149 七彩花の宿
「シヴァ様はミマスダンジョンの方へは行かれないのですか?」
「いや、明日から行くつもりだ。まだ攻略されていないそうだな」
「はい。他のダンジョンと違い、洞窟型フロアがずっと続きますので、何日もかけて深層まで行くには精神的にもキツイようです。現在、最高到達階は17階ですが、この階でミノタウロスが出ますから20階までじゃないかと言われてます」
残念。正解は40階だ。【冒険の書】で知っているシヴァは内心そう呟く。それにしても。
「ミノタウロス程度で強者扱いなのか?ラーヤナ国王都フォボスダンジョンだと4階、パラゴダンジョンだと10階のフロアボスで出るぞ」
「……そうなんですか?」
「もっと深いと予想するべきだろうな。ここのダンジョンは10階ごとの転移魔法陣はないが、エスケープボールは結構出るのだろう?」
「あ、はい。そうです。だから、探索が進まないということもありまして。大容量のマジックバッグを持っている冒険者も少ないですから、食料面でもアイテム面でも問題がありますし」
そういった所でも攻略の難易度を上げてるワケだ。
しかし、エスケープボールが結構出るのなら、採取関係は楽になる。片道行けばいいだけなのだから。その道中でまたエスケープボールが手に入るだろうし、損はない。
「おれなら、そちらの面でも問題ないな。伊達に60階もあるダンジョンを攻略してないし」
本当にキエンダンジョンで、マジックバッグがいくつか出ていた。例によって売るに売れないので、持ったままだ。
そういえば、キエンの商業ギルド職員トリノに、飛竜の槍その他を売ろうと思っていて、忘れていた。マジックバックも売ろうか。
フォボスダンジョンのガルーポケット(ポケット型の小さいマジックバッグ)ぐらいなら、出回ってるのでそこまで珍しくない。
なのに、まだあるのは称号のおかげで数が多かったからだ。
アルのアリバイがてら、と思ったが、フォボスからキエンまで結構な距離なので、いくらバイクでもそれなりに日数がかかる距離だ。
一週間は後の方がいいだろう。…また忘れそうだ。
「シヴァ様、出来ればこちらにドロップ品を卸して欲しいのですが…」
「では、それなりに資金を用意するんだな」
まだ卸せるドロップ品でもギルド運営資金など、簡単に吹っ飛ぶだろう。
鉱石と食材以外は大した物がドロップしないので、適当にスルーするつもりだが、邪魔なら倒すので増えてしまうワケで。
もうギルドには用はないのでシヴァが
******
ギルドを出ると、シヴァは商業ギルドの方へ行く。
ギラギラ宿に行く途中、人が頻繁に出入りしているそれらしき建物を見付けたのだが、やはり、正解だった。
受付の行列に並ぼうとすると、ここでもやはり、どうぞどうぞ、と譲られてしまった。
既に【シヴァファースト】みたいなスキルなのか、これは。
「い、いらっしゃいませ。ミマスの街商業ギルドへようこそ。ご用件をお窺い致します」
受付職員の顔はこわばっていたが、定番文句をスムーズに言う。
「宿を紹介してもらいたい。冒険者ギルドで紹介された所はギラギラしていて趣味じゃなかった。それなりに広くてキレイで風呂ありで料理の美味しい宿。高くても構わない」
「あ……はい。少々お待ち下さいませ」
職員は慌てて資料を取りに行き、めくりながら戻って来る。
「大通りから離れても構いませんか?…それなら、こちらの『
独立離れで金貨20枚だった。金貨20枚~だったギラギラ宿はこの辺りでは高い方なのだろう。
もう二ヶ所の宿を教えてもらい、『七彩花の宿』は紹介状をもらった。手数料として銀貨1枚。情報料はサービス。リーズナブルである。
早速、行ってみるとシヴァの足ならすぐ到着するが、一般人なら割と歩くという感覚だろう。
『七彩花の宿』は小洒落たコテージのような佇まいだった。通りからも丁寧に手入れされたアーチや花が咲き乱れているのが見え、人気があるのも分かる。
チェックイン手続きで賑わっていたフロントだが、シヴァが入ると、徐々に静かになって行く。そして、どうぞどうぞと譲られ…またか。全然慣れない。
商業ギルドの紹介状を渡し、離れがいい、と希望を伝えると、空いていたので、まず、見学させてもらうことにした。
支配人のようなお偉いさんっぽいおじさん従業員が、丁重に案内してくれる。
聞けば、やはり、支配人だった。
離れの外観は白壁青屋根、茶色の柱の爽やかな感じ。
ウッドテラスもあり、離れ専用の庭が広がる。
本当に花が綺麗だ。宿泊客は本館の方の庭も自由に散策していいらしい。
中は2LDK。一階は広いリビングダイニングキッチン水回り、吹き抜けになっているが、二階の二部屋はオープンではなく個室。
裕福めの平民の家より遥かに広く、設備も整っていた。
湯船も丸いタイプで大人三人は入れそうな広さだ。
シヴァは即決して三日分前払いをし、鍵をもらう。
ミマスダンジョン内で泊まる気はさらさらない。
「少し大きめの犬も連れて来ていいか?追加料金は…」
「いえ、構いません。何人でお泊まりになられても料金は同じですから。お食事だけは別途請求させてもらいます」
「ああ、じゃ、そうしてくれ。とりあえず、夕食大盛り二人分。ここまで運んで欲しい」
「かしこまりました。お酒はいかがいたしましょう?」
「では、お薦めの美味しいワインがあればそれを」
明日はダンジョンだが、どうせ酔わない。美味しいワインが見つかればラッキーだ。
「かしこまりました」
支配人が一礼して立ち去ると、シヴァは通信バングルでイディオスの所へ念話で連絡した。
『おお、行く行く。また
では、とシヴァはさっさと迎えに行って、離れに戻る。
距離が相当ある転移だが、何度も使っているうちに転移魔法レベルが上がったらしく、省魔力になっているので何程でもない。
『我が急に来ては不審に思われないか?』
「使い魔か何かだと勝手に思うだろ」
『それならいい。…おお!綺麗な庭だな!いい所じゃないか』
「だから、おれだけで楽しむのももったいないかと思って」
シヴァは【チェンジ】でラフ仕様に変え、まずは風呂に入ろう、と湯を溜め出した。
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