127 三毛猫にゃーこ誕生!
シヴァがダンジョン島に行った後、すぐにアルになって宿に帰ればバレバレなので、アルに戻ってディメンションハウスの中で時間を調整する。
アルは対外的には「ダンジョンで魔力使った後、空飛んでの往復でも使ったから、少しは回復するまで休んでいた」だ。
海鮮焼きうどんを作って食べた後、久々にディメンションハウスで風呂に入る。慌ただしかったのだが、大して疲れていない。
それは高ステータスとこの世界と冒険者生活に慣れて来たこともあるのだろう。
どんな時でも風呂はいいものだ。
【マスター、キーコです。今よろしいですか?】
そこに、通信バングルにキーコから連絡が入る。
「おう。どうかしたか?」
【トモスダンジョン攻略、おめでとうございます。ご宿泊されている宿と似たような設備作りが完成しました。すぐにでも利用が可能です】
「え、もう?早かったな。じゃ、そっちに行くよ」
アルは風呂から上がるとさっさと着替えて、キエンダンジョンコアルームに転移した。
キエンダンジョン温泉宿(アル命名)はボス部屋の更に上の最上階フロア。
不定期に動いているコアルームとも転移で繋いでいるので、容易な行き来が可能だった。
「おぉ!マジで海まで再現してあるし。素晴らしい」
見せかけの空だとしても、人目も魔物も気にせず外気分が味わえればいいのだ。
今泊まっている宿とほぼ同じ建物だが、立地は違い、白い砂浜がある海がもっと近く、他の建物はない。
緑溢れる落ち着く庭ぐらいで。いくつか建物を作っても利用するのはアル、たまにイディオスだけ。必要になったら増やせばいい。
『有難うございます。中も出来る限り再現しました』
調査を担当した蝶のキーコバタがアルについて来ながら、そう誇らしげに言う。
ほぼ何でも作り出せるコアなので、家具小物雑貨も用意してもらったのだ。
ダンジョンの自浄作用があるし、それで足りない所はコアが補うので、アルは手入れや維持の手間の心配すらない。
自信満々な通り、かなり丁寧に再現されていた。
従業員までいる。
…従業員?
『ゴーレムです。料理の提供は一瞬で出来ますが、配膳された方がマスターの好みかと思いまして』
「ファインプレーだな!」
『?すみません、マスター。どういった意味でしょう?』
「ああ、ごめん。異世界語だ。おれが思い付かなかったことまで考えてくれて、すごいな!って褒めたんだよ」
『有難うございます!』
「でも、顔がないのは頂けない。そうだな…二足歩行して配膳も出来る猫に出来るか?もふもふの。サイズは小柄な人間ぐらい150~155cm」
マネキンにすら劣る目鼻立ちも何もないつるんとしたのっぺらぼうのゴーレムだったので、アルはそんなことを希望してみた。
もふもふの猫型は和む。
『イディオス様のようなもふもふでしょうか?』
「そうそう。撫で心地も大事。ゴーレムなら抜け毛もねぇだろ」
『はい。ありません。変更します』
キーコバタがそう言うと従業員担当ゴーレムが、希望通りの二足歩行する猫になった。
白地に黒茶の三毛猫だ!肉球はピンク。
「キーコバタ、お前は本当にいい仕事するな!」
早速、猫ゴーレム従業員を撫で回すアルである。大きいだけで本物そっくりの撫で心地でゴロゴロと喉まで鳴らす。
『そう言って頂けると嬉しいです!』
「しかし、おれは気付いてしまったぜ。【ゴーレム作製手袋】っていうマジックアイテムを持っていても、使う機会なんか訪れない、と!」
どういった機能を付けられるのかも不明だし、こんな風に毛皮のゴーレムを作れるなんて思いもしなかった。
色々強化アイテムまであるが、コアが作るゴーレムより圧倒的に下の性能だろう。
『マスター、それは喜んでいるのか、哀しんでいるのか、どちらでしょうか?』
「どっちも。ちょっと喜び寄り。複雑ってことだな」
猫従業員も一緒に宿内を見て回る。多少足らない物もあったが、アルの収納に色々入っているので問題ない。
「よし、お前は【にゃーこ】な」
猫ゴーレム従業員は長いので名付けた。
「にゃーん」
話せはしないらしいが、それがいい。
キーコバタに親指を立てる。
『お褒め頂き有難うございます』
異世界でも通じるジェスチャーか。
「そういえば、あの海って泳げるのか?」
『危険な生き物がいないか、水質は人間に安全かという意味なら、どちらも安全で実際の海と同じ成分です。マスターが泳げるのでしたら泳げます』
「じゃ、生き物はいねぇってこと?」
『ご用意も出来ますが、どうしますか?』
「外に出なくなりそうだから、なしで。水着作っとこ」
今のバイクの内部構造の応用で、マリンバイクも簡単に作れそうだ。
水流操作でも同じ事が出来るかも?
…魔法実験場としてもいいか。
『ご用意出来…』
「自分で用意するからいいってこともあるんだよ。確かにキーコたちのセンスはいいけどさ」
『それは失礼しました』
そろそろ時間も過ぎたので、アルはキーコ本体にも労った後、ダンジョン島に戻った。
******
もう外はかなり薄暗くなっている。
夏で日が長いからまだ完全に暗くなってないだけで八時を過ぎている。
イレギュラーな事態で何も言ってないので、宿の人たちは心配しているかもしれない。
アルはちゃんとバイクに乗って港に戻り、冒険者ギルドもそろそろ閉まる時間なので寄らず、宿に帰った。
「アル様!心配しておりました。往復船が魔物に襲われて壊れたそうですね。ご無事で何よりです」
やはり、宿の従業員は心配していたが、アルも往復船に乗っていた、と思っていたらしい。
「いや、おれは乗り物の魔道具で島まで行ってたんで往復船には乗ってなかったんだけど、港に着いた所で魔物に襲われた話聞いて、島で会ったSランク冒険者を呼びに行ったんだよ。ダンジョンでも魔力使ってたのに、更に往復したんで魔力が厳しくなっちまってさ。休んでただけ。心配かけて悪かったな」
「とんでもございません。ところで、アル様、お食事の方、まだご用意出来ますがいかがしましょう?」
取って置いてくれたらしい。
「じゃ、用意して欲しい。部屋まで運んでくれ」
確か、そういったサービスもあったハズ。
軽食の焼きうどんしか食べてないので、まだまだ胃袋は空いている。
「かしこまりました。先にお飲み物をお運びしますが、冷たい果実水でよろしいでしょうか?」
上客へのサービスは満点だった。
「ああ、よろしく」
こういった所でダンジョン温泉宿は本物の宿に適わないのだが、また泊まりに来ればいいことだった。
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