134 長寿ならではの傲慢
アルは影転移で影に入り、そこからキーコバタが目印を付けてくれた4階階段前に転移した。
暑いのでさっさと階段に入ると、暑さがすーっとなくなる。ダンジョンの不思議の一つだ。
【チェンジ】で暑い所バージョンから普通の装備に戻し、4階を覗く。
4階は定番洞窟タイプだった。
しかし、大半のダンジョンのように壁が光っているワケじゃなく、所々に松明が灯り、異様に天井が高く通路も広い。10m四方はありそうだ。
…ということは。
「巨人フロアか、やっぱ」
逃げ場を失うよう洞窟タイプ、なのだろう。
3m~5mの一つ目のサイクロプスが三匹、ひしめき合っている。
一度に出て来るにはちょっと多過ぎだろう。おかげで、お互いの手足がぶつかって、動きを阻害している。
アルはレベルが100を越えたせいか、魔力なしの単なる軽い跳躍で3mは跳べるようになっているので、巨人でも首を
皮膚が硬くて刃が通らない、と聞いたことがあったが……まったく引っかからずスッパリだった。こういった前評判は、アルには例外なことが多い。
サイクロプスのドロップは魔石とその大きな目。
色んな薬になるので買取金額も高いそうだ。
続いて5mオーバーのトロール二匹、同じぐらいのミノタウロス三匹、一番後ろに更に7mはあるスプリガン。
互いに譲らないので、通路に挟まっている。
…これは、油断させる罠なのだろうか。
そう思ってる所で……。
【マスター、弓師の右腕が前腕から切られました。血止めだけにしますか?】
キーコバタから念話が入った。裁量は任されていても確認する。いい判断だ。
『一応、腕を付けてやって。ちゃんと確認入れて来て偉いぞ』
【有難うございます!】
Cランクなのに、予想以上に弓師の女は弱かった。
これはテレストの罪だ。
まだ若いんだから、自分が最後まで面倒見るからいいという、長寿ならではの傲慢。テレストとて不老不死じゃないのだから、不慮の事故で死ぬことや殺されることだってあるだろうに。
アルはトロールの集団を殲滅すると、自分に隠蔽をかけてからキーコバタの側に転移した。
キーコバタが腕を付けてやった後で弓師は周囲を見回して戸惑っていた。
『キーコバタ、おれだ。隠蔽かけて側にいる。この女、結構、元気そうじゃねぇか』
『はい。今までかなり騒いでたんですが、やっと黙ったという所です。弓師の腕を切った巨大マンティスもわたしが倒しました』
『ご苦労さん。過不足なくよくやってくれた。ありがとう。キーコの所に戻っていいぞ』
『はい。いい経験させてもらって有難うございました』
大分、個性が出て来たらしい。
そう言うと、キーコバタは転移して本体の元へ帰った。
アルは弓師の胃に直接睡眠薬を転移させて、強制的に眠らせると、王都から西南の二つ隣の街…スカディの街の側の河原に転移した。
王都に行く時に騎竜で通った場所なので空に出たが、アルは飛行魔法が使えるため、まったく問題なかった。
女弓師も仕方なく風魔法でふんわり降ろす。
割と元気なので、水さえあれば死なないだろうし、スカディの街まで徒歩なら一時間ぐらいだ。方向さえ間違わなければ。
そして、キュアをかけて弓師を起こしてから、アルはさっさとダンジョンに戻った。
******
夕方。
アルは混雑する冒険者ギルドにいた。
朝と同じくドロップ品を売りに来たのだ。
称号持ちのおかげで、マジックバッグもいくつか出たが、どのぐらいなら売っていいのかの基準が分からないので、保留。
ステータスアップのマジックアイテムは山程出たので、珍しくない辺りは売りたいが…と、他の人がどのぐらい出してるのかも見るために、混雑している時間に来たワケだ。
+5は多い、+10は時々、+15稀に、+20完全にレア、という感じか。
そして、ステータスの体力や防御力や素早さは本人が使うからかあまり出ず、知力は元々数が少ないようだ。魔法防御力は結構出るらしく、何度か見た。
マジックアイテムの形は指輪か腕輪が多かった。
ちなみに、素で高ステータスのアルにはまったくいらない。
レベルは114、防御力もSになっているが、防御力が試されるようなこともなければ、怪我もまったくしてないので、レベルに比例して上がったらしい。
そして、さり気なく、たった一日でフォボスダンジョンを攻略して来た。
アルの持っているかなり速い騎竜のように、速い乗用魔道具があれば、そこまで時間はかからないんじゃないかと思う。
五つのダンジョンをあっさりソロ攻略しているアルが言うのは、まったく説得力がないが。
フォボスダンジョンのダンジョンボスは、ロックドラゴンだった!
岩が貼り付いたような鱗でゴツゴツしており、いかにも硬そう!な30mぐらいはある長くて巨大な身体にアルは喜び、久々に風竜刀を使ったのだが……またしてもオーバーキルだった!
六回目のダンジョンエラーだった!
考えてみれば、「硬いと言えばメタルリザード」と言うぐらいなのに、魔力を通してないミスリル刀でザクザク刻める所で気が付くべきだった。
いくらドラゴンの名前は付いていても、岩にそこまでの防御力はないと!
大きくても岩なのだ!
たとえ、Sランクに分類されていても!
粉々に砕かれても、ささーっと集まってくっついて復活していた、Aランクのジャイアントゴーレムの方が強くないだろうか。
いや、動きはゴーレムの方が単純だし、素早くもないが、再生能力ではジャイアントゴーレムに軍配が上がる。
それにしても、五つものダンジョンのダンジョンマスターになると、もう国程度では相手にならない大戦力だよな、とアルは改めて考えてみたりする。
ダンジョンは元々資源扱いされてるし、スタンピードが起こらないよう、ちゃんと管理しているのは、人間にとっては有り難いと思うが、大戦力に疑心暗鬼になり、どこかの国の味方になるのではないかと戦々恐々とし……。
ま、バレなければ問題ないのだ!
アルの順番が来たので、騒ぎにならない程度にドロップ品を出すと、見極めは正解だったらしく、他の冒険者と同じくスムーズに買取金額書類を貰い、受付に持って行くとすぐに支払われた。
王都は冒険者数も多いので、ギルド職員も多く、こういった作業も流れ作業でサクサク進む所がいい。
この調子でしばらく間を置いて売り払って在庫処分したい。
別の街に売りに行った方がいいかもしれないが、そこまで急いでないワケで。
コアたちに言って不要アイテムを何かと引換にしてもらうのも何か違う。そもそも、言えばタダでくれるのだ。
さて、今日はどこに泊まるか。
暗くなって来た今からでは宿が取れないだろうから、キーコの誘いに乗ってダンジョン温泉宿に行こう。
アルが人気のない所まで歩いて行くと、ワザとぶつかって来るスリに遭遇。
人が多いと犯罪も多いよな、と影転移で王都の防壁の外へと飛ばした。
同情すべき所はあるので怪我はさせないが、こんなことしてると痛い目に遭うぞ、という警告のためにも、ねぐらに中々帰れず苦労するといい。
影魔法のレベルが上がったらしく、アルが付いて行かなくても、人や物だけ送ることが出来るようになっていた。
物陰に入ると、アルはキエンダンジョンコアルームに転移する。
【お帰りなさいませ、マスター。フォボスダンジョン攻略おめでとうございます】
「おう、ただいま。今日はダンジョン温泉宿に泊まるから」
【はい!今日と言わず、いつでもどうぞ。マスターのための場所なのですから】
「そうなんだけど、外に出なくなっちまうのはさすがにな~。…あ、そうそう、クルーザーゲットしたぜ!船の魔道具」
【船ですか。それはまたレアなものを手に入れましたね】
「ちょっと構造見たけど、結構、無駄が多いんで、明日、改造するから手伝えよ。内装はほとんどねぇから、内装も作るし」
【かしこまりました。楽しみにしてます】
キーコも色々改造するのは好きらしく、声が弾んでいた。
もちろん、アルも物作りは大好きなので、内装はどうしよっかな~とワクワクと考え出すのだった。
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