212 最初から次々とトラブル
聞いてた通り、警備隊では邪険にされることなく、アルの見た目の若さに惑わされもせず、親身に話を聞いてもらえたので、かき氷の自動販売魔道具を出して説明した後、アルがおごってあげた。
ラーヤナ国フォボスの件は、彼らのほとんどが知っていたので、アルの思った以上に噂が広まっているらしい。
強盗が出たら有無を言わさず、牢屋へ影転移で送る。魔道具についてうるさく訊いて来るような連中は街の外へ。
「影転移?」とよく知らないようだったので、まず、アルは牢の前に案内してもらい、お試しで隊長を牢の中へ送ってやったら、体験した隊長もそれを見た警備兵たち全員が大興奮だった……。
魔法にあまり馴染みがないらしく。
まぁ、良くも悪くも平和なパラゴの街のようだ。
アルはその後、待ちかねていたパーコにゴーサインを出すと、パーコバタたちが適当な人間の幻影を出し、自販設置を予定している場所の持ち主との交渉に移った。他のコアバタたちはフォローに回る。
大半は一度実演して見せるだけで承諾してくれ、客寄せにもなるから場所代はいらない、という所ばかりだった。大して客が来ないと思っているだろうから、後で確認を取った方がいいだろう。
実演した時のかき氷を設置場所の人にあげると、それを見ていた他の人間が買い、それを見た近隣の人たちが面白そうだと買い…というように広まって行く。
アルは設置場所の地図を見ながら歩きで巡って、問題ないか見回って行く。
どんどん口コミで広まって行くのは、見ていても面白い。
アルは一応、『こおりやさん』の制服でロゴの入った紺のサンバイザーにエプロンといった格好で、サンダルじゃなく、スニーカーだった。
さり気なく蹴ることを想定していたりする。武装は投げナイフ。腿にホルスターを巻いている。
それなりに行列の長さが出来て来ると、横入りする輩も出るが、その辺はコアバタたちが自販からと見せかけて拡声魔法で注意し、それでもやめなければ風魔法で最後尾に押しやる。
それでもまだ諦めないのならパラライズを撃ち込まれることになるが、そこまで横入りにこだわらない。
そもそも、行列の文化があまりないのだ。
【マスター。パーコバタです。子供からかき氷を奪った無法者発生。どういたしましょう?】
おいおい。
「おれが行く」
場所を教えてもらったアルは影転移で転移した。
十歳ぐらいの子供は半泣きだったが、かき氷を奪った男を睨みつつ、「金払え!」と文句は言っていた。男はまったく聞こえてない様子で「つめた~」とか言いながらかき氷を食べている。
「坊主、こいつ知り合いか何かか?」
アルは一応確認を入れる。
「まったく知らない!突然盗られたんだ!」
「それは災難だったな。うちのかき氷、こんな奴に食う資格はねぇ」
アルは男をぶん投げ、かき氷の容器とストロースプーンは一瞬で燃やした。手加減したつもりだが、10mも飛ばしてしまったので、地面に落ちる時に影転移で目の前まで引き寄せる。それがクッションになってすり傷程度しか怪我してない。
子供はかき氷を食べながら移動しており、人気のない場所だったのでカツアゲされてしまったが、アルが強盗をぶん投げても騒ぎにはならなかった。
「坊主に謝って金払え。…おらっ、ボケっとしてるんじゃねぇよ」
状況が分からず、へたり込んでる男にアルがそう言うが、まだまだ呆然としているので、影転移で牢へ送ってやった。
魔道具ではないが、強盗は強盗だ。事情聴取すれば、罪は分かるだろう。
「坊主、怪我してねぇか?…大丈夫か」
アルは目の前に自動販売魔道具を出し、銅貨2枚も渡してやって、子供に再び買わせた。自分でどれにしようか迷って買うのも楽しいのが自動販売魔道具である。
「ありがとう!…って、お兄ちゃん、何者?」
「この自動販売魔道具『こおりやさん』の店長だ。本業は冒険者なんで、そこそこ強いってワケ」
臨時で出した自販はすぐしまう。予定外の所への設置はしない。
「…そこそこ?」
「そこそこ。上には上がいる世界だからな」
子供は納得出来ないようだったが、じゃな、とアルは見回りに戻った。
冒険者ギルドは建物の外にかき氷の自販が二台設置してあるが、あまり混雑が緩和されておらず、荒くれが多いからか怒号が飛び交う始末。
新人や低ランク冒険者が縮こまっていて可哀想だ。
怒鳴ってる連中は、とりあえず、すべて落とし穴のようにストンと影魔法で影の中に落としておく。
そして、アルはパンッパンッと手を叩いて注意を引いた。
「その自動販売魔道具を設置した『こおりやさん』店長だ。台数増やすからおとなしく並んで喧嘩しねぇように」
そう言ってアルはもう二台設置した。
「あの…怒鳴ってた連中が消えたんだけど…」
「…あれはあんたの
「おうよ。うるさいだろ。喧嘩しなくてもたっぷり用意してあるっつーのに。別に殺したワケじゃなく、影魔法で影の中に入れただけ。あいつらは離れた所に出すからご心配なく」
アルは冒険者ギルドから離れ、ちょどいい空き地にて影に沈めた連中を出した。
「おれが『こおりやさん』店長だ。ただでさえ、暑いのに喧嘩なんかしてるんじゃねぇ。頭だけじゃなく、ついでに身体も冷やしてやろう」
怒鳴っていた五人の周囲を結界で取り囲み、氷魔法で急激に冷やして行く。凍らないが、長くいると凍傷になりそうなぐらい零下10℃ぐらいに。
「わ、え、ちょっと…」
「…さ、さむ…」
「わわ、悪かった!ごめん。謝るから、殺さないで…」
「おいおい、誰が殺すって?この程度の温度、風邪ひく程度だぞ」
ガタガタ震え出したので、結界を解除して氷魔法もやめてやった。
「もうちょっと大人になれよ。分かった?」
「…分かりました」
少しは反省したようなので、アルはその辺で許してやり、再び見回りに戻った。
商業ギルドもかなり賑わっていたので、外にも設置することにした。やはり、二台。
昨日、かなり警告して置いたからか、アルに話しかけようとした商人は他の商人に引っ張られて注意されていた。「若いけど、かなり凄腕の魔法使いだ。不興買ったら埋められるぞ」と。
…まぁ、色々くっついてるが、牽制になるのならいいか。
「トリノさん、問い合わせの方はどう?」
「おかげさまで、ほとんどありません。昨日のこと、すごい勢いで噂になってるようですね。アル様が時間停止のやり方を説明したのもよかったのでしょう。作ったことのない人にあれだけの説明は出来ませんし、魔力がかなり必要になるのは前から分かっていたことですから」
「本当に採算がまったく採れねぇしな。一般的に作れる技術ならとっくに商業ギルドに登録してるって。こっちに集まらなくなるんだからさ。…あ、そういや、アンギーラスネークって知ってる?」
一般的、でアルは思い出した。
「蛇みたいな長い魔物ですか?それなら知ってますよ。近くの川にも時々いるようですし」
「…マジで?」
「はい。何かあるんですか?」
「無茶苦茶美味しいんだけど、そいつ」
「…え、食べたんですか?血に毒があるって聞きますが」
「焼いたら問題ねぇんだよ。ダンジョンドロップだと、頭はなしで血抜きもしてあって開いてあったけどな。正に焼くだけな感じで。…そっか。こんなに身近に普通にいるのか」
この後、見て来よう。
狩り尽くすとバランスが崩れてマズイが、多少ならいいだろう。
「じゃ、ギガンティスザウググロッケかザウググロッケは知ってる?」
早口言葉のようなので練習した!
「はい。亀の魔物でしょう?こちらは大きな川の上流にしかいないそうですが、何か有効活用出来るんですか?」
「こっちも食べられるんだけど、食べねぇのか、やっぱ。甲羅が防具に使えるらしいけどな」
自動販売魔道具にも使ってあったりする。ドロップ品が多過ぎて買取ってもらえなかったからだ。
「え、亀を食べる、のですか?」
「そう。やっぱ、ゲテモノ扱いか。美味しいのに。クラーケンやタンバリンテンタクルスも食べねぇんだっけ」
「……アル様。そもそも、SランクAランクの魔物を討伐出来る方は滅多にいないんですよ…」
「おかげで乱獲されなくてよかったよな」
「…いえ、そういった問題ではなく」
「じゃ、この後もよろしく」
アルはさっさと最寄りの川へ向かった。
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