202 敵対する可能性?
「…かなりとんでもないわね…。ついでに訊くけど、アル殿、最近、Sランクになった人とはお知り合い?」
「そんなワケがねぇだろ。どこにいるんだよ?」
我ながらかなり自然な名演技だった。
トモスの街で会っていることになっているが、言わなければ分かるまい。
「そこよね…かなり、移動が速いみたいで、結構遠い国にいるようだし」
「何か気になるワケ?」
「人柄が知りたいだけ。何かあって彼を止めないとならない場合、同じSランクだからってアタシが駆り出されるに決まってるし」
「逃げた方がいいんじゃね?短期間でSランクになった所からしても、かなり強いだろうし」
アルはそうすすめてみた。テレストにも色々としがらみがあるだろうが、黙っていれば分からないと思う。
「逃げさせてくれるかどうかも問題なのよ。分かっている戦力をまず潰すのが常道でしょ?」
「そりゃそうだな」
「それと、彼が時々連れてる白い犬、神獣様だっていう話を聞いたのよ。それが本当なら敵対する可能性は低いだろうから、確かめたい」
「神獣様と懇意にしているんなら、悪人ではないだろうって?目的が一致すれば共闘もすると思うぞ?神獣様とて伊達に何百何千年と生きてねぇだろうし、時には清濁併せ飲むことが必要だと理解しているだろう」
「…あなた、本当はいくつなのよ?ヘタしたらアタシより年上に思えるわ」
「失礼な。実年齢とてそこまで年取ってない。ピチピチの二十四歳だ」
「ピチピチ…」
「ただちょっとトラブルに対する場数と持っている情報量が違うだけだ。元の世界では情報過多の世界で、望む情報は即座に誰でも手に入れることが出来た。もちろん、機密は除いて、だけどな。
おれがあれこれ口出すのは、その何千何万というケースから導き出される理論や方法が確立されているし、知っているから。もちろん、環境はこちらの世界とはかなり違うけど、同じ人間だしな。ほぼ一緒だ。中身で違うのは倫理観念と脅威に対する認識。こちらの世界は命が軽過ぎるし、魔物や盗賊に対しての戦力が少な過ぎる。だから、人口が増えない」
「…何かもう混乱して来たわ。でも、あなたが理論派で賢いのはよーく分かった」
「ところで、何でオネエなんだ?蛇トカゲ系統の目が怖がられるから柔らかい口調にしていて、いつの間にかってオチ?」
「…あなた、賢いにも程があるわね。そんな所よ。他にも質問いいかしら?」
「質問による」
「教えたくないのなら答えなくてもいいわ。あなたのお仲間って錬金術師なの?あなた一人であれだけの数の魔道具は、いくら何でも作れないだろうし」
「人じゃない、とだけ教えてやろう。本当に人間ではおれしか作れねぇんだよ。魔力量や魔力操作だけじゃなく、高ランク冒険者でも素材を揃えることからして難しいし。おれだけでも時間をかければ作成は可能だけどな。そうだな。MPポーションは飲まなくても、二週間もあれば五十台ぐらいは。…ああ、素材揃える時間は別として。鉱物は量が必要だし、採掘からだから少し時間がかかる」
「それってダンジョン内の鉱山ってことよね?」
「もちろん。他に採り過ぎても大丈夫な所は知らねぇしな」
「…あなたにかかるとダンジョンって資材置き場や食料貯蔵庫みたいな扱いね…」
「大差ねぇだろ」
「他の人にとってはかなり違うんだけどね…。それにしても、色々しゃべっちゃってよかったの?もちろん、誰にも言わないけど」
「不都合があれば口を塞ぐだけだからな。テレストは知ってる方が有益な情報を拾って来るかもしれねぇし、それが貸しでいい」
「…え、それだけでいいの?…まぁ、アル殿に比べたらアタシなんて多少魔法が使える程度だろうけど」
「フロアボスをソロ討伐出来るんなら、ドロップ品の違いを検証したかったんだけどな。無理なら強制しねぇよ」
ダンジョンコアでも把握してない物が出る、となると、それはもう検証したかったのだが。
「…検証ってあなた……」
「【知的探究者】という称号を持ってるのは伊達じゃねぇワケで。他にやれそうなのって弓師のSランクはどう?どこにいるか知ってる?」
「知らないわ。エルフだから里にいるのかも」
「いずれはエルフの里にも行かねぇとな。おとぎ話の真偽を確かめに。…じゃ、テレスト、何らか情報を掴んだら冒険者ギルド経由で教えてくれ。エイブル国アリョーシャの街のギルドに。しばらく、そっちにいると思うし」
ダンたちを追ってパラゴに移るかもしれないが、まぁ、基本は。
「分かったわ」
アルは防音結界は解除したが、駆け出し女は眠らせたまま、テレストと別れた。アルがキュアをかけようとした所で、テレストに止められたのである。このままの方が手間ないし、と。
破門にする日も近いかもしれない。
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