104 銀色なんじゃねぇか!
「おはよう、イディオス。一緒に朝飯食おうぜ」
イディオスのいる山に転移したアルは、早速、テーブルセットと鍋を出しながらそう誘った。
『いきなりだな。おはよう。朝飯は嬉しいが、アルはダンジョンに行ったんじゃなかったか?』
イディオスは大型犬ぐらいに小さくなってから、そう聞き返した。
「攻略してダンジョンマスターになった。はい、これ、通信バングル。着けると使い方が分かるから」
そうそう、これが目的だった、とアルはイディオスの前足に着けてやる。
イディオスがまったく警戒しなかったのは昨日友好的だったのと、鑑定でも不審な所がなかったからだろう。
『…すごいことをサラッと言ったな。理解が追いつかん』
呆然としていたのもあったらしい。
「この通信バングル、ダンジョンコアに作ってもらったんだよ。おれも研究してたけど、中々難しくて。…ま、それはともかく、今朝の朝飯は和食。焼き魚定食って感じ。おれの故郷の定番ご飯だな」
川魚の塩焼き、卵焼き、海苔、鶏と根菜の煮物、葉野菜のおひたし、きのこと豆腐と油揚げの味噌汁、ご飯だ。
イディオスには食べ易く、おにぎりで、味噌汁はぬるめで。丼は昨日の物があるが、イディオス用の大皿も作る。
アルはイディオスに勧めてから、「いただきます」と手を合わせてから自分も食べ始めた。
『これも美味い。スープも魚なのか?』
「そう。海の魚のダシ、旨味だけ取り出した調味料を使ってる。これも錬成したヤツな。味噌は過去の転生者、転移者が広めてて『味噌汁』って名前の和風スープ」
『ふむ。優しい味だな』
「繊細で複雑な味だろ。…キエンのダンジョンは、割と期待外れだったんで、せっかくラーヤナ国にいるから他の所のダンジョンも行こうかなぁ、と思ってる所」
『どういった所が期待外れだったんだ?』
「全体的に魔物が弱くて、ドロップ品もいいのがないワケでもないけど、これは!って飛び付くようなのがないな。60階もあるクセに」
『…アル。お前のダンジョンの認識、かなり間違ってると思うぞ』
「そうでもねぇよ。コアも褒めてくれたし。…あ、ダンジョンコアのことで精神生命体…なのかな?まぁ、個性があって話せるんだって。念話で」
『そうなのか。まぁ、お前が強過ぎて物足りなかった、というのは分かった』
「相手が弱いと思うんだけど、今までの冒険者は52階までしか行けてなかった所をみると、そうかもな。おれ、投げナイフは外しまくってるんだけど」
シヴァの装備に投げナイフがあるので、ディメンションハウス内に的を作って、ちょっと前から練習しているのだ。
『魔法でよくないか?』
「よくないこともあるかな~と練習してるんだよ」
『色々と手を出してるんだな』
「元々多趣味だし。そろそろ料理スキルも生えてよさそうなんだけど、錬金術も使ってるからか?」
『まだ持ってなかったのか。意外だな。こんなに美味いもの作るのに』
「補正なくても元々の料理の腕がいいってことだな」
『違いない』
イディオスは意外にもおにぎりが気に入ったらしく、中身が海苔の佃煮、カウ肉しぐれ、おかか、鮭、と色々なのもよかったらしく、おかわりした。
『昨日今日とご馳走になったので何かお礼がしたい』
そうイディオスが言い出したので、アルは遠慮なくイディオスの身体をお湯とシャンプーで洗わせてもらい、温風で乾かしてもふもふする。
「白っぽいグレーだと思ってたら銀色なんじゃねぇか!」
アルはイディオスの汚れ具合を嘆いてみた。
『…こんなのでお礼になるか?』
「なるなる。超なる。癒やされる。適度にぬくいのがいいよなぁ」
冬にはこの毛皮が欲しい。
「イディオス、冬はどこにいる?」
『今も冬もそこの洞窟だが…』
「分かった。色々持参して遊びに来ようっと」
ディメンションハウスのレベルが上がれば、一定レベル以上は招けるかもしれない。
…いや、それ以前に、コアに持ち運び出来る家を作ってもらおう。トイレや水回りはダンジョンの不思議な技術があるに違いない。
『毛皮目当てか』
「中々こうも手触りのいい毛皮ねぇのに、大事に手入れしろよ。【クリーン】が使えるクセに」
『どうせ汚れると思うと中々な』
「せっかくキレイな毛皮なのに。…あ、客観的に見せてやろう。どれだけ残念な事態だったのか」
アルは【変幻自在の指輪】を着けると、フェンリルに化けた。見せかけだけ。最初に会った時の残念バージョンイディオスである。
「これが洗う前だぞ?…で、これが今」
今バージョンにも変わって見せる。
『…う…気を付けよう』
やはり、客観的に見た方が分かり易かった。
「そうそう、ついでにさ」
アルは『シヴァ』二十四歳バージョンになった。黒の衣装も着ているよう見せかけて。
「こっちがおれの元の身体。今は見せかけだけな。でも、身体ごと変える化ける魔法を覚えたんで、この姿で来る時もあるかも、だから覚えといて。こっちは『シヴァ』って名乗ってる」
『…忘れる方が難しいぞ。ものすごく目立つな』
「何か知らねぇけど、固まるんだよな。こっちの人たち」
アルは変幻自在の指輪をしまい、アルの姿に戻した。
『元の世界ではさっきのような姿が普通、とは言わんだろう?姿も整っていたが、存在感がかなりあった』
「見せかけだけ、だったのに存在感?」
『ちょっと当てはまる言葉が思い付かんが……まぁ、納得な感じだ。その姿は何だかちぐはぐしてるから』
「現に中身が違うしさ」
さて、と【フェンリル仕様通信バングル】の試しに、アルが転移して遠くに離れてから通信してみると、まったく問題がなかった。アリョーシャよりもっと遠いパラゴの近くでも。
「思ったより高性能。出来るダンジョンコアは違うな」
通信して褒めておいた。
【有難うございます】
嬉しそうで何より。
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