150 てめぇ蛇じゃねぇぞ!
「何…だと?」
シヴァは驚愕した。
ミマスダンジョンについて【冒険の書】で事前に予習はしていたが、実際、鑑定してみると違ったものが見えて来ることがある。
今がそうだ!
彩色に使える鉱石が採れるフロアと食材が出る魔物(楓の木の魔物はメープルシロップをドロップ。歩くキノコの魔物は高級キノコドロップ)以外は走り抜け、進むのに邪魔な魔物だけを斬ったシヴァ。
探知魔法で構造が分かるし、フォボスダンジョンのように一フロアがだだっ広いということなく、平均的な広さなこともあって移動速度はかなり速い。
昼前にはもう24階まで来ていた。
その24階の魔物がシヴァを驚愕させたのだ!
「アンギーラスネークって、てめぇ蛇じゃねぇぞ!」
名前で騙された。
【アンギーラスネーク…見た目からスネークと名付けられてしまい、実は異世界スペイン語でもそう呼ぶ。日本では『うなぎ』。
鑑定様がそうおっしゃったのだ!
見た目から似てるとは思ったが、魔物なのでそんなこともあるかな、などと思っていたら!
直径1m~2mと太くて15mオーバーと長いが、魔物はだいたい美味しいので大味ということはあるまい。
とことん狩りまくった!
魔石以外のドロップは全部身じゃなく、ぬるっとした液体も出るし、何も出ないこともあるのだ。
シヴァのレアドロップ率が高いのがアダになり、液体ばかり出る。
このぬるっとした液体、防水布や防具の補強、滋養強壮剤としても使えるそうだが、たくさんはいらないのに!
身が欲しいのに!
称号効果を一時的になしに出来ないか、とやってみたら出来た……。
早く気が付けば良かった!
リポップした所でまた狩りまくりに来よう!
今日の昼飯はうな重で確定だ!
その前にもうひと働き、と25階~27階と三層も続く、アンデッドゾーンを踏破してから、昼休憩にした。
洞窟タイプ特有なのか、何やらすえた臭いがするダンジョン内では食べる気がしないので、ディメンションハウスに移動する。
とっくに錬成していた七輪と炭と網を出し、金串を錬成してうなぎの身に刺し、タレを付けた。
定番甘辛ダレと軽く塩を振った白焼きにしよう。
関東風に一度蒸してから焼くのではなく、そのまま焼く関西風で、カリッと香ばしく。
重箱は木で錬成するが、漆を見付けてないので、それっぽい塗料で中は赤、外は黒でちょっとした手毬柄を入れる。
イディオスやダンたちにも差し入れるので、重箱を作っておこう。
…ああっ!山椒が!
『キーコ、山椒っていう調味料知ってる?』
【存じません。どういったものですか?】
『説明が難しい。おれのイメージを読んでくれ。ぴりっとしてるけど、胡椒程でもなく…山椒の木は低木で実も皮も葉も食べられて…』
【いくつか思い当たるものがありますので、転送します】
キーコが送って来たのは、わさびと粒胡椒とカラシだった。
いや、これも欲しいんだけど!
『ちょっと違うんだって。…アーコ、パーコ、トーコ、フォーコ』
シヴァが他のコアたちにも訊いてみた所、トーコが正解の山椒を持っていた!
海辺のトモスの街なので、地域性もあるらしい。
『頼もしいコアたちで、マスターとしては幸せだな』
【この程度で幸せを感じて下さるマスターでよかったです】
シレッとそう言うのはキーコだ。
はいはい、と流したシヴァはうなぎの火加減に注意しつつ、焼き上げた。
重箱に熱々のご飯をよそいうなぎを乗せ、山椒をかけてうな重が完成!
次のうなぎを焼きつつ、シヴァは異世界初のうな重を早速頂く。
「…美味い」
もうこれしか言えない、心に染みる美味さだ!
パサパサすることなく程よく脂が落ちて、身はふっくら、皮はパリパリ。タレの香ばしさ、山椒のぴりっとした味も甘辛い味を少し引き締める。
ああ、妻に食べさせてやりたい!
素材の味が引き立つ白焼きも美味い!
異世界のうなぎの魔物、なんて美味さだろう。
しかも、身も大きくて焼くばかりになっているのだから、これはもう食べろ、狩り尽くしていい、と言ってるも同然に違いない。
【冒険の書】でリポップ時間をしっかりチェックしよう。
最高到達階が17階。
うなぎは24階。しばらく、誰も来るまい。
野菜がまるでないのも何なので、作り置きの具だくさん豚汁とぬか漬けを追加。
時間停止のマジックバッグだと、いつまで経っても漬からないので、以前に作った小銭ケースに入れて漬けた。いい感じである。
少々食べ過ぎたので、食休みを十分取るついでに、新しく手に入れた山椒殻、実に合わせた調味料入れを錬成する。
殻と実はミル付き容器だ。味が結構違う。
続いてドロップ品の整理をしておこう。
出さない物は空間収納に。
売りたい物はシヴァのウエストポーチ型マジックバッグに。
最低限だったハズだが、称号のおかげでかなりドロップ品が出た。
称号の効果が切れることが分かったので、今度から浅層では切ることにしよう。
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