第11章・カルメ国

155 小さな食材ダンジョン

 翌日。

 予定通り、ヒマリア国に入国して四日目の朝に宿をチェックアウトしたシヴァは、その足で国境に向かい、カルメ国の入国手続きをして入国した。

 ヒマリア国側と違い、カルメ国側はかなり小さな街で冒険者ギルドもない。本当に通り過ぎるだけだった。


 騎竜で適度に進んだ後で隠蔽し、昨日の続きへ転移。

 今日は『くつろぎセット』モードにはしなかった。

 すぐパーチェの街に降りるから、である。

 食材ダンジョンがあるのだ!

 10階までしかない小さなダンジョンで、浅層には冒険者じゃない一般人が採取やドロップ目的で入ってるような魔物も弱い超初心者向けダンジョンだが、ここには珍しくダンジョンマスターがいるので、この周辺情報をもらおうと思ったワケである。

 食材も欲しいが、食料に困ってないSランク冒険者は遠慮するべきだろう。


 ダンジョンコアはダンジョン内をランダムに移動しているものだが、ダンジョンボスを倒した時だけはボス部屋近辺に現れるのだ。

 それを利用して、今まで散々ダンジョンマスターになっているワケで、今回もそのやり方をする。

 コアに接触すれば、マスターが出て来るか連絡を取る、ハズ。


 パーチェダンジョンに近付くと、シヴァは騎竜の隠蔽を解き、洞窟のようになっている出入口側に着陸し、すぐに降りて騎竜を消した。

 こんなヌルイダンジョンに場違いな程の騎獣、フル装備のシヴァを見て、周囲にいた人たちは唖然として口を開ける。

 シヴァは取り合わず、ダンジョンへ入った。


 全部フィールド型で草原・山フロアである。

 時刻は九時半。

 たった10階しかなく、一フロアがそこまで広くもないので十五分もかからず、10階ボス部屋前まで到達した。なるべく、魔物もよけて、である。

 ダンジョンボスはブラックボア。

 アサルトボア、タイラントボアの下位種で、Cランク魔物である。

 一秒切れるかチャレンジしてみたら、ギリギリ?どうかな?といった所で、お馴染みのダンジョンエラーになった。八回目だ。


 コアの位置もあっさり判明し、次元斬で出入口を作り、ダンジョンコアルームに侵入する。念のため、罠がないかの確認も怠らない。

 ダンジョンマスターがいるのに、ここのコアルームも台座があるだけで殺風景だった。

 マスターになって三年ぐらい経ってるのに、あまり来ないのか、構おうとは思わないタイプなのか。

 コアにも罠が仕掛けられてないか確認してから、シヴァはソっとコアに触れる。


【エラー修復中です!パーチェダンジョンソロ攻略、おめでとうございます。ダンジョンコアに何かご用事でしょうか?】


「おれはSランク冒険者のシヴァ。ここのダンジョンマスターに会いたい。連絡がつくか?」


 気配がないので、ダンジョンマスターは不在だ。

 そして、このコアに転移させるような魔力を提供するのは難しい気がした。

 シヴァの所有するコアたちとは魔力量が全然違い、少ないのだ。国特有のものか、このダンジョン特有なものかは分からないが。


【連絡することは可能です。その前にお聞かせ下さい。当マスターにどういったご用件でしょう?】


「話を聞きたいだけだ」


【マスターを排除してここのダンジョンマスターになりたい、ということではないのですね?】


「もちろん。おれはとっくに六つのダンジョンのダンジョンマスターだ。お前にはおれのステータスが見えないようだが、魔力量の差か?ダンジョンの規模の差?」


【どちらもかと。あなた程の強者が嘘を言ってるとは思えませんが、念のため、ステータスを見せて頂けませんか】


 ツッコミどころがありまくりのステータスを、さっき会ったばかりのよそのダンジョンコアに見せられるワケがない。


「イヤ。他の所のダンジョンマスターである証拠なら、すぐ出せる。…キーコ、キーコバタをおれの元に」


【かしこまりました】


『お呼びですか、マスター』


「ああ。わざわざ悪いな。ここはカルメ国パーチェダンジョンコアルームだ。…コア、この蝶はラーヤナ国のキエンダンジョンコアの分身体だ」


【分身体、ですか。わたしには作れません】


『随分と小さなダンジョンですしね。初めまして。マスターから【キーコバタ】という名前を頂いております。…マスターこちらのダンジョンは他のマスターがいらっしゃるようですが、いかがいたします?』


 キーコバタはシヴァの手の甲に留まっているので、触れてなくてもシヴァを通じてここのコアの念話が分かるようだ。


「いや、話を聞きに来ただけだって。ここのマスターを排除するつもりかと疑われたから、もう違う所のマスターだってことでキーコバタを呼んだワケ。ステータス見せられねぇし」


『マスター、規格外過ぎですしね』


「で、疑いは晴れただろ。ここのマスターと連絡を取ってくれ」


【どういった話を聞きたいのか、教えてもらえますか?】


 どれだけ渋るんだ。


「神獣情報だ」


【神獣、ですか?】


 意味が分からない、という聞き返しだった。


「このカルメ国に神獣のホワイトタイガーがいるのは知ってるか?」


【存じません】


『この魔力量では、情報保存が出来ず、一定以上の過去の情報は消していると思われます』


 キーコバタがそう教えてくれる。


「そうなのか。ってことは、ここのダンジョンマスターも知らねぇ可能性が高い?」


『社交的な方なら或いは』


【マスターなら何かご存知かもしれません。連絡を取ってみますので、少しお待ち下さい】


 何やら張り合ってるような感じだ。

 シヴァはいつものソファーセットとお茶セットを出し、勝手にくつろぐ。今日はアイスコーヒーと芋チップスだ。


『マスター、またダンジョンエラーにしたんですか?』


 今回ばかりは半ば意図的なので、否定出来ない。


「ああ。修復するのも時間かかりそうだな」


『ここは食材採取、ドロップに特化し過ぎて、他に回せる魔力が少ないようです。ずっとエラーのままかもしれません』


「それはマズイ。おれがやったとバレバレだし。でも、コアにおれが魔力注いだらマスターの権利奪っちまうよな?」


『はい。そうなりますね。ボスがエラーのままでも、他は今まで通りならあまり問題にならないのではありませんか?』


「そうだといいけど、多分、ダンジョンがエラーになるっていう現象は公になってねぇだろうから、おれに問い合わせが来るって。…ボス部屋を開かねぇようにしたらいいかも?転移魔法陣は別の部屋にあるから、使えるし」


『ずっと誰かが攻略中ということですね。いい案だと思います。しかし、マスターが細工するなら、他の誰にも解除出来ないのではないでしょうか』


「そこまで厳重にするつもりはねぇって。物理的に中側から打ち付ける程度で」


『マスター、忘れていらっしゃいます。ダンジョンの壁や設備、付属品に細工出来る方など滅多にいません。…まぁ、こんな風に強制的に出入口を作ってしまう方は、おそらくマスターだけですが』


「剣聖とかがやれそうだけど」


『それは買いかぶっていらっしゃいますよ』


 そんなことを話していると、コアが瞬いた。

 触れろ、という意味だろう、とシヴァは近寄ってコアに触れた。


【マスターと連絡が取れました。パーチェの街の冒険者ギルドの方に来て欲しい、とのことです】


「分かった。ギルド管理のダンジョンなのか?」


【いいえ。マスターは冒険者で、あなたも冒険者だから、ではないでしょうか】


 そんな単純な理由だろうか。


「ひょっとして、ここのマスターは、ここには滅多に来ないのか?」


【初回だけでした。通信の魔道具で指示も出来ますから】


 ダンジョンマスターになっても、そう積極的ではないと。魔力が少ないのなら、メリットはあまりないのだろうか。


「マスターの名前と容姿は?」


【名前はルミエール様。茶髪淡い緑の目の若い女性です】


 女なのか。


「正確な年齢は?」


【二十二歳です】


 この世界ではもう若いとは言えないのでは。


『マスター。ボス部屋の対処を先にした方がいいのではないでしょうか』


 もう少し情報を引き出すべきかと思っていると、キーコバタがそう進言して来た。まぁ、会えば分かるか。


「あ、そうだな。…エラーの修復は出来るのか?」


【こういったケースは初めてですので、かなり時間がかかりそうです】


「じゃ、応急処置でボス部屋を封鎖しとくぞ」


 シヴァは返答を聞かず、ボス部屋に跳び降り、手持ちの木材で杭を作って打ち込み、扉が開かないよう封鎖した。

 ダンジョンの設備に錬金術が使えるとは思わなかったので、打ち込んだのは錬成したハンマーで物理的に、である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る