120 それなら何の形でもよかったのでは
イディオスはこの街でも人気で、色々とオマケしてもらった。
海辺の街というと、何となく荒くれ揃いかと思ってしまうが、陽気で豪快で優しい人たちが多かった。
豊かな街なので生活に余裕があることも関係しているのだろう。
港の方もイディオスと見学し、宿に帰ってもイディオスは歓迎された。
上客の犬、だと思っているが、極上の毛並みと落ち着いた態度、神獣の持つ清らかで
夕食はもうちょっと遅い時間にしてもらい、先に部屋の露天風呂へ。
『おおっ!すごいな、この設備。高い部屋じゃないのか?』
「そう。稼ぎまくってるおれには大した額じゃねぇし」
『今日も稼いだのか?』
「そこそこな。人魚の話、聞きたい?」
『…聞かない方がよさそうだが、今後の参考のためにも』
ラミアの話はしたことがあるので、警戒しているようだ。
その辺の話は、風呂に入りながらにする。
イディオスは洗ってやって以降、ちゃんと【クリーン】を使ってるらしく、綺麗な毛皮だったが、マッサージ効果もあるし、艶も出るのでまた洗う。洗い場のあるシャワーもちゃんと付いていて、家族で使う仕様なのか、結構広かった。
源泉かけ流しの池のような広さのある露天風呂は、イディオスもすぐに気に入った。
ちなみに、イディオスはふわふわだが、濡れてしっとりしてもシュッとスマートで格好良くなるだけで、情けなくはならない。
『これはいい風呂だな!』
「ああ。温泉だしな。…そうだ。コアにタンクをたくさん作ってもらって、汲んで行こうっと。ディメンションハウスでも入れるように」
『そんな手間をかけなくても、分析すれば作れるんじゃないか?』
そうかもしれない。
「情緒とかが問題なの!しばらく、宿ライフを満喫したい所だけど、こうも高級宿にずっといられる資金力って辺りで、権力者や商人たちに色々ちょっかいかけられそうだし~」
『確かに面倒なことになりそうだな。…あ、そうだ。ここごと、コアに再現させたらどうだ?風景を絵にする魔道具か何か作れるだろうし、庭だってダンジョン内に草原や森が作れるんだから可能だろう』
「おおっ!その手があったか。コアに出張して来てもらう、とか出来ると簡単でいいんだけど。コアの子機…分身みてぇなの作って」
思い立ったが吉日、とアルはそのまま通信バングルで訊いてみた所、子機も宿再現も可能だとのことだったので、風呂を出てイディオスを乾かした後、アルはすぐに転移で分身を迎えに行った。
うろちょろしていても、大して気にされない蝶の形だった。
「いや、気にするだろ。おれ、ダンジョン以外で蝶って見たことねぇぞ」
『隠蔽魔法を使いますから問題ありません』
それなら何の形でもよかったのでは。
『マスター。申し訳ありませんが、たびたび魔力を注いで下さい。動く分には浮遊魔力で十分なんですが、魔法を使って調査をするとなると魔力不足になります。それを改善するにはかなり大きな魔道具を持ち込む必要がありまして…』
「いやいや、そう恐縮しなくていいよ。その程度問題ねぇから」
『有難うございます。一度、トモスの街に来れば、キエンダンジョンへの転移は自分で出来ますので、後の調査と宿建築はお任せ下さい』
「おう、よろしく」
アルは蝶を連れて再びトモスの宿に転移し、バタコア(命名・バタフライコアの略)を自由に飛ばせた。
『蝶か。あのサイズでも魔力は足りるのか?』
窓辺に寝そべっていたイディオスが訊く。
「やっぱ足りねぇらしい。魔力補給はおれで」
『そうなるだろうな。あの蝶、心なしか喜んでるように見えた』
「バタコア。バタフライコアで略して。こんなマスターじゃなければ、バタコアでも気軽に外に出ることなんかなかっただろうしな」
ダンジョンコアはニーズに応えるためにも、日々人間社会の情報収集をしている。
どこでも紛れ込めるレイスを使っているそうで、過不足なく情報は集まっても、コア自身が出かけて見知ったワケではない。
そして、自分で分身を作って外に出ることも考えなかったことだろう。
色々学習して感情も出て来たコアなので、イディオスの言うように喜んでいるようだ。
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