203 ただの受付嬢にも舐められる勅命

 翌日。

 アルたち一行は、十時にはアレーナの街に到着した。

 ちゃんと休憩は入れたのだが、思ったより行程が進んでいたこともあり。

 マジックバッグから荷物を出して、依頼完了サインをランドにもらうと、アルは冒険者ギルドへ向かった。

 こういった移動依頼だとその街のギルドで支払われるか、前払いで、今回は前者だった。

 混雑する時間帯はとっくに過ぎているため、並ばずに依頼完了手続きが終わり、報酬が支払われる。


「フォボスのギルドから聞いております。エイブル国アリョーシャの街の方面なら、魔道具を使って移動する護衛依頼を引き受けて下さると」


 …おい、何話してるんだ、フォボスの受付嬢。

 報酬の件でやり取りが必要なのは分かるが……いや、この受付嬢の拡大解釈で独断なのか?


「いや、それは王都だけの話だ。ペースを合わせるのもしんどいんで、もう受けねぇよ」


 実際、アルだけならバイクでももっと高速移動が出来るのだ。

 ルートに宿や街を含めなくてもいいこともあり。


「そうおっしゃらず。何件か見繕ってまして、これとか…」


 ぐいぐい来るな。舐められたか。


「却下。何で頼んでもねぇことまでするワケ?ちょっとギルマス呼んで来い!あんたの独断なら上司。勅命違反するつもりってことだよな?国家反逆罪なんだけど?」


「え?あ、はい…すみませんでした…」


 受付嬢は面喰らいつつ、口先だけで謝っても動かない。図太い。

 状況もよく分かってないのか。


「謝りゃ済むってもんじゃねぇんだよ。ほら、ギルマスでいいから呼んで来い!」


 魔力で威圧してそう言ってると、ようやく、異常に気付いた事務方の上司が慌てて走って来た。


「どうしました?この受付が何か失礼なことを言いました?」


「頼んでもねぇのに勝手に仕事を斡旋しやがったんだよ。何件もあって食い下がって来るってことは、買収されてるかもしれねぇ。王都のギルドで言ったことを拡大解釈されてるから、王都にもちゃんと問い合わせて不備がないか確認しろ。魔道具を使っての護衛依頼はもう受けない」


「…はっ?すみません。ちょっと確認します」


 事務長もアルの言葉を疑わず、受付嬢を睨んでいた、となると何らか前科はありそうだ。

 アルはその間、依頼掲示板を見てみた。

 持ってる素材が採取対象なら事後依頼完了に出来ることもあり。需要が高い素材はアルも使うので、大して出せないが。

 討伐依頼も急ぐものも難しいものもないようなので、依頼は受けないことにした。


 そこで、事務長が戻って来て平謝り。

 やはり、受付嬢は商人たちに買収されていたらしい。王都は依頼の件でのことだけで余計なことは言ってなかった。

 アルは勅命が出ている『こおりやさん』が自分だと教えて、買収されていた受付嬢にも商人たちにも警告しておいてもらう。

 まったく、余計な手間をかけさせやがって。


「あんたのせいで大金が台無しになったじゃない!おとなしく依頼を受けてればいいのに!クソガキがっ!調子に乗るのも程があるわっ!○△さんに頼めば、半殺しに…」


 事務員たちを振り切って、買収されていた受付嬢が出て来て、罵って来た。

 ロクに戦闘能力がないクセに、受付をしていてもCランク冒険者の怖さが分かってないのは逆にすごい。ちやほやされていたのか、何らかのコネ就職なのか。


 アルは調子に乗りまくってギャーギャー喚く受付嬢…程なく元になる受付嬢を飛行魔法でカウンター内からカウンターの上に運び、すとんっと影の中に落としてやった。

 首が出る所まで、で。


「首さえあれば仕事が出来るだろう?影魔法使いが見付かるといいな?」


 他の影魔法使いが出せるかどうか分からないし、どのぐらい保つものなのかも分からないが。

 状況が分からず、ギャーギャー騒ぐ買収されていた受付嬢は放置し、アルはさっさと冒険者ギルドを出た。

 黙らせるのはギルド職員の仕事だろう。


 ギルドに迷惑なので、頃合いを見計らって警備兵の牢屋にでも入れておくか。

 …忘れなければ。


 アルはさっさとアレーナの街を出て、再びバイクに乗り込んだ。

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