148 うけたわま…大丈夫です!
昼から二時間程飛行した所で、やっとヒマリア国の端、ミマスの街が見えて来た。
飛行機より速い騎獣で四時間弱ぐらいかかるのだから、どれだけ国が広いのやら。ほとんど未開の地になってるのも無理ない。
シヴァは『ごろ寝旅』モードを解除して『くつろぎセット』を収納すると、騎竜をバイクサイズにし、シヴァの通常装備に【チェンジ】した。
もう雨が降っていた地域からは抜け出て、曇天模様だ。
一般人が目視で見える所まで来ると、隠蔽を解除して近付き、ミマスの街に入る検問待ちの行列の最後尾から20m程離れた所に降りる。
思わず逃げようとしていた行列に並んでいた人たちだが、竜の上に人がいるのに気付いてか、踏みとどまる。
シヴァが騎竜から降り、騎竜をしまうと、少し安堵したようだった。
驚かせるつもりはないのだが、ある程度は仕方ない。
シヴァは最後尾に並ぼうとしたのだが、ここでも何故か譲られ、譲られ、すぐに先頭まで来た。
ギルドカードを出すとやはり驚かれ、丁重に対応されたが、ほぼ素通りだった。
防犯上、いいのか、それで。
ギルドカードは偽造出来ないそうだから、信頼が厚いのかもしれないが、盗まれた物ということも……ないか。
誰がSランク冒険者から盗めるのか。
ミマスの街は馬で三十分程の所にダンジョンがあるおかげで、栄えた街だった。
ダンジョンが出来る以前は国境の側でも辺境過ぎて、小さな小屋があるだけだったらしい。
ここまで離れると、建物も少々テイストが違い、カラフルな街並みになっていた。ダンジョンで染料の素になる鉱石が採れるのだ。
シヴァはドラゴン肉だけじゃなく、この鉱石も目当てだったりする。
さて、まずはいつものように冒険者ギルドだ。
大通りを歩いていれば、すぐに見付かるだろうが、ここは新しいアイテム【魔眼の眼鏡】を【チェンジ】で装着。
…見え過ぎてギルドらしき所を行き過ぎる。
使いこなすには慣れが必要のようだ。場所は分かったので、【魔眼の眼鏡】は収納に戻した。
ギルドに入ると、受付嬢たちがおしゃべりに花を咲かせ、男の職員たちも暇そうにあくびしていたり、半ば寝ていたりしていた。
まだ三時過ぎ。暇な時間なのだろう。
こんなヌルイ雰囲気だと、さすがにいつものように静まり返りはせず、シヴァは少しホッとした。
依頼掲示板の方に行ってチェックする。
ダンジョンの納品・採取依頼が多いが、通常依頼も他のダンジョン側の街よりはある。
タイラントボア討伐が美味しそうだ、文字通りに。
Bランク依頼だが、この時間まで残ってるのだから構わないだろう。
シヴァは依頼票を取って受付に行くと、まだおしゃべりしていた。
「おい、仕事しろ。これを頼む」
シヴァがギルドカードと共に依頼票を渡すと、面倒臭そうに顔を上げた受付嬢は悲鳴を上げる。
「ひゃああっあっ!…え、えす……し…しつれ……ぎゃっ…」
動揺し過ぎて椅子から転がった。
「だから、仕事しろって。…そっちの人は受注処理出来るか?」
シヴァが隣の受付嬢に声をかけると、
「あ、はい!うけたわま…大丈夫です!」
と舌を噛みそうになっていたが、持ち直していた。
隣に移動して受注処理をしてもらう。
「東の森はここから距離がありますが、大丈夫でしょうか?馬の手配も引き受けますが」
「馬でどのぐらい?」
「一時間はかかるかと」
その辺りが理由か。馬や騎獣を持っている冒険者ばかりじゃないし、借りればそれだけ金がかかる。
「大丈夫。速くて便利な騎獣持ちだ。ついでにお薦めの宿を聞きたい。いくら高額でも構わないが、快適で料理が美味しい所」
「…ええっと、こちらはどうでしょう?『黄金の庭』という貴族、お金持ち向けの高級宿です。お風呂はもちろん、使用人部屋まで付いた部屋もあるそうですが、金貨20枚からです」
「結構、安いな」
貴族御用達で金貨20枚から、か。
海辺のトモスの街、オーシャンビュー露天風呂付き一階の部屋で金貨15枚なのだ。少なくとも倍はするかと思っていたが、広さや設備はどうなんだろう?
一応、場所を聞いて、依頼の前に行ってみることにした。
場所はすぐ分かったが……何かもういかにも派手好き貴族が好みそうなギラギラの宿でまったく趣味じゃなかった。
まぁ、宿は泊まれなければ、ダンジョン温泉宿に行けばいいので、先に依頼をこなすことにした。
ちゃんと門を出てから騎竜に乗り、東の森へ行く。
到着までほんの数分だ。
【魔眼の眼鏡】の千里眼を使うまでもなく、探知魔法にひっかかる。採取に来る人間を襲うタイラントボア、暴君イノシシだ。
放っておくと勝手に増えるので、早目の討伐が推奨されている。
タイラントボアが暴れる前にざっくり首を
一応、周辺を探ったが、危ない魔物はいなかったので、シヴァはさっさと街へ戻った。
何しに行ったんだ?…と怪訝な様子の門番だったが、特に止められはせず、再び街に入り、冒険者ギルドに行く。
そろそろ、戻って来る冒険者が数人いたが、行列が出来る程でもなかった。
シヴァはまず買取カウンターに行き、解体と肉以外の買取金額、討伐証明書類を書いてもらう。
待ってる人がいなかったので、肉はすぐに解体してくれた。スキルがあれば数分である。
それから再び受付カウンターに行く。
たまたま受注手続きをした受付嬢が空いていたので、そこに。
「シヴァ様、何か分からないことでもありましたでしょうか?」
「いや、討伐して来た」
シヴァはそう言って書類を渡す。
「…え、もう討伐したんですかっ?まず移動でかなり時間がかかるハズですが…」
「だから、速い騎獣を持ってると言っただろ。門から東の森まで数分だ。おれはラーヤナ国から一日かからず、ここまで来ている」
「それはまた…速さのレベルが違いますね…」
納得したのか、受付嬢は依頼達成処理をし、報酬と買取金額を支払った。
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