109 ダンジョン産アイテムは何でもあり

 シヴァは邪魔にならない所でテーブルセットを出し、ハーブティを淹れ、腹減ってるボルグのためにたこ焼きを出した。

 イディオスにも深皿にハーブティ、たこ焼きは内部が熱いので、一つずつ冷ましながら食べさせてあげる。


「あのさぁ、シヴァ。どこでもテーブルセット出してお茶してるのって、あっちと行動が一緒じゃね?」


「でも、食う、と」


「美味いもんばっか持ってるしさ~」


「見た目がこうも違ってて、自重なく温かい物をどこからか出してるんだから、疑惑止まりだって」


「あっ、そういえば!」


『出した所を誰も見てなかったと思うぞ』


 イディオスがツッコミを入れる。


「まぁ、そうなんだけどさ。やがて、噂も流れて来るだろうし」


「どんな?」


「ラーヤナ国のキエンの街ダンジョンの攻略者は、シヴァという名前の黒ずくめのFランク冒険者だと」


「Fなのかよっ?」


「登録した所だし」


「特例でランクアップ出来る所もあるぞ。いかにも強者で戦闘スキル持ちなら」


「あ、ボルグはそれ知ってたのか。キエンのギルドでもあったんだけど、ギルマスがフザケたアホで」


 そう言ってる所にダンが来たので、ダンも交えてお茶しつつ、ギルマスのフザケた話をした。


『それは怒って当然だな』


「いや、怒ってはいねぇよ。呆れてるだけ。ってことで、シヴァの時は結構派手に動く予定」


「意識しなくても、元々派手に動いてただろ」


「だよなぁ。って、そういえば、ここからキエンの街までどうやってそう速く往復出来たんだ?あのバイクでもこう速くは無理だろ。山の方って道がない所も多いし」


「飛んだんじゃないのか?」


「行きはそんな感じ。ダンジョンでスゲェ速い乗り物をゲットしたって言っただろ。帰りはこれで」


 シヴァはバイクサイズの騎竜を出す。


「……竜?」


「……竜だよな?小さいけど」


「大きくも出来る。人工的に作った騎乗用の風竜。独自の意識があるワケじゃねぇよ。ゴーレムみてぇなもん?」


『驚くよな、やっぱり。我もこれに乗って来た。中々快適だったぞ』


「自分で空飛ぶより速いし、隠蔽魔法も付いてて快適だしな」


「って、こんなトコで出すなよ!」


 周囲がざわめいて来たことで、ダンが我に返って注意した。


「いいじゃねぇか。キエンの街にいたハズのおれがここにいるんだから、速い移動手段を持ってるアピールしといた方がいいだろ」


「それは…まぁ」


「そーゆーことなら触ってもいい?噛みつかない?」


「そんな機能は付いてねぇよ。所有者の命令しか利かねぇけど、戦闘は出来ねぇし、やらせるつもりもねぇ」


 戦闘用も作れるのだろうが、シヴァにはいらない。


「それがいいだろうな。権力者がこぞって欲しがるだろうけど」


「ダンジョンボス倒してダンジョン攻略してダンジョンコアを見付けて、ダンジョンマスターになれば、同じ物が手に入るだろうけどな。今までの連中はコア見付けても即座に奪った壊した、だけらしく、話はしなかったんだろ」


「話せるんだ?コアってどんなの?」


「オーブみたいな丸い珠。手のひらサイズ」


「そんな見た目ならそれが話せるとは思わなかったんだろうな。あ…シヴァは何で話そうと思った?」


「そういったもんだと思ってたから。元の世界の創作物だとな」


 【冒険の書】がなくてもまずは話してみよう、と思っただろう。

 ギルマスが出て来ると面倒だと、騎竜は消し、シヴァたちも片付けて移動することにした。

 大分、日が落ちて来てそろそろ夕食時だ。たこ焼きはあくまで夕食前の繋ぎである。


 イディオスがいるし、渡したい物もあるので、今日の夕食は個室がある少しお高めの食堂にした。

 …とはいえ、冒険者の半数が利用するような所だ。

 お薦めの料理をたくさん頼み、落ち着いた所で、ダンに通信バングルとスクロール、ボルグにもスクロールを渡す。


「通信バングル。使い方は着ければ分かる。魔力が動力だけど、別に魔力を注ぐ必要なし。その辺の空中にある魔力を勝手に吸い取って溜めてるから。これもダンジョンコア製」


「お前といつでも連絡が取れるってことか」


「そ。絶体絶命のピンチになったら呼べよ。そのバングルを介して移動出来る」


 …ということにしておく。ダンジョン産アイテムは何でもありなので、ダンも信じるだろう。

 実際、シヴァの転移の目印にはなってるのだ。


「これ、備えに持っとけ」


 そういえば、これも渡すつもりだった、とシヴァはダンとボルグに一本ずつ小瓶を渡した。


「ポーション?上級か?」


「エリクサー」


「…ぶっ!」


「……マジかよ…」


「ボルグのおかげだぜ。あのオーブとキエンまで採取に行った薬草その他で作ったから。言っただろ?無茶苦茶とんでもねぇオーブだって。触媒として使っただけだから、減ってねぇし、他にもまだまだ色々使えるもんだし」


『そんなオーブがあるのか。だが、シヴァ、エリクサーはダンジョンでもたまに発見されるぐらいなんだから、コアでも作れたのでは?』


 イディオスが気付いてしまった。


「そこに気付くなよ~。おれも作った後で気付いたし!…はいはい、さっさとしまう」


 どれもマズイが、エリクサーの小瓶はいかにも高そうなデザインにしただけに、詳しくない人にも『金目のもの』認定されてしまう。

 ダンとボルグはエリクサーはマジックバッグにしまったが、スクロールはまだ手に持っていた。場合によってはしまうより使った方がいい、という判断だろう。


「何のスクロール?」


「新しく創作した【チェンジ】の魔法。やってみせる」


 シヴァはシヴァの衣装から、もう少しラフな普段着仕様に変えた。

 やはり、暗い色が多いが、膝丈ブーツはカジュアルな革靴、大剣も装備せず、腰に短剣(シヴァ用)程度。これから夕食なので、もうこのままでいいだろう。


「おおおっ!すっげー」


「いいな!その魔法は。スクロールをくれるってことは、おれたちにも使えそうってことだよな?」


「ああ。消費魔力は生活魔法程度。マジックバッグも含めた自分の荷物から、任意で選んだ服や装備と取り替える。しまう時は自動的にクリーンがかかる親切機能。グロリアたちにも渡しといて」


 グロリア、ヒューズ、マーフィの三人とダン、ボルグの五人でパーティを組んでいるのだが、今日は別行動していたのだ。


「分かった。が、代価はいらんのか?」


 ダンは三本のスクロールをマジックバッグにしまう。


「シヴァの噂を流しとくのが代価で」


「その程度じゃ安いな。通信バングルもエリクサーももらってるし」


「まぁ、後で考えとくよ。それより、覚えたら?」


「そうする」


 ダンとボルグはちゃんと【チェンジ】を覚え、色々と試していた。

 ボタンがかかった服でも、ちゃんと着せた状態になるので、鞘に入ったままの剣でも鞘なしの状態で、手に握らせることも出来る。


 また装備しないことも出来、その延長でポーション瓶を手に握らせることも出来た。

 つまり、マジックバッグからのアイテムの取り出しも、マジックバッグに手を入れなくてよく、楽々になったワケだ!

 『任意で選ぶ』というのが、空間収納並みにいい感じに脳内リスト化しているので、更に。


「おお、そこには気付かなかった」


 新しい発見だ。


「でも、【チェンジ】に慣れると使い過ぎて魔力が乏しくってことにもなるから、気を付けねぇとなぁ」


「だよな」


「でも、使って行くうちに魔力も増えて行くだろ。ボルグたち、温存し過ぎだったし」


「そこが難しい所でもあるんだって」


『我の加護をやろうか?経験値が増え、運もよくなる。そうなると魔力も増えるのが速くなる』


 そこに、面白そうにやり取りを見ていたイディオスが口を挟む。


「いえいえ、おそれ多い」


「別に気にせずもらっとけば?気前のいい神獣様なんだし。おれは称号で持ってるからいらねぇけど」


『やはりな。シヴァには色々世話になっていても返せるものがない。だから、シヴァの友人たちが替わりに受け取れ』


 遠慮されるだけだと分かったらしく、イディオスはさっさと加護を与えた。ダンとボルグが淡く光り、すぐ治まった。


「【フェンリルの加護・経験値増加、幸運+10、風属性耐性も与えられる】だとさ」


 シヴァは二人を鑑定し、加護の説明をしてやった。


『耐性もあったか。忘れていたな。シヴァ、風属性耐性は…』


「それは最初からある。【物理・魔法・状態異常全耐性】」


 詳しくは教えてなかったか。


『しみじみと規格外だな…』


「いきなり死ぬようなことはないようにしただけ、って感じだけどな」


 そんな風に話していると、店員が続々と料理を運んで来たので夕食にする。

 イディオスにはシヴァが木で低いテーブルを作り、丼や大皿に料理を取り分けた。

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