125 美味しいイカ身をドロップしやがれ!

 ダンジョン島に戻ったアルは、普通の転移で21階の階段手前まで戻り、ダンジョン探索を再開した。


 22階はトロッコ鉱山フロア。

 短い距離のトロッコを乗り継ぎ、宝箱を探したり、出口を探したりするのだが、当然ながらトラップ満載。

 魔物も上から下から後ろから横からと、たくさん襲って来るし、正しくないルートに入り込むと、到着した所はモンスターハウスだったりするのだ。

 鉱山だけあってゴーレムが多い。


 では、トロッコを使わなければ?

 ゴーレムが多いただの鉱山だった。

 アルはそれもつまらないので、三割ぐらいは乗らなくてもいいトロッコに乗って魔物たちを斬り捨てて回り、少し遊んでから次の階へ進んだ。



 23階は魔物猿山フロアだった。

 猿の魔物しか出て来ないのだが、その種類の豊富なこと。

 軍隊並みの連携を見せる種類の猿、ソルジャーモンキーが厄介、と噂されていたが、一人相手に軍隊という鈍重な団体では不利に決まっている。いや、アルが相手だと魔物の方が常に不利か。


 さすがに一々斬って行くのも面倒な数になって来たので、魔法を多用。

 どうせなら、と殲滅魔法を色々と試してみたが、環境への被害も甚大だった。まさか、猿山ごと吹き飛ぶとは思わなかったのだ。

 大したドロップじゃないので、それは別にいいが、魔石はA~Cで色々と利用出来るので、せっせと収納。

 ダンジョン以外で殲滅魔法は絶対に使わないようにしよう。



 24階は草原、虫系魔物フロア。

 蜂系魔物はドロップがはちみつなので張り切って殲滅したが、後は適当に斬り捨てる。

 ここは残念なことに、蜘蛛系魔物はいても、ドロップが糸や布じゃなかった。魔石以外は毒と牙。


 虫は小さいからこそ、気付かず刺され病気の媒体になって脅威なのに、魔物の虫はどいつもこいつも大きいので隠密性がかなり失われているのだ。

 それで行くと、アリョーシャダンジョンの蟻地獄は隠密スキルを持っていたのは偉い。…アルにはバレバレだったが。



 25階は沼フロア。

 カエル系トカゲ系蛇系、揃い踏みだった。

 カエルのドロップ、粘液が接着剤や防水コーティングと色々使えるそうなので、多目に狩っておく。

 トカゲ系は殲滅する勢いで。色々作ったが、トカゲ革は軽くて伸縮のあるタイプもあって使い勝手がいいのだ!

 ダンジョンマスターなんだから、コアたちに出してもらえばいい?

 自分で狩るからこそ、意義があるのだ!…多分。



 26階は階段迷宮フロア。

 幾重にも重なる階段、上っているのか下りているのか分からなくなるような錯覚、幻惑、隠蔽の魔法もかかっており、人間の方向感覚を狂わせる。

 更に、魔物も襲って来るので、現在位置すら分からなくなり、踊り場ぐらいしか休憩出来る所もなく、疲れ果てて行く……。


 このフロアでつまずいて攻略が進んでなかった。

 つまり、ここが今までの冒険者の最高到達階層なのである。

 状態異常耐性があるアルも少し惑わされたが、探知魔法で下層へ続く階段は分かるので、邪魔な階段は破壊しまくって力技で押し通った。

 これ以外の正解はないんじゃないか、とアルは思う。



 27階は火山フロア。

 火属性魔物が目白押しだが、アリョーシャダンジョンの火山フロアとラインナップがあまり変わらない。

 …ああ、上位種がこっそり紛れてる程度か。火竜ぐらいはいて欲しかった。

 改良版『少し涼しい服』が大活躍で快適だった。寒過ぎる温度には下げられない所もポイントが高い。

 学習したアルは氷魔法は使わず、地道に斬って捨てて回って突破した。



 28階は夜フロア。

 いつでも夜のフロアで、真っ暗ではなく、もうダンジョン外では見れない月夜で意外な程明るい。廃墟になった街だった。

 アンデッドが出る舞台には相応しいかもしれない。

 しかし、ヴァンパイアやレイスやリッチの上位種はいても、ノーライフキングやドラゴンゾンビはいない。普通ならどちらもボスクラスか。

 ドラゴンゾンビが普通にアンデッドフロアにいた、アリョーシャダンジョンが少々変わってるのかもしれない。


 聖属性の武器が作れる【ユニコーンの角】があったな~、と思い出したアルだが、実体のないアンデッドでも回復魔法で別に問題なかった。

 アルなら反則技で、コアたちに聖属性魔法のスクロールをもらうことも出来るのだが、聖属性魔法はあまり使う機会がないワケで。

 ユニコーンの角がつい忘れられていたのも同じ理由だ。

 そんなことを考えながらサクッと踏破し、次の階へ。



 29階は城フロア。

 かなり広い城で、どこに行けばいいんだ?…となりそうだが、最上階だ。

 そこに30階、ダンジョンボスへと続く扉がある。

 親切にも階段を出てすぐの所の石板に書いてあった。

 未攻略ダンジョンなので、コアも暇だったのかもしれない。


 門衛は槍を持ち鎧を着けたリザードマン。

 これを突破したら門が開く、というワケではない。

 次々と応援を呼ばれ、兵士の魔物が集まって来る。空からもワイバーンが。

 魔物の国があったら、こんな感じだろう、といったイメージを実現したのだろう。


 人間社会をマネし過ぎ、魔物特有の能力を殺してしまっていた。

 つき合ってやる義理はないので、結界を足場に空へと駆け上がり、邪魔なワイバーンの首をね、外から城の最上階へ行き、窓をくり抜いて中に入った。

 階段フロアのような幻惑、隠蔽も罠も何もかかってない。


 このフロアは撤去だな、と考えつつ、アルはボス部屋に続く扉を開いた。

 開いてすぐは階段で下に下りると廊下があり、片方は大きく装飾も凝った扉、もう片方は装飾はそこそこの小さな扉。

 小さい扉が転移魔法陣だろう。アルは扉を開いて確認してから、大きい扉を開いた。



 ボス部屋にしては今までで一番広く、隠蔽してあるワケではなさそうなのに奥も横も壁が見えない。

 部屋は海で砂浜が広がっていた。

 そこに水しぶきを滴らせて浮上して来たのはクラーケンだ。

 砂浜で浅いから巨体が隠せない、というワケじゃなかった。

 同化スキル持ちだろう。

 ダメージが通らない、とは聞いたが、アルには関係なかった。魔力を通していなくても普通にスパスパ斬れる。


 美味しいイカ身をドロップしやがれ!

 その思いを込めて丁寧に斬り刻む。

 思ったより再生能力が高いが、核が隠せなさ過ぎだった。

 魔力の流れが見える者にとっては、「ここですよ~」と手を振られているのと大差ない。


 五分ぐらいで討伐したが、それでもソロ討伐は想定してなかったらしく、ダンジョンエラーになった。

 五回目だ。


 アルは美味しいイカ身をゲットするべく、さっさとダンジョンコア部屋の位置を探り、次元斬で出入口を作り、一応罠がないかどうか確認してからコアに触れた。

 やはり、ダンジョンコアルームは、瀟洒しょうしゃな台座にコアが載ってるだけの素っ気ない部屋だった。


【ただいま、エラー修復中です。ダンジョンボス、クラーケンの討伐、おめでとうございます。ドロップはもう少しお待ち下さい】


「ドロップ品、美味しいイカの身盛りだくさんにして。後は魔石だけでいい」


【かしこまりました】


「ここのダンジョン、ダンジョンマスターっているのか?」


 【冒険の書】を見てなかった。


【不在です。あなたにはその資格があります。ダンジョンマスターになりますか?】


「ああ。でも、登録は修復後って言うんだろ。待ってるよ」


 アルはソファーセットとお茶セットを出し、さっさと休憩することにした。おやつに作り置きサンドイッチだ。

 休憩に向いてないフロアばかりだったので、ほとんど休憩してなかった。

 アルの場合、結界を張れば安全にゆっくり休憩出来るものの、いかんせん、景観が悪過ぎた。


 おやつを食べながら、アルはギルドに売る素材を考えた。

 魔石と食材以外は全部でいいが、そうなると攻略したのがバレるだろう。深層の物は残して、他の街で売るか。

 …ああ、シヴァになって売れば不思議じゃない。こんな時のSランクだし。


 しかし、アルもあまり目撃されていないとはいえ、シヴァは街にいないのだから不自然過ぎだ。売るならもっと離れた他の街だな。

 騎竜で遠出して転移出来る範囲を広げておくのもいい。他の神獣と会いに行きがてらでも。


 程なく、エラー修復が終わり、ドロップ品をもらうとアルはダンジョンマスター登録した。

 そして、通信バングルを渡す。


「おれのステータスのダンジョン探索履歴で知ってるだろうけど、三つのダンジョンのマスターやってて、ここで四つ目だ。その通信バングルはおれとコアたちと話せる。お前はトモスダンジョンのコア【トーコ】な。他はキーコ、アーコ、パーコ」


【わたしはトーコ。有難うございます、マスター】


「おう。で、今、みんなでちょっと色々やっててさ。トーコも協力してくれ」


【ご随意に。ですが、マスター。ご命令ではなく、頼みなのでしょうか?】


「そう。興味なけりゃ協力しなくていい。コアそれぞれの個性があるから、それは大事にしたいんで」


 他のコアたちにもそう言ってるが、面白がって協力してくれている。

 アルが持つ異世界知識や異世界物が興味深いというのもあって。



 ステータスボードを表示してみると、レベルが108になっていた。

 蜂系魔物(はちみつ)とトカゲ各種(トカゲ革)以外は、ほとんど通り抜けるのに邪魔な魔物を倒しただけなのだが、経験値的には多い魔物でもいたのかもしれない。


「じゃ、詳しい話はコアたちに聞いて」 


 おやつの後、アルはそう言って手を挙げるとコアルームを出て、30階の転移魔法陣で1階へ転移。

 ダンジョンの外はもう夕暮れ時だった。

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