135 あれ?冷たい物は?

 一度物作りをし出すと、あれもこれもそれもついでに、となり、クルーザーの構造改良、内装作り、減ったエリクサーをまた作って補充したり、装備をグレードアップしたり、水着を作って海で泳いだり、様々な気候に対応出来るようにして、該当ダンジョンで試したり、改良クルーザーの進水式も、としていたら、気付けば、三日が過ぎていた。


 本当にダンジョンの外に出てないので、これはいかん、とひと段落したこともあって、アルは再び王都フォボスの冒険者ギルドの買取カウンターへ。

 手続きをしてお金をもらうと、全然覗いていなかった依頼掲示板を見てみる。


 朝の混雑はもう治まっている時間帯だった。

 なので、美味しい依頼はなく、ずっと貼ってあるような塩漬け依頼も割とあったり。納品依頼は事後でも依頼達成になり、その納品出来るアイテムのいくつかをアルは持っていたので納めることにした。


「アル様、実績は十分ですので、そろそろBランク昇格試験を受けませんか?アリョーシャのギルドからも何度か、お話があったかと思いますが」


 魔道具通信でそんな情報を共有してしまっていたらしい。


「実績は十分って言っても護衛依頼が一件じゃ、足りてねぇと思うけど?」


 アルトがアルになった時、受けていた商人護衛の一件だけ。

 ダンジョン探索体験二件は護衛じゃなく、案内だ。


「アリョーシャのギルドのギルドマスターの推薦がありますから問題ありません」


 ……ギルマスめ。そんなことしてやがったのか。奢らせた腹いせか。いや、あれはシヴァの時か。


「試験内容だけでも聞きませんか?ギルドによって様々な試験になる、としかご存知ないでしょう?」


「Bランクからは筆記試験もあるというのも知ってる」


「そうです。講習を受けてもらってその後の試験に合格する必要があります。Bランク昇格試験の受験者たちの大半は、実地に問題のない方々ばかりなので、まず、筆記の方から始めてもらいます。人数を絞るワケですね」


「それで実地試験の内容は?」


「ここ王都の場合は貴族がご自分の領地に帰る時の護衛に、Bランク昇格試験受験者も混ざることになります」


 こちらは交通機関が発達してない世界だ。

 かなりの期間、拘束されることになるのか。

 その貴族がいい人ならいいが……大半は逆だろう。王都なので貴族のゴリ押しがあったのかもしれない。


「まっぴら。昇格試験は受けねぇ」


 じゃな、とアルはさっさと踵を返し、ギルドを出た。

 エイブル国アリョーシャの街の冒険者ギルドのギルドマスターリックは、王都のBランク昇格試験の内容を知っていて根回ししたのかもしれない。アリョーシャで受けた方がマシ、と思わせるために。

 まぁ、アルのランクは、しばらくCランクで据えおき決定だ。


 王都の市場の方は覗いてなかったので、そちらに行くことにした。

 相場が高いのは予想していたが、食材全般が少なかった。アリョーシャのような食材ダンジョン以外だと、普通はこうなるらしい。

 海辺のトモスの街は魚介類はたっぷり、野菜類ももっとあったのは、ダンジョンだけに頼らず、周辺に農家が多かったのもある。


 マジックアイテムが多いダンジョンは、魔道具屋も多かった。

 どれだけ冒険者ギルドが安く買い叩いているか分かるが、自分で商人に売るのなら余計なトラブルになりそうでもあり。

 魔道具の方は見たことのない物も多くて面白かったが、欲しいと思うものは中々ない。


「魔道具作成の本って取り扱ってない?」


 アルはちょっと訊いてみた。


「あいにくとございません」


 どこかの魔道具師の見習いか弟子か?…という視線を店員に向けられた。見習いか弟子なら、本買って来い、はないし、弟子自身で買える程の財力はないだろう。


 フォボスダンジョンのコア、フォーコにボスドロップでねだればよかったが、あの時は思い付かなかったのだ。

 アルが頼んだのは「英雄譚、勇者が出て来る話の本」だった。

 そういった伝わってる話の中に真実がある、というのはよくあることなので、チェックしとこう、というのもあるし、単に娯楽が欲しかったのもあった。


 魔道具作成の本は、今度、フォーコに頼んでおこう。

 マジックアイテムが多い所だと、何だか詳しそうなので。

 オーブも所々で取り扱っていたが、そこそこ種類があって魔力を溜めるだけの物でも結構、高い。

 Sランク冒険者のテレストの金銭感覚が違うだけで、一般的にレアものだろう。

 ボルグが安く買い叩かれそうになって売らなかったのも、正しい判断だった。


 王都ではおかずクレープみたいに、ピタパンに味付けした肉と野菜を入れてくるりと巻いた物が流行っているようで、いい匂いにつられてアルも買ってみた。

 …うん、安いうさぎ肉で硬めだが、これはこれでいいんじゃないだろうか。


 エイブル国アリョーシャの街より、ラーヤナ国王都フォボスは北にあるのだが、山に囲まれた盆地であまり風が通らないからか、アリョーシャより気温が高い。

 しかし、暑くなって来た今日この頃、冷たい物は売ってない。


 氷魔法の使い手は割といても商売で使ってくれる人は少なく、更に食べられる氷が作れる人はもっと少なくなるからだ。

 商売にする程、牛乳と卵と砂糖を用意するのは大変だし、安い値段では採算が取れないのでアイスは売れないが、かき氷を売ったらボロ儲けだろうに。

 かき氷器とシロップと紙コップとストロースプーンだけだし。

 ちょっと思い付いたアルは、キエンダンジョンコアルームに戻った。


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