第16章・カルメ国王都ガンザル
263 優先順位が上がる特効薬
カルメ国王都ガンザル防壁前。
三ヶ国にまたがっても空間転移なら一回で行ける。
カルメ国はホワイトタイガー探しでうろついたので、だいたいの所には転移ポイントが置いてあった。
シヴァの足取りとしては六日前にザイル国クラヴィスの街を出た、までなので、本来なら入国しておいた方がいいかもしれないが、誰も気にしてなさそうなので、街に入る時だけでいいか。
冒険者ギルドや一部の裕福な商人は通信魔道具を持っているが、通信料が魔石で高いため、情報はそこまで早くない。
『こおりやさん』程、派手なことをすれば別だが。
カルメ国でも北寄りの王都ガンザルは、もう初秋を通り越して初冬の気温だった。元の世界の感覚だと。
アリョーシャの街では朝夕は涼しくなって来たものの、昼間はまだまだ暑い。さすがに三国もまたぐと、さすがに気温が違っていた。
シヴァは夏仕様装備だったので通常装備に変更する。上着が膝丈コートになり、服の地が少し厚くなり、指抜きグローブが普通のグローブになるだけだ。装飾も少し違うか。
シヴァが街に入る行列に並ぼうとすると、すぐに気付いた人たちに順番を譲られた。【行列優遇】スキルがしっかり仕事をしている。
「あ、あなたがシヴァ様…お噂はかねがね。ようこそ、王都ガンザルに」
シヴァがSSランクのギルドカードを見せると、警備兵はギョッとしたが、すぐに愛想よくそう言った。
「どうも」
シヴァの知名度もかなり高い。
まずは冒険者ギルドへ。塩漬け依頼があれば受けてもいいが、シヴァ宛の伝言が届いてる場合もあるので。
指名依頼は余程のことがなければ受けない。それに、ワイバーンの件以外にも変わったことがあるかもしれない。
冒険者ギルドでは、毎度のことながら静まり返り、またしても順番を譲られ、すぐシヴァの順番に。
受付嬢は慌てて、ギルドマスターを呼びに行き、シヴァは他の落ち着きのない職員に奥の応接室へと通された。
「ガンザル冒険者ギルド、ギルドマスターのバーンズだ。シヴァ殿がこの街に来た目的はダンジョン攻略なのか?」
「そうだ。それと、昨日、ワイバーン十二匹がこの国のどこかからヒマリア国に飛んで来た。先日も似たようなことがあったから、何かあるのかと調べに来たこともある。何か知ってるか?」
「ワイバーンの件はこちらも調査中だった。生息しているという話も聞かない場所から出て来たようだし、山型ダンジョンがどこかに出来たのかもしれん。その十二匹のワイバーンはどうした?」
フェニックスは見てないのだろうか。
別に隠蔽なんかしてなかった、とカーマインは言っていたので、目撃者がいそうなのだが。
「処分した。街を襲うだけだろうし。魔力の流れからして、ダンジョンではなさそうだが」
「そうか…。シヴァ殿が調べて何か分かったら教えてくれ。報酬は相応に払う」
「分かった。ガンザルダンジョンは近年は攻略されてないと聞くが、変わってないか?」
【冒険の書】で攻略された年日付までシヴァは知ってるが、訊かないのも不自然かと思い質問してみた。
「ああ。十七年前以降は攻略されてない。よくあるダンジョン構成なんだが、35階からフィールドフロアになり、38階から39階へは湖を潜らないとならず、そこで足止めを食ってる。十七年前は30階までしかなかったダンジョンなので、正確には攻略されていると言っていいものか迷うが。おそらく40階までだろう。シヴァ殿は水中装備は万全なのか?」
「ああ。水中で問題なく過ごせるマジックアイテムを持っているし、水中仕様装備もある。リヴァイアサンでも出るのか?」
出ない。
ダンジョンボスはメデューサだ。
人型魔物の気持ち悪さはうんざりしてるので、気は進まなかったのだが、仕方ない。さくっと倒してダンジョンマスターになり、変更しよう。
「い、いや、さすがにそんな大物がいる報告は受けてない。半端な所にいるランクの魔物でもないし」
「ドラゴンゾンビや風竜が半端な所にいたりするけどな。イレギュラーボス扱いらしく」
「…そうなのか。この国のダンジョンは小さい物が多いから、そんな強力なイレギュラーボスがいるダンジョンもあるとは知らなかった」
「倒さずとも進めるけどな。ガンザルダンジョン攻略は遅くても明日の夕方には終わってるから、ドロップ品を買取りたいのなら資金の用意をしてくれ。商業ギルドとも話し合ってな。それから、中級上級ポーション、エリクサーも持ってるから、欲しいのなら適正価格を考えておくように」
「…え、エリクサー?あの万能薬か?四肢欠損も治すっていう伝説の…」
「伝説じゃない。効果はその通りだが、そこまで万能でもない。怪我の具合によっては、腕や足を生やしてる間に内蔵や脳味噌がダメになる。優先順位まで考えるのは人間の仕事だからな」
「その場合は普通のポーションを使うように、エリクサーを一番酷い患部にかければいいのか?」
「いや、エリクサーは服用以外は効果が落ちる。何本も使えるのなら別だが、普通は一本。上級ポーションか回復魔法で手足を繋いだ後、飲ませるというのが一番生存確率が高い。ま、一番いいのは装備をキッチリ整えることだな」
「それが出来たら苦労しない。シヴァ殿のように装備に金かけられる程、裕福な冒険者も少ないしな」
裕福だったら冒険者なんてやってない人が大半だろう。
「金はかかってねぇぞ。素材採取も作成も自前だからな。過酷な環境に柔軟に対応出来るからこそ、いくつものダンジョンを攻略しているワケだ」
もう用事はないので、シヴァは立ち上がり、応接室を出た。
再び受付に寄ると、またしても順番を譲られる。
「あ、はい、シヴァ様、何でしょう?」
「さっきは用件を言う前にギルマスを呼ばれたんだが…」
「すみませんでした!」
「それはいいとして。赤い鳥の目撃談は?」
「赤い鳥、ですか?いえ、別にそんな情報は入ってませんが」
「では、ホワイトタイガーは?」
「…え、何ですか?神獣様の?」
「そう。ちょっと用事があって探してるんだが、どうも転移トラップのようなものに巻き込まれた可能性が出て来てな。行方不明になった人はいないか?」
「それは何人か出ていますが、魔物にやられたのかもしれませんし…」
「明日の夕方までに情報をまとめておいてくれ。ここ一年以内の行方不明者の場所と人数と日付。依頼が出ていたのなら、その依頼の日付と依頼主も。出来る限りでいい」
シヴァは金貨1枚をカウンターに置く。
「いえ、こんなに頂けませんよ!」
「やる気が出るだろ?数人で調べて山分けすればいい。更に仕事の優先順位が上がる特効薬」
シヴァは箱に入れたクッキーもカウンターに置いた。
「有難うございます!」
甘い香りに受付嬢も笑顔になる。
「じゃ、よろしく」
「お任せ下さい!」
やる気満々な返事にシヴァは片手を挙げてから、ギルドを出た。
ホワイトタイガーの手がかりが掴めるのなら、他のギルドにも頼んでもいいかも…と思ったが、ガンザルダンジョンを攻略するのなら、情報はもっと集まるか。
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