110 壊すのが一番得意
翌日。
朝食後、イディオスは住処の森に転移で帰した。
あそこは魔力が濃い場所で、強い魔物が生まれ易く、また魔物たちの牽制のためにも、神獣があまり離れているのもよくないらしい。
シヴァになったまま、一晩経っても全然問題なかったので、Fランク依頼を受けることにした。アリョーシャに戻って。
Fランクの依頼は、定番薬草採取や雑用だ。
ウラルたちの体験でアルは付き合ったことがあっても、自分で依頼を受けたことはない。
しかし、新人の仕事を奪ってしまうのも本意ではないので、報酬が安過ぎてずーっと残っている「屋根の修理」「外壁の修理」「排水溝掃除」「廃墟の撤去」「空き家の掃除」の五つをシヴァが受けることにした。
「…あの、本当によろしいのです、か?」
おずおずと受付嬢が聞き返す。いつも元気な受付嬢なのに、相当後ろめたいのとシヴァのせいだろう。誰が見ても高価な装備でいかにも強そうなのに、雑用をやらせるのは、と。
それでも、Fランクなのだから平等に扱って欲しい。
「ああ」
「大変だと思いますが…」
「そうでもない。魔法が使えるからすぐだ」
「そう…ですか」
どうやって魔法で?と思ったようだが、受付嬢はそれ以上引き止めはせず、依頼受注の手続きをした。
では、とシヴァはまず、「屋根の修理」依頼へ。これが一番依頼を出した日時が古い、というワケじゃなく、雨漏りなので一番困ってそうだからだ。
アリョーシャの街は区画整理が出来ておらず雑然とした雰囲気の街で、色々と混じっている感じだが、一応、領主の館を中心にその周囲を貴族の屋敷がそこそこ並び、防壁の側程、低所得層の住まいになる。魔物の攻勢があった時、一番危なくなるので土地も安いし、余っている。
農業や農家を本格的にやっている人たちは防壁の外。
防壁内ではそれなりに広い畑持ちの家が多い、
中の下ぐらいの家庭だろう。
「Fランク冒険者のシヴァだ。屋根の修理の依頼を受けて来た。ここでいいのか?」
「……あ、え、はい。ここですが…」
戸惑う中年女性に付き合ってると話が進まないので、シヴァは「失礼」と断ってまず、家の中のどこが雨漏りしているのか点検した。何度も雨漏りしたらしく、天井板が腐っている。
手持ちの木材で似たような天井板を錬成したが、取り替えるのは後回しで、外側に回って屋根まで跳躍し、屋根から雨漏り箇所を剥がし、天井裏全体をクリーンと浄化をかけ、それから腐った天井板と錬成した物と取り替え、錬成で圧着、屋根の部分も同じくで直した。
雑な作りで防水や断熱になるようなものも何も入ってないので、スライム皮と羊毛綿の布で防水布を錬成し、屋根の裏部分に錬成で貼り付けた。これで二度と雨漏りはしない。
家全体ももうちょっとテコ入れしたいが、さすがに依頼外になるので、土魔法で隙間風を防ぐ程度にしておいた。
「確認したら依頼完了のサインをくれ」
「……ええ、あ、はい」
「いや、確認しろって」
依頼主は呆然としていただけだったので、確認させてからサインをもらった。
続いて「排水溝掃除」だ。
魔法が使えない新人冒険者なら、物理的に掃除をするのだろうが、シヴァは違う。
まず排水溝とその周囲の草むらだけを結界で覆って焼却。水魔法で灰を流し、【クリーン】と【浄化】を連発し、土魔法で排水溝の周囲を整えて終了。
排水溝全体ではなく、商売をやってる地域のみ、排水に生ゴミが交じるせいで臭いが気になったための依頼なのでさっさと終わった。
まぁ、ついでにもう少し先までやっておいたが。
依頼主は排水溝の側の店の人で、驚きながらも依頼完了サインをした。
次は「外壁修理」。
一階は店の三階建ての建物の外壁だ。
古い建物で長年の風雨で削れ、補修を繰り返していたものの、ちょうど風が抜ける所で長持ちしないらしい。
これは土魔法でささっと補修してから、【硬化】の付与魔法をかけて終了。
依頼主の商人の護衛に、シヴァが直した壁を武器で叩かせて頑丈さを確かめさせた所、傷すら付かなかったので、大喜びで依頼完了サインをくれた。
残り二つの「空き家の掃除」と「廃墟の撤去」は少し時間がかかる。
何故なら、二つとも商業ギルドが依頼主で、案内してもらわないとならないからだ。
「空き家の掃除」自体は簡単である。
風魔法でゴミやチリを外に集め、草が生い茂る庭は風魔法でカットした後、どちらも焼却。土魔法で庭を整える。
後は家の中で【クリーン】と【浄化】をかけまくればいいだけだ。
ここまで案内して来た商業ギルド職員に完了サインをもらって、次。
「廃墟の撤去」は一番簡単だった。
傾いた小屋を壊して更地にすればいいだけ、なのだから。
木材は使うのかと思いきゃ、虫に食われまくっているのでそのまま処分していいらしい。
では、短時間で終わらせよう、と念のため、廃墟の敷地内を防音物理魔法結界で包み、その中に高火力の青い炎の魔法で一瞬で燃やし尽くした。
あまりの高温に地面がガラス質みたいになってしまったが、冷やして混ぜれば問題ない。きっちりと平らに整地しておいた。
へたり込んでいた職員にキュアをかけて正気に戻し、きっちり完了サインをもらって、シヴァは冒険者ギルドへ戻る。
予定通り、依頼五件全部、昼前に終わらせた。
「た、確かに五件、依頼完了です。お疲れ様でした」
驚いていた受付嬢だったが、ちゃんと依頼達成手続きをし、その報酬を現金でくれた。
「それにしても、シヴァ様。この短時間でどうやって終わらせたんですか?」
「魔法で」
「では、そんなに魔法を連発しても大丈夫ですか?」
「まったく平気。他に滞ってる依頼があるなら受けるぞ」
「後はシヴァ様のランクに見合いませんので、お気持ちだけで」
「噂で聞いたが、新人でも特例でランクアップ出来る試験があるそうだ。ここではやってないのか?」
シヴァの時は少し固い、素っ気ない口調を心がけていたり。…ダンたちの前だと難しいが。
「ええ。申し訳ありませんが」
「おれがラーヤナ国キエンの街のダンジョン、攻略してても?」
「……はい?」
「問い合わせてみるといい。通信の魔道具があるんだろ?」
「…少々お待ち下さい」
「いや、時間がもったいない。明日また来る」
午後から、シヴァでアリョーシャダンジョン攻略しようと思っていたのだ。食材仕入れついでに。
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