201 長寿の人間でも知らないことばかり
「じゃあ、やっぱり、あなたは…」
テレストはそこで黙る。
弟子の駆け出し女の首がカクンッと折れ、机に伏せたから、というのもあるだろう。
「ここから先は聞かせたくねぇんで、眠ってもらった。…そう、テレストの予想通り、おれは異世界からの転移者だ。ただし、意識だけ」
「意識だけ?どういった意味?」
「そのまま。身体は本来のおれのものじゃねぇ。状況から考えると、盗賊に襲われて一度死んだ身体に意識が入ったらしい。致命傷だった怪我がまったく治っていてステータスも激変していた。身体の方の友人たちもその場にいたから、身体の元情報が分かったんだけどな。で、バラしたのはテレストに訊きたいことがあるからだ。『
「あるわ。エルフのおとぎ話で出て来る珠ね。見付けたの?」
「ああ。けど、タイミングからして胡散臭くてな。テレストは元異世界人と思われる人と会ったことはあるのか?」
「何人かね。あなたのように飛び抜けて強くはなく、知識も料理関係ばかりだったわ。…あ、あなたも一応はそうね。かき氷だし」
「食のこだわりが異世界の同じ国から来ている証拠なんだよ。おれは元々物作りが得意だから錬金術、魔法陣、魔道具、魔法も勉強して、たった三ヶ月弱でかなり色々と作れるようになったと、我ながら思うけど」
「まだ三ヶ月弱なの?…それはすごいわね…。アル殿が強いのは何らかのスキルが最初からあったってこと?」
「いや。最初は言語と耐性しかなかった。後はまず魔法とスキル取得からで全部頑張って増やしたもの。おれは元の世界にいた時から戦闘力は高いんだよ。身体が違うし、鍛錬不足だから最初はかなり使い難かったけど、レベルを上げることで何とかなってる。つまり、力任せだな」
「…あれで力任せ、ね。でも、元々強い人だったのなら、何らか役目があったりするの?神様に言われて、とか?」
「ない。そんな説明受けた元異世界人もいたのか?」
「そう言ってたわよ。何の役目かは教えてくれなかったけどね。過去形だけど、まだ存命しているとは思わないの?聞いたことないけど」
「そこそこ情報は集めているからな。元の世界に帰れた人はいたのか?」
「いないと思うわ。全員の消息を知っているワケじゃないけど、アタシが会ったのは転生者ばかりだったし、こちらで伴侶見付けて過していたし。子孫は残ってるかどうか。戦争があったのよね…」
「ザイル国クラヴィスダンジョンのダンジョンマスターとは会わなかったか?」
「え、何それ?ダンジョンマスターって人間がなれるもの?」
「そこから?じゃ、知らねぇか。クラヴィスダンジョンはドロップ品がどう見ても元異世界人の知識から出てるものだったからだよ。長生きなテレストならザイル国にも行ったことがあるのかと思って」
「あるけど、そんな特徴あったの。気付かなかったわ」
「知らなければ、『ダンジョン産だからこういったのもあるか』で流すようなことだしな」
「それで、ダンジョンマスターって人間じゃなく、妖精や精霊のようなものがやってるんじゃないの?」
「ダンジョンを管理しているのはダンジョンコアだな。知的生命体のようなもの。意識も感情もあるから意思疎通も出来る。ダンジョンマスターはいてもいなくてもよく、ダンジョンマスターになるのはかなり難しい。コアは常に場所を移動しているからな」
「…何か見て来たように言うわね?」
「ダンジョンコアと話したことがあるからな。正確には念話だけど。ダンジョンはエラーを起こすことがあるって知ってる?」
「…何よ、それ。初耳だわ。どういった状態がエラー?」
「倒してもドロップにならない。エラー修復まで十五分はかかる。そんな状態だとコアの場所が分かり易いんだよ」
それも嘘じゃなかった。アルだとダンジョンボス部屋に行けば、コアの位置がすぐ分かるが。
「三百年以上も生きて来たのに、アタシの一族だと二千年以上は情報を持ってるのに、初めて聞くってどういうこと?エラーって生贄でも捧げるの?」
「何だそりゃ。生贄要求するってどこの邪神だよ。いらねぇって。そうじゃなく、フロアボス及びダンジョンボスを倒す時にソロ、そして、想定外の短時間、想定外の攻撃のみ、となるとエラーになる。ま、ここまで詳しいのは何度かエラーにしてるからだけど」
「…どれだけ短時間で倒すのよ。仮にもボスを。十分とか?」
「まぁ、その辺は自分で検証したら?フロアボスぐらいならテレストでもソロで行けるだろ」
「絶対嫌よ!」
「エラーの後のドロップは破格だぞ。おれの魔道具がおもちゃにしか見えねぇぐらいに。エラーを出した奴が欲しい物が反映されてるようだな。一例を挙げると【ディメンションハウス】っていう異空間にある別荘」
「…はぁっ?マジックバッグの中に入るようなものってこと?生き物は入らないけど」
「そんな感じだな。しかも、魔力を注いで行くとレベルが上がって、どんどんカスタマイズ出来るんだってさ。まったく仕組みが分からねぇんだけど」
「…かなりとんでもないわね…」
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