い人なら人間ではないのが分かってしまう。

 それならば、人間型ゴーレムを操作した方がバレ難いが、冒険者に討伐…はされないにしても、争いになるのも面倒臭い。


 一番バレ難いのが幻影なのでそちらを使っているワケだが、これも短時間じゃなければバレるリスクが高まる。

 人間を使うのが一番いいのだが……助けた人間たちに借りを返してもらおうにも、どいつもこいつも脳筋で交渉なんて出来るタイプじゃない。

 そもそも、慎重で思慮深いのなら死にかけてないのだ。


 仕方ないのでアルが交渉に出向くか。

 影転移を繰り返せば長距離移動が出来ることは、商業ギルドに口止めして。リスクは高いが、ヒマリア国ミマスの街のミーコ、ザイル国クラヴィスの街のクーコ、カルメ国王都ガンザルのガーコの楽しみを奪いたくない。


 そう、今までにない新しい試み、他のコアたちとも協力して新商品開発、自分のホーム近くなら自分が責任者に!

 …というのはコアたちの心もガッツリ掴んでいるのだ!

 こんなダンジョンマスターは自分ぐらいだろうしな、とアルは苦笑するしかないが、乗り気なのだから歓迎だ。


 アルがマスターになってるダンジョンばかりになるが、これ程、多ければ、全部マスターになっている、とは誰も思うまい。

 そこそこ大きいダンジョンばかり、ということもある。店員の故郷に設置する、というのも嘘ではないのだ。


 雪に閉ざされてしまう前に、北国のカルメ国から手を付けるか。

 ホワイトタイガーの行方と行方不明者の件も気になる。ガンザルダンジョンのガーコに調査はさせているが、めぼしい情報はない。

 まぁ、それもブルクシード王国の間引きが順調に終わってから、になる。

 …って、カルメ国はもう結構寒かったので時間がなくないか。

 身体が二つ欲しい!

 ああ、だから、【影分身】のスクロールがドロップしたのかもしれない。


 辻褄つじつま合わせが大変なので、本体と分身を離して別行動にしたくはないが、仕方ないか。

 長距離転移になるので本体は必然的にカルメ国王都ガンザルへ。

 分身はブルクシード王国のダンジョンの間引きのサポートに。

 もし、スタンピードが起こったら、主要の街ごとの結界は珠(マジックアイテム)に入れてあり、数珠のように繋いであるので、マジックバッグに入れておけばわずかな魔力で分身が出せる。

 『Pバリアタウン』とでも名付けるか。


 分身は魔力を使うのに制限があるが、物理での戦闘はまったく問題ないので時間を稼いでる間に、本体も転移する、という感じになるか。

 よし、カルメ国王都ガンザルとブルクシード王国王都サルタナも、転移魔法陣で繋ごう。

 魔力がたくさん必要な時に、移動で消費してしまうのは得策ではない。


 改めて考えてみれば、コア及びダンジョンマスタールームに入られたくないだけで、ダンジョンに入ってもらうのは歓迎なのだ。

 厳重な防犯設備は、他の人が他のダンジョンに飛ばされないようにするための安全対策でもある。

 全部のダンジョンを繋げば、コアバタたちの移動も楽になる。分身体とはいえ、小さな蝶の転移ぐらい何程でもなかったワケだが。


【マスターには何か深いお考えがあるのかと思っておりました】


 風呂から上がって水分補給している時にキーコに相談すると、そんな答えが返って来た。


「深い考えなんざねぇよ。でも、新しくおれがマスターになったダンジョンが増えて、すぐ繋ぐのも気分悪くねぇの?初対面になるワケだし。まぁ、ちょっとサルタナは緊急事態だったんで勘弁して欲しいけど」


 その辺りの配慮もあったワケだ。


【大丈夫です、気にしてません。マスターがダンジョンマスターである限り、新しい仲間が裏切ることはあり得ませんから。マスターが新しいダンジョンばかりを構うのは、いい気がしませんけどね】


「やっぱ、そういった感情はあるんじゃねぇかよ」


【少し、ですよ。特にブルクシード王国組には同情を禁じえません。フロアをぶち抜くという反則技での攻略ですし。確かにギリギリでしたから、マスターがいらっしゃらなければ、あふれていたでしょうが】


「結果オーライで。まだ魔力の流れが不安定だから油断出来ねぇんだけど」


 今夜の件をまだ話してなかったので、国王の所から順に話した。


【氷ドロップですか。考えたこともありませんでしたが、意外にいいかもしれませんね。かき氷だけじゃなく、アイスクリームも作れますよ】


「砂糖より卵の入手の方が問題だけどな。卵を使わねえぇのはシャーベットか。…氷の温度を更に下げるには塩をかけるって、知らなくね?」


【大半の人間はおそらく。ですが、塊で出すのなら溶け難いですし、流通にも変化があると思います。特に魚介類は】


「いいな、それ。じゃ、試しにこっちでも氷を出すことにするか」


【分かりました。魚介類と言えば、海の側のミマスのミーコは?】


「じゃ、ミーコ、キーコ、フォーコのラーヤナ国組で徐々に」


 アルはミーコとフォーコにも連絡しておいた。

 自動販売魔道具内のかき氷器が作れる面々だが、そこは敢えてサーコが出したような刃の切れ味を落とした簡易的な物にする。


 では、明日は朝イチでかき氷器の登録をパラゴのトリノに頼み、分身にはブルクシード王国で間引きのサポート、本体はダンジョンを繋げる転移魔法陣設置してから、カルメ国の王都ガンザルにて、カップラーメンの自動販売魔道具設置についての交渉、となった。

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