213 放逐されたんじゃね?

 アルはさっさと最寄りの川へ向かった。

 場所が曖昧なので、一度、上空へ転移し、目視してから川辺へと。

 アンギーラスネーク、うなぎはすぐ見付かった。

 ダンジョンのうなぎは 直径1m~2m、長さは15mオーバーと大きいが、こちらはもっと小さい。それでも、直径20cm長さ3m前後はある。


 水魔法で六匹を同時に仕留めて、トビウオのようにこちらへ飛び跳ねさせて引き上げた。血抜きしてその血は埋めておく。

 作業台と包丁セットを出し、うなぎを背開きして三枚におろし、肝、中骨も取って置き、頭ヒレその他は焼却処分。

 魔物なので小さい魔石も内臓の中にあった。Dランクぐらいだろう。

 身は手頃な大きさにカットし、串打ちして焼くばかりにしてから、収納しておいた。


 一応、鑑定したが、ちゃんと【アンギーラスネーク】で、魔物だからか泥臭くない美味しいうなぎだった。ならば、炭火で焼くべきだろう。


【マスター、ミーコバタです。商業ギルドで騒いでる人がいて、トリノ様が殴られましたので至急パラライズを撃ち込みました】


 そこに、ミーコからそんな連絡をもらった。


『分かった。すぐ行く』


 アルが影転移でパラゴ商業ギルドに移動すると、トリノが自分のアゴを手で押さえており、その近くに高そうな服の男が倒れていた。

 お供じゃなく、護衛は突然出現したアルに向かって躊躇なく斬撃を放つ。咄嗟の対応はいい。

 それがアルではなく、Cランク冒険者以上でなければ、切られていたことだろう。アルが護衛の剣身を指先で弾くと、パキッと折れた。


「これ以上やるなら手足をバキバキに…やるワケな」


 警告している途中で短剣が飛んで来たので、アルはあっさり柄をキャッチ。同時に護衛の懐に飛び込んで手足を折り、ロープで縛り上げた。


「大丈夫か?トリノさん」


 ヒールをかけてやった。


「あ、ありがとうございます」


「トリノさんが殴られたとしか聞いてねぇんだけど、状況は?」


「素性は存じませんが、おそらく貴族ではないかと。この方々が商業ギルドに入って来ていきなり、その魔道具を外の馬車に積め、とおっしゃられまして。売り物ではないと説明しようとした所、うるさい、と殴られました。ですが、いつの間にか相手も倒れていました」


「倒れたのは仲間がパラライズを撃ち込んだから。強盗だな。表にも馬車がいるのか」


 武器を取り上げると、護衛と貴族らしきゴテゴテした服の男を影転移で牢へと送り、アルはトリノと一緒に外に出た。

 何やら紋章が入った箱馬車が止まっていた。


「知ってる紋章か?」


「確か、ゴウメズ子爵の紋章だったかと。領地は結構離れていたハズですから、何故…あ、アリョーシャの街に行く所だったのかもしれません。上層部が大分、汚職で捕まりましたから、新しく赴任…はなさそうですね。いくら何でもこうも酷いのに事務仕事なんて無理でしょうし」


「っつーか、アリョーシャで汚職が摘発されたんで、こちらもヤバイかも、で放逐されたんじゃね?」


「…ありそうですね。無駄に立派な馬車と服からしても、おだてて適当なこと言ったと考えられます。しかし、それだと手練れらしき護衛は不思議ですね。手元に置きそうなんですが」


「不思議じゃねぇだろ。適当な所で処分するつもりだったんならさ」


「…あーなるほど」


「ちなみに、全然手練れじゃねぇ。Cランク冒険者なら対処出来る程度。剣もナマクラだから、切り付けられた所ですり傷がせいぜい。っつーか、あの程度よけられねぇんなら、とっくに死んでるぞ。魔物はもっと速いのが多い」


 大げさじゃなく、事実だった。


「…そうですか。思った以上に厳しい世界ですね…」


「そもそも、冒険者の方が稼げるのに護衛やってる時点で、何らか事情があるか三流だな」


 御者に話を聞くと、男はゴウメズ子爵の二番目の息子で、パラゴ在住の貴族に何かのお祝いを届けに行く所だったらしい。

 商業ギルドで何があったか教えてもう少し詳しく話を聞くと、アルの予想がほぼ当たりだった。贈り物は建前で。


 御者がそんな内情を教えられていたのは、馬も馬車も高いので何があっても戻って来るよう言われていたからだ。やらかしていた二番目子息を処分するように、までは分からないが。

 御者には警備隊詰め所へ行き、事情を話すよう指示した。

 トリノには今後も気を付けるよう注意してから、アルは再び見回りに戻った。



 パラゴの街はラーヤナ国王都よりはかなり人数が少ないからか治安がそうも悪くはなく、行列に並ぶことも徹底させていたら次第に慣れた。人間とは慣れる生き物である。


 飲食店の前に設置された冷水の自動販売魔道具は、冷水を少し飲み果実を絞って果実水にしてもいいため、自販の側で臨時で果物や絞った果汁を売っていた。いずれ、そういった商売を始めるだろうから、と最初から提示したこともあり。


 かき氷にフルーツをトッピングしてもいいのだが、それを王都で許可したら果物の皮や種、トッピングし過ぎて落ちたフルーツで道が汚れたので、今回はなしにしている。自宅に持ち帰ってやってくれ、だ。


 ちなみに、かき氷特有の頭が「キーン」となる現象は発生していない。何故なら、氷を食べるのは初めてという人たちが大半なので、急いで食べるようなマネはしないからだ。

 歩き食べにちょうどいいさほど大きくない紙コップなので、食べ終わる頃には次の自販に到着して、今度は違う味を、と買ってる人もいる。そうも食べると腹を壊すが、まぁ、滅多にない機会だし、自己責任だ。別に注意はしない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る