第14章・ラーヤナ国
193 荷台は最初から浮遊してるタイプ
翌日、シヴァは宿をチェックアウトして、ザイル国クラヴィスの街を出発した。
騎竜で適当な方向へ進んだ後、隠蔽してアルになってからラーヤナ国王都フォボスへ転移。
王都のどこかにいましたよ、という感じでしれっと商業ギルドに顔を出し、オークションの代金が振り込まれているか確認すると、もう全部入金されていた。
では、と口座に5%だけ残して、残り95%のまとまった金額を引き出し、シヴァが稼いだ分と合わせて、コアたちに均等分けし、それぞれ調べさせた孤児院や慈善事業をしている清貧な教会へ寄付する。
コアの分身たるコアバタが適当な人間の幻影を見せて寄付すれば十分だった。
アルの手元に置いてある金だけでも中々のお金持ちだし、売るに売れないレアものを何とか売らなくても、金や鉱物、宝石類は残してあるので、やはり金に困らなかった。
…いや、まぁ、七つものダンジョンのダンジョンマスターをしているので、無一文でもまったく困らないのだが、そこまで甘えたくないワケで。
ただでさえ、Cランク冒険者をやっていれば、普通は金に困ることもない。
借金だのローンだので、使い込んでしまっていたCランク冒険者たちが論外なだけである。
飲む・打つ・買うでぱーっと散財しまくっている冒険者は、実は滅多にいない。
冒険者をやるのは年齢的にも体力的にも精神的にも限界があるので、引退した後のために貯め込む傾向があるのだ。
だからこそ、冒険者ギルドにも口座が作れるワケで。
子供を産み育てたい女の冒険者程、冒険者寿命は短い。
アルが冒険者ギルドへ行き、依頼掲示板へ向かうと、まだ朝の混雑する時間帯なのに受付嬢に目敏く見付けられてしまった。
受付嬢なのにカウンターに入っておらず、掲示板にいた辺り、待ち伏せしていたのだろう。
「アル様!探しておりました。指名依頼が入っております。トルタハーダ…」
「パス。どうせ、アステールの街だろ。おれ、エイブル国のアリョーシャの街に行くんで方向逆。あっち方面に行く護衛依頼ってない?途中まででいいんなら、乗用魔道具で引っ張って行くけど」
「はい。その件で探しておりました。トルタハーダ商会を運んだ時の移動方法を見た他の商人から、問い合わせと依頼が入っていました。エイブル国方面だと、アル様の好きな時、フォボスからアレーナの街で八人、相場の十倍でどうか、という依頼があります。アレーナの街は馬車だと二週間かかりますが、短縮出来れば何日かかってもいいそうです。短縮出来る日数によっても追加報酬だそうで」
……そうか。結構な人に見られているので、問い合わせがあるか。
細かい条件は応相談だそうなので、アルは仮受注してから指名依頼を出したモント商会へ向かった。
道中、マップ投影してアレーナの街の位置を確認する。
山を越えて森の道に入って迂回するのが普通のルートか。
かなり速度を出し、途中で空を飛んでショートカットするのなら一日もかからない距離だが、初めて乗る人たちには精神的に過酷だろうし、トイレや食事休憩は必要だ。
三日を目安にするのはどうだろう?…というか、野営の際の交替要員は?
アルが結界を張れることは知らないハズだ。
…ああ、途中に適度に街や町や村があるのか。
別に野営しなくても、街に泊まるよう計画して行けばいい。
モント商会では若頭のランドが対応した。
二十代後半の彼が商人一行を率いて納品と買付けと行商に行くらしい。
普段なら六人パーティの冒険者を雇うのだが、懇意にしていた冒険者パーティが拠点を移してしまい、頼んでみた他の冒険者パーティはしっくり来ず、そんな所にアルのバイクに引っ張られるトルタハーダ商会一行を乗せた荷台を見たらしい。
商人だから情報が早いのか、単に店舗の時に見たのか、ランドはアルが『こおりやさん』店長だと知っていたので、敬語で丁重な態度だった。
ランドと話し合い、アルの計画通りに野営はなしで、町に泊まるプランに決定。
道中に行商しても、あまりメリットがないのでスルーして行くらしい。冒険者パーティを雇う相場の十五倍でも、採算が取れるとのことでこの報酬になった。期間短縮前提の報酬なので追加報酬はなしで。
出発は準備が出来次第すぐ、とのことなので、アルはもう一度冒険者ギルドに戻って本受注手続きをした。
荷物をマジックバッグに入れる必要があるので、待ち合わせは再びモント商会だ。
待ち時間に厩舎の前の空き地で前に使った荷台を改造し、八人乗りにする。
長いよりは安定するので二、三、三の三列で。そして、荷台の裏に浮遊魔法陣を増やし、空を飛んでも安定するようにする。
バイクを出して荷台と魔法的にもワイヤーでも繋ぎ、ちゃんと高く飛ばせるかどうか確認。
「うおっ!と、飛ぶのか?」
徐々に集まって来ていた商人が、驚きの声を上げる。
「荷台は最初から浮遊してるタイプなんだけど」
30cmで浮いていたので、飛んでる!という意識はあまりなかったらしい。
上空20mでも大丈夫で、荷台に軽く重力魔法をかけて人数が乗っても大丈夫なことも確認し、ぐるっと回って元の位置に着地。
…と言っても、荷台は浮いたままだ。
バイクの動力を切ると、荷台はゆっくりと静かに地面に降りる。
「…あの、飛んで移動するんですか?」
「森を通る時は。怖いのならまたランドさんとルートを話し合うことになるけど、スピードを出しても落ちることはねぇよ。椅子にシートベルトで固定するし、風の影響を受けねぇよう結界も張るから。ちょっと上に乗ったり叩いたり蹴ったりしてみ?」
アルは分かりやすく曇りガラス風の結界を腰の上の高さに張ると、商人たちに試させた。
「今は見易いようにしたけど、透明で張ってあるから。もし、魔物に攻撃されたとしてもドラゴンブレスでも破れねぇよ」
「…試したんですか?」
「もちろん。そもそも、おれは飛行魔法が使えるから、何らかの原因で荷台が壊れてもあんたたちには傷一つ付かねぇよ」
商人の一人を1mぐらい上に飛ばしてやると、その商人以外はホッと安心していた。飛ばした商人もすぐに降ろしてやる。怖がるかと高くに飛ばさなかったのだが、いきなりでは驚いたようだ。
「まったくの無詠唱なんですか…」
「冒険者には結構いるぞ」
「それって簡単な魔法だけですよね?生活魔法とかファイヤーボールとか」
「一緒だ、一緒」
アルとしては詠唱にこだわる人が多いから、無詠唱で魔法を使えないのではないかと思っている。魔法はイメージと直結するので、使えないと思ったら使えない。
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