108 気さくな神獣様は大人気

 シヴァが探知魔法で探ると、ダンたちはダンジョンに行ってるらしく、見当たらない。


 じゃ、食べ歩きしよう、とイディオスを市場に連れ出した。

 シヴァの近寄り難い雰囲気は、ふわふわのイディオスで緩和され、撫でさせて、と結構な人気になった。

 串から皿に移してくれたり、オマケしてもらっているため、イディオスも嫌がらない。


『美味しいものがたくさんあるな!』


「そうだけど、腹壊すなよ。…いや、キュアで治せるか」


 まぁ、水も飲め、と丼に魔法で水を出してやった。


「お兄さんの飼い犬?」


 そこに、店の子供が欲しそうに訊いて来た。五歳ぐらいか。


「いや、友達」


「飼ってないの?」


「飼っちゃダメな種類なんだよ。今まで見たこともない程、綺麗な毛並みでふわふわもふもふだろ?特別なんだよ」


「特別なのに連れて歩いていいの?」


「特別だから、側におれがいるんだよ。おれ、弱そう?」


「強そう!」


「だろ?」


『意外に子供の扱いが上手いな』


「妹と甥っ子がいたんだよ。…今日はこの街に泊まる?今なら宿取れるし」


『我もいいのか?』


「もちろん。こうも歓迎されててダメなワケがねぇ。じゃ、ちょっと広い部屋がある所にしよう」


 そこそこいた街なので宿屋情報もそこそこ知っている。

 上の下ぐらいのレベルの小奇麗な宿の部屋を取ることが出来た。

 イディオスももちろん歓迎されている。…どころか、撫でさせて下さい!と撫でていた。もふもふ好きには堪らないのだろう。

 時々、犬は見かけるが、長毛種はあまり見てないこともあるのかもしれない。


「イディオス、そのサイズの維持は一晩でも出来る?」


 そういえば、聞いてなかったとアルは確認してみた。


『ああ。余裕だ。お前はシヴァの状態で大丈夫か?』


「こっちも余裕。お試しも兼ねてるんだけど、予想以上に馴染むっていうか。元々の身体なんだから当然と言えば当然なんだけど。…で、イディオス、寝床を作ってやろう。ふわふわか、適度に硬いか、どっち派?」


『そう違うものか?気にしたことなかった』


「じゃ、おれの趣味で」


 猫も犬も丸まって寝るので、今のイディオスサイズの丸型ベッド。

 ポケットコイルと羊毛綿、羽クッション、綿毛布。

 初夏のこの季節に上掛けはいらないかもしれないが、夜や朝方は冷えることもあるので。


『…シヴァ。しみじみと規格外だな。こうもぽんぽん作れるもんじゃないんだぞ、普通の錬金術は』


「おれに普通を語ってくれてもさぁ。…はい、じゃ、出来上がり。寝てみて」


『…おおっ?何だこの絶妙の柔らかさ』


「異世界技術使いまくりなワケだ。人間の基本は衣・食・住だからな。そして、こちら【虐殺の羽クッション】逸品だ」


『何でそう物騒な名前が付く?』


「ランニングバードを狩りまくって羽集めたからだよ。それがまた絶妙な弾力で」


 ほらほら、とイディオスにシヴァが使わせると、絶妙な弾力にうっとりしていた。


「なぁ?狩りまくるだろ?羽以外のドロップ、肉と卵だし、これがまた味が濃くて。…ああ、ご心配なく。そのベッド、神獣様に献上するから。洞窟まで運ぶし、何なら本来のサイズ用に作り直してもいいし」


『色々と悪いな』


「全然いいって。もふらせてくれるなら」


『他とそうも違うものかな』


「かなり違うって。この柔らかさで斬撃無効、魔法耐性もあるし、スゲェよな」


 何度か撫でてるうちに、毛皮の鑑定ぐらいは出来るようになっていた。


『硬くも出来るぞ』


「しなくていいから!…お、ダンたち帰って来たな。イディオスはここにいる?」


『いや、一緒に行く。シヴァの友達は興味ある』


「まぁ、結構、大物、なのかな?」


 じゃ、一緒に行こう、と宿を出て、シヴァたちは冒険者ギルドへ向かった。道中、目立つこと目立つこと。

 もう少し早い時間で市場にいたから、そんなに注目されなかっただけらしい。


 ギルド内は混雑していたので、イディオスは蹴られるかも、とシヴァが抱き上げて中に入る。

 受付の列に並ぶダンに、声をかける前に、


「えっ?あ…」


と横から来たボルグに名前を言われそうになって手で口を塞いだ。

 【変幻自在の指輪】でこの姿を見せたことがあるので。


「シヴァだ」


「あ…うん、ちょっと振り。はっでな格好してるなぁ」


「似合うだろ」


「似合い過ぎ。…そっちは?」


「イディオス。友達。こっちはボルグ」


「どうも~」


「って、何やっ…あ……ええっと」


 ダンが振り返り、こちらに気付いた。

 この格好から察したらしく、名前は言わなかったが、どう話しかけるかで迷ったらしい。


「シヴァ。こっちはイディオス。こいつがダンな」


「どうも、ダンだ。…神獣様では?」


 こそりと言う。

 フェンリルと分かったことで、余計にどう言えば、だったらしい。


「分かる?」


「子供の頃に会ったことがある」


『我ではなく、親だろうな』


「え、話すけど?」


 その程度しか驚かないボルグである。


「神獣だから念話。対象絞ってるから他には聞こえてねぇよ」


 シヴァは魔力の流れで念話範囲が分かる。


「そうか。どうしてこちらに?」


「ちょっとお前らに渡す物があって、ついでにイディオスと遊びに来た。途中の森で会ってさ」


「遊びにって…」


「あ…シヴァ、遠い所に行ったんじゃなかったっけ?途中で引き返した?」


「いや、行ったらスゲェ速い乗り物ゲットしたんだよ」


『ものすごく略したな…』


「何かやらかしてるんですよね?こいつ」


『そういった認識か、やはり』


「やらかしてねぇって。ダンジョン攻略しただけで」


「だけ、とか言ってるし。ダンジョンで乗り物ゲットしたってこと?」


「攻略してダンジョンマスターになったら、色々特典が付いて速い乗り物も作ってもらった、と」


「…脳味噌が拒否した……」


「…買い物のオマケレベルの口ぶりってどうなんだよ……」


『大いにツッコミを入れてやってくれ。今の時代の人間はこうも変わり者なのかと、危うく誤解する所だったぞ』


「違いますから!」


「シヴァが特殊なだけですから~。…ってか、何かでかくない?」


「これが本来の身長と姿なんだよ。今回は実体があるし、声も違う」


「…え、あれ?ホントだ」


 ボルグがシヴァの肩を触る。アルだとここまで肩幅がない。


「魔法か?」


「そ。これも色々特典の一つ。どれだけ違和感を感じてたか少しは分かっただろ?」


「だなぁ」


「おれを見下ろす程とはな。これからはそれで行くのか?」


「時々だな。目立ち過ぎる」


「前だって目立ってたけどなぁ。でも、こっちだと全力出せるとかいう話?」


「体術ならな。目線もリーチも間合いもズレるから、剣は鍛錬し直さねぇと。って、鍛えても意味ねぇか。どっちも慣れる、で」


 魔法で変わった身体なので、鍛えても次にはまた戻るだろう。


「武器自体違ってるだろ」


 ダンからツッコミが入った。そういえば、そうだった。

 見せかけの時も今も、戦ってないので、認識が薄かった。


「それにしても、イディオス様、撫で過ぎじゃね?」


 神獣様とは言わない方がいいのはボルグにも分かっていて、名前の様付けにするらしい。


「もふもふなんだって」


『お前たちも撫でてもいいぞ。もう慣れた』


「市場で人気でさ」


 シヴァが教えてやると、うずうずしていたのかボルグだけじゃなく、ダンも遠慮なくイディオスを撫でた。

 すると、周囲の人間も撫でたそうに手をわきわきして来るので、別にギルドには用がないシヴァとイディオス、用事が終わったボルグは外でダンたちを待っていることにした。

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