192 様付けが定着している…

 さて、まずは昼食を食べに行こう。

 客が多い店は美味い、の法則を信じ、賑わってる食堂に入った。

 ここで【行列優遇】スキルを発揮してはダメだろう、と敢えて切って並ぶ。


 が、しかし、譲ってくれるのは何故だ……。

 スキルがない時も譲ってくれたっけ、と思い出したが、既に遅い。

 断る方が角が立つので有り難く譲ってもらい、カウンターに座る。

 あまり広い店でもないので大剣はしまう。


 この食堂もお昼は一種類。日替わりのみ。

 肉野菜炒めとご飯とスープのセット。

 肉はリーズナブルなウサギ肉。

 ごく普通の料理が美味しい。食べてみるととろみが付けてあった。

 何やら客にも店の人にも二度見されるが、シヴァは気にしないことにする。装備をいきなりラフに変えた方が驚かれるだろう。

 …まぁ、装備を変えた所で馴染めるとは思わないが。


「シヴァ様だ…」


「…あ、ホントだ。シヴァ様だ…」


「シヴァ様?偉い人なの?」


「ある意味。Sランク冒険者ってだけじゃなく、大怪我した冒険者を助けたって。貴重なエリクサー使って」


「…ええっ!エリクサーってあの何でも治る万能薬っ?幻の?」


「そう。そのエリクサー。滅多にドロップしないからものすごく貴重品なのに、代価は求めなかったらしいぜ」


「マジで?どこの神様よ?」


「…あっ!それで金がなくてここで食ってるのか?」


「いやいや、ないだろ。あの装備無茶苦茶極上品だぜ」


「そうじゃなくても、ちょっとダンジョン潜るだけで一財産だって。Sランクは伊達じゃねぇし。100階のフロアボス、二十秒討伐でエラー起こしたってさ。半端なさ過ぎ」


「…に、二十秒?」


「誰が測ってたんだ?」


「ダンジョン発表だってさ。100階のボス部屋前って行列が出来るそうだけど、『エラー修復中なのでリポップまでいつもより時間がかかります』ってアナウンスがあったって」


「エラーって…そんなの初耳なんだけど…」


「フロアボス何だったんだ?ランダムだろ。100階って」


「でかい泥のゴリラ」


「…ジャイアントマディゴリラか?えーあれって討伐出来るんだ?しつこく復活するって聞いたことあるけど」


「それが二十秒か…シヴァ様、攻略しちゃうんじゃね?」


「砂漠が無茶苦茶キツイって話だけど?」


「そんなんSランクになるようなお方なんだから、既に色々マジックアイテム持ってるって」


「何か竜みたいな騎獣持ってる冒険者がいるって聞いたことあるんだけど、シヴァ様じゃねぇの?だったら、ひとっ飛び」


「そんな簡単に行くかなぁ?かなり暑いのは変わらねぇだろうし」


「っていうか、シヴァ様だろ?キエンダンジョンのヒュドラを三十秒で討伐したお方も。これもダンジョン発表で絵姿まであったとか」


「美人さんだしな…」


「男で美人って何だよって言ってた自分を殴りたい…美人だわ…」


「やっすいセット食ってても何か優雅だし」


「あそこだけ世界が違うよな~」


「女どもはうっとりしてるし」


「装備もカッコイイんだよなぁ。シヴァ様の崇拝者が作ってるとみた!」


「金かかりまくってそうだよな…」



 ……シヴァに丸聞こえなのだが、一応、声を潜めているつもりらしい。


 それにしても、しみじみと『様付け』が定着していた。

 結構、エリクサーを使ったことが広まっているようだ。


 昼食を終えると、シヴァは一応、門を出てから騎竜を出して、飛び立つ。

 まずはクラヴィスの街から一番近いネストの街に向かった。

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