126 船の乗客に告ぐ!もう大丈夫だ。
アルがバイクの飛行モードでトモスの港まで行くと、何やら人が集まっているので、少し離れた所に着陸。
【チェンジ】でさっとバイクをしまう。
「何かあった?」
「…あーええっと…」
「おい、この兄ちゃんに頼めばよくないか?空飛ぶ乗り物使ってたしっ!」
「だからって、かなり危険だぞ。冒険者ギルドの対応を待った方が…」
「様子を見て来てくれるだけでも…」
「だから、何があったんだ?海の魔物が出た?」
「そうだ。ダンジョン島との往復船にでかい魔物が襲って来て故障した、と連絡があったんだ。通信の魔道具があって。操作が出来ないって言ってたから、早く助けないと沖に流されちまう…」
「つまり、助ければいいんだな?ダンジョンでSランク冒険者に会ったんだ。あの人なら多分、船ごと助けられるし、魔物も退治出来るぞ。ちょっと呼んで来よう」
アルは再びバイクを出すと、飛行モードにしてダンジョン島に戻った。
そして、バイクをしまうと【変幻自在魔法】と【チェンジ】と【ボイスチェンジャー】でシヴァになる。
ミエミエ過ぎるような気がするが、人命優先。多少のアラは後で辻褄を合わせよう。
シヴァはバイクサイズの騎竜を出して乗り、沖へと向かう。
往復船はすぐ見付けた。
沈みそうではないが、大きい魔物の気配がするので、先に避難させよう。
船ごと結界で包み、風魔法で声を大きくして往復船の乗客たちに届かせる。
【船の乗客に告ぐ!もう大丈夫だ。安心してくれ。おれはSランク冒険者のシヴァだ。船は既に結界で包んであるので、また魔物が襲って来ても壊れることはない。今から港の方に船を運ぶ。方法はおれの人工騎獣風竜を大きくして船を押す。慌てないで座っててくれ】
シヴァは言った通りに騎竜の大きさを船より大きくし、船の後ろから押す。
騎竜は速さ特化で本物の竜のようなパワーはないので、水魔法で水流も動かす。
…思ったより楽に動かせるので水流だけでもよかったかもしれないが、まぁ、「これがSランクだ!」みたいな演出は必要だろう。
ダンジョン島との往復船なので船の乗組員以外は、冒険者なこともあり、驚いてはいたが、変に騒ぐようなことはなかった。
港の桟橋まで往復船を運ぶと結界を解除し、シヴァは騎竜をバイクサイズに戻してから引き返した。
往復船にぶつかった魔物は、おそらく、このマーダーシャーク。
名前の通りに好戦的なBランク魔物で5mもある。海辺に暮らす者たちの天敵であり即討伐推奨魔物だ。
シヴァは海水を操作してマーダーシャークを空中に放り上げると、騎竜から下り、簡易結界を足場に跳び上がって大剣で頭を
宙にあるうちに頭も身体も軽く手で触れて【チェンジ】でマジックバッグに収納し、再び騎竜に乗って港に戻る。
冒険者ギルドから応援が来たのか、更に人がたくさん集まっており、降りる場所がないので、そのまま飛び降り、騎竜を収納する。
飛行魔法を使うまでもない。高ステータスの身体能力だけでまったく問題なく着地。…周囲は驚いたが。
「怪我人は出なかったか?」
近くの人に訊いてみる。
「…あ、はい。大丈夫みたいです」
「じゃ、ギルドに行くか」
騒がれてもうるさいので、シヴァはさっさと移動する。
マーダーシャーク、美味いのだろうか?鑑定で見てそうでもなかったら、丸ごと売るか。美味いのなら肉だけ戻してもらう。
騒がしい冒険者ギルドだったが、シヴァが入った途端、徐々に静まって行く。
往復船を助けた冒険者の人物風体を教えに誰か走ったとしても、間に合う時間じゃないので、かなり異質だと思うらしい。
シヴァが買取カウンターの列に並ぶと、前の冒険者たちが「どうぞ」「どうぞ」と譲ってくれるいつもの流れ。
「おれはお年寄りか!」
そうツッコミを入れたくなるが、どうも機嫌を損ねると怖いと思うらしい。
「解体を頼みたい。マーダーシャークが丸ごとあるんだが、どこに出せばいい?」
「じゃ、裏の倉庫に行って…マーダーシャーク?この辺で討伐したのか?」
「ああ。魔物が往復船にぶつかったせいで故障したそうでな。多分、マーダーシャークが原因。近くにいた大きい魔物はこいつだけだったんで」
「そうか…ってギルマスっ!もう、ここにいるぞっ!功労者のSランク!」
話が早くないか?…と思った所でシヴァは気が付いた。
船には通信の魔道具があるのだから、助かってすぐギルドに連絡したのか。
買取担当のおじさんが後ろに向かって叫ぶと、奥の部屋にいた職員たちが出て来た。
ここのギルドマスターは女性らしく、職員たちの先頭に立ち、キビキビと歩いて来る。男勝りなタイプらしく、ショートカットで男の職員と大差ない格好をしている。
「ラミル、嘘言ったら承知しないからね!どいつが……あ、あなたがSランク、の?」
「シヴァだ」
【チェンジ】で手元にギルドカードを出して見せた。
が、女ギルマスは手に取ろうとしない。
「ギルマス!見惚れてちゃダメですよ!仕事して仕事」
男の職員がツッコミを入れる。
「あー…失礼。トモスの街冒険者ギルドギルドマスターのヘラよ。確かにSランク冒険者ね。でも、Sランクになったばかりのシヴァは、エイブル国のアリョーシャの街で活動しているって話を聞いたのはほんの三日前。こんなに短時間でここまでどうやって来たの?」
シヴァは返されたギルドカードをさっさとしまうと、騎竜を出した。バイクサイズで。
「これだ。人工騎獣風竜。船の乗客や港にいた人たちなら見てるが、かなり速い。アリョーシャからここまでは二時間程で着く。色々寄り道をしていたから正確な数字ではないがな」
「…嘘。たった…たった二時間?速い魔獣馬車でも二ヶ月かかる所を?」
二ヶ月もかかるのか。休憩も必要になるから、というのもあるだろう。
「そうだ。ここにおれがいるのがその証拠だろ。で、用事は?」
「あ、そうだった。…故障した船をどうやって港まで運んだの?事情を聞きたいんだけど」
「見ていた奴が大勢いるんだから、そっちから聞け。別に報酬が出るワケじゃないんだろ。…買取担当の人、倉庫は裏だったな」
シヴァは騎竜を消して促す。
「お、おお。…お?」
買取担当のラミルは、戸惑いながらもシヴァを裏の倉庫に案内した。
5mあったとはいえ、頭と胴体は分かれているので、出せる場所があった。
鑑定してみると、【身は美味しい、ヒレはフカヒレに!】とのことだったので、魔石と身とヒレももらう。
「…間違いなくマーダーシャークだ。すごい切断面だな。このでかいのをその剣でズバッと?」
「ああ。海水を操作して宙に浮かせてから」
海水を動かすなら、ウォーターカッターにすれば、という話だが、シヴァは一応剣士なのである。
この大剣もレア素材をたくさん使った合金で、現時点での最高品質だ。
風竜刀のように武器自体に特殊なスキルが付いてしまうと使いどころが難しいので、そんな風にならないよう気を付けたぐらいだが、魔力を通さなくても【斬撃強化】付与で抜群の切れ味だったり。
「……5mもの巨体を?」
「割と簡単だぞ」
浮力がどうのと言った所で理解出来まい。
洗面器をひっくり返して風呂に入れて押さえると、弾むように浮いて来る、というたとえ自体、風呂に入る習慣がない人たちが大半なので、そんな遊びをやったこともないワケで。
「…Sランク冒険者ってさ…」
「いや、待て。他のSランク冒険者に怒られそうだから、そういった理解はやめてくれ。おれは規格外だ」
「他のSランクもそう言いそうだな」
「それで解体にどのぐらいかかる?」
「十分で。おれは解体スキル持ちだから速いんだ」
「じゃ、ここで見てる」
解体スキル持ちはどうやって解体するのか、興味があった。
「見てても分からんと思うが、まぁ、自由にしろ」
そうも速いのか、とシヴァは念のため、目に魔力を集める。動体視力も上がるのだ。
ラミルの動きは本当に速かったが、シヴァには見えていた。
所々ショートカットしているのは、解体スキルレベルが上がるごとに増えて行くのだろう。
ふむふむ。魚系の魔物なら出来そうだな。丸ごとの荒巻鮭を何度もさばいたことがあるのもあって。
本当に十分で解体は終わり、買取金額書類もささっと作った。
魔石と身とヒレを【チェンジ】でマジックバッグに収納して行く。
「アイテムボックス持ちか?」
「空間収納じゃなく?」
「そっちは滅多にいない。アイテムボックス持ちは時々いるんだ。容量はそれぞれで、時間停止あるなしもそれぞれだけど」
「そうなのか。エイブル国では聞いたことがなかった。おれのは魔法でマジックバッグに出し入れするのを簡単にしているだけだ。元は着替えの魔法なんだがな」
白バージョンに着替えて見せる。髪色と目まではやらない。
「…おおっ!一瞬だな。…って、金持ちめ。黒の方もすごかったのに、白の方もとんでもない装備だな」
「装備を充実させない冒険者は三流以下だろ」
よく見せてくれ、と言われそうなので、シヴァはさっさと黒バージョンに戻し、ギルド内に戻って受付に向かう。
が、またしても「お先にどうぞ」と譲られ先頭に。
シヴァが買取金額書類を出すと、すぐに支払われた。まぁまぁの稼ぎだ。
女ギルマスが何か言いたそうにしていたが、シヴァはスルーして冒険者ギルドを出る。
報奨金を出したくても出せないギルドの予算事情なのだろう。報奨金を出すなら船会社の方だと思うが、別に頼まれたワケじゃないので請求する気はない。
冒険者を運んで送迎しているワケだから、冒険者ギルドと何らか契約があるとは思うが。
人が集まって来る前にシヴァは騎獣を出して乗り込み、そのまま隠蔽はせずにダンジョン島へ向かった。
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