103 カッコイイポーズって?

「コア。手で触れなくても念話を介して、意思疎通をスムーズに出来るか?」


【マスターとなら可能です】


 マスターになる前は出来なかったらしい。


「じゃ、変幻自在の指輪のような見せかけだけじゃなく、姿を変えられる魔法のスクロール、作れるか?」


 アルのガリに近い細い身体より、元の自分の身体をたまには使いたいワケだ。

【可能です。姿を変えたまま固定するものですか?一時的なものですか?一時的なものなら身体への負担はほとんどありません。最初に姿を変える時は魔力が5000必要ですが、その姿の維持にはマスターの魔力量なら魔力回復で補える程度です】


 消費魔力5000ならアルにしか使えない魔法だろう。


「一時的なもので。魔法名は【変幻自在】で」


 名前は分かり易く!


【了解しました。……【変幻自在魔法】のスクロールです】


 スクロール作成もこうも速いのか!

 ひらりと現れたスクロールを、アルはすぐに開いて魔法を覚える。

 この魔法で出来ることの知識も入って来た所……。


「無機物変換も出来るって、手を剣にとかも…」


 やってみた。すご過ぎる。

 確かに、変幻自在だった。

 大きくなるのは熊程度までだが、小さくなるのはネズミまで可能。

 この質量はどこへ行ってしまうのか…大きくなるのは魔力で補うにしても…深く考えては行けない気がする。


「通信の魔道具作って。魔石と魔力チャージどちらも使えて、魔力消費を抑えて、出来る限り遠くの人とでも通話出来るように。二つ一組じゃなく、いくつか繋げられるように」


【可能です。サイズと形はどうしましょう?極端に大きかったり小さかったりしなければ、ほぼ希望に添えると思います】


「形は太くない錆びない軽い金属の腕輪型。時計も一緒に付けて防水仕様、ただのアミュレット腕輪に見えるよう偽装して。あ、おれのはコアとも連絡出来るようにして、小さいサファイヤ付けて区別して。で、どれも所有者限定、奪われても一定時間で戻って来る仕様。数はとりあえず十個。名前は【通信バングル】。おれのは【マスター仕様通信バングル】」


【分かりました】


 スクロールより簡単だったらしく、通信バングルはすぐにテーブルの上に用意された。アルのはサファイヤが付いたものなので、すぐ分かる。


 自分用以外は収納し、早速装着しよう、とした所で自分で作った自動巻きバングル時計をしていたのを思い出し、そちらは収納にしまってから、【マスター仕様通信バングル】を着けた。


 マジックアイテムなので、自動的にサイズ調整してフィットする。時計を見るには軽く撫でるだけで腕輪に数字が浮かび上がる。所有者限定なので他の人が触れても表示されない。

 動力は浮遊魔力と魔石を加工した魔力貯蔵タンク。魔力のある所なら壊れない限り、使える仕様だった。


 アルは一端、ダンジョンから出てアリョーシャの街の側の森の中に転移し、ダンジョンコアと話せるかどうか試したが、まったく問題なかった。

 もうすっかり夜だ。ちょくちょくおやつを食べていたので気付かなかった。暗いのでキエンダンジョンコアルームにすぐ戻る。


「あ、コア、もう一つ作って。5mぐらいあるフェンリル用の通信バングルを。コアのように念話で話す。時々、サイズも変わるからその都度合うように」


 好きな時に話せるようになるのだから、喜ぶだろう。


【了解しました】


 すぐにフェンリル用通信バングルがテーブルに現れたので、収納した。

 後はダンジョンが攻略された旨の発表ボードだ。

 アルはまず、シヴァの夏用衣装を材料を足して元の身体仕様…190cmオーバーの身長と細身でも無駄亡く鍛えられた体型に合うよう作り直す。

 ついでに、普段着で使えるような服もいくつか。アルとイメージがかぶらないよう暗色系で。

 そして、下着以外の服を脱ぎ【変幻自在魔法】で姿を変えてから着替えた。姿見の大きい鏡を出す。


「あーうん、落ち着いた」


 元の身体の今より、アルは20cm弱も背が低いので、その違和感は一ヶ月経っても中々なくならなかったのだ。

 完全に二十四歳の元の姿。


【それが本来のマスターの姿ですか?】


 気になったらしく、コアの方から質問して来た。


「そう、元の世界のおれ。ファンタジー衣装だけど、顔と身体はな。気が付いたら強制的に意識だけこちらの世界に転移して、さっきのアルトの身体に入ってた。違和感ある身体で、たった一ヶ月程で、おれが強くなったのは【転移者】称号のおかげ。この姿の時は『シヴァ』を名乗っている。朝、冒険者登録もしたばかり」


 ほら、とアル…シヴァはウエストポーチ型マジックバッグから、ギルドカードを出してコアに見せる。


【確認しました。マスターがおっしゃった別人とは『シヴァ』様のことですね。しかし、まだFランク、シヴァ様で発表してもよろしいんでしょうか?】


「アルだってCランクだって。全然問題ねぇだろ。そうそう、朝のやり取りがさ…」


 と、アル…シヴァはギルドマスターにフザケた対応されたことをコアに話す。


【ダンジョン攻略という実績を見せつけてランクアップさせるんですね】


「いいや?誰も文句が言えねぇ証拠付き実績があっても、ランクアップさせねぇギルドマスターに非難を集めるワケだ」


 キエンギルドにもうシヴァの姿を見せるつもりはないので、ランクアップもしないのだが。


【ギルドマスターに役職を辞任させたいんですね】


「それはどうでもいい。嫌がらせしたいだけ。どうせなら、発表ボードに写真…絵姿付けといて。…こっちの若い姿で」


 アルは【変幻自在の指輪】と着けると、朝のように十六歳バージョンになって見せた。魔法で若い姿にすると、せっかく作り直した服が合わなくなるので。


【では、カッコイイポーズを付けて下さい】


「どんなん?それ」


 それはジョークなのか本気なのか。

 あれこれコアに指示されるまま、シヴァはポーズを取り、発表ボードが出来上がった。


『あの伝説の猛毒魔獣九首ヒュドラがたった三十秒でコマ切れに!キエンダンジョンは彼一人によって攻略された!』


 そんなノリノリの見出しだった。

 コアが設定したダンジョンボスなので瞬殺だったのは、案外、悔しかったのかもしれない。

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