099 笑えない茶番
「お、お待たせしました!シヴァ様。お時間が構わないのでしたら、これから昇格試験を行いたいと思いますが、よろしいでしょうか?」
息を切らして戻って来た受付嬢は、あまり言葉が途切れないよう心がけて一気に早口で言う。
「構わない。訓練場か?」
「はい。こちらへどうぞ」
受付嬢が先に立ち歩いて行く後をシヴァが付いて行き、その後を見学希望者たちが続く。
訓練場にこんな人数入らないんじゃないだろうか。
しかし、それは心配無用だった。
訓練場とは名ばかりの単なるギルドの建物裏の空き地だったからである。キエンではギルド設備はおざなりらしい。
魔法をぶっ放したら周囲の被害甚大なのだが、いいのだろうか。ほんの200m先に何かの店があるのに。ダンジョンで魔法の練習をするので、想定はしていないのだろうか。
魔法じゃなくても、シヴァだと剣圧で色々斬れてしまうかもしれない……たとえ、木剣でも。
模擬戦で被害が出ないよう配慮して、始まる直前にそっと結界を張っておこう。
保険には上級ポーションとエリクサーがある。
よし、バッチリだ。
三十過ぎぐらいの茶髪で中肉中背の男が歩いて来た。
研ぎ澄まされたナイフのような雰囲気で、誰もこの男が弱いとは思わないだろう。結構、強い相手で少し安心した。
「ギルマス、こちらの方がシヴァ様です」
受付嬢が紹介する。
ギルマスかよ。
少なくともAランク。アリョーシャ冒険者ギルドのギルマスといい勝負じゃないだろうか。
「これが新人とか勘弁しろよ…合格だ。特例でAランク」
「おい、フザケんな。誰も納得しねぇだろ」
「そのガチな装備といい、お前が周囲を見回した時点でヤバイ攻撃力持ってんのを証明してるんだよ。おれ、まだ死にたくないし」
「前提が違う。模擬戦だろう?なるべく怪我をさせないし、建物も壊さない。それでも嫌なら試験方法を変えろ」
「分かった。試験方法を変える。…おーい、みんな、こいつ新人だけど、もうAランクでいいよな?賛成の人、手を挙げて」
…多数決で決めるのかよ。
嘆かわしいことに、全員が全員、ギルマスや受付嬢まで手を挙げた。
ここまでされると、バカにされているのと同じだろう。
「…ちょっと街ごとふっ飛ばしたくなったんだが、いいか?」
シヴァはすらりと大剣を抜き、魔力を込める。
街ごとはやらないが、この空き地ぐらいは陥没させても全然いいような気がして来た。
ギルドの建物や倉庫は確実に傾くだろうが。
「いやいや、やめてくれっ!冗談だ、冗談!」
「アホが」
うっかり力を込めてしまうだけでもヤバイので、代表して高ステータスのギルマスに責任を取ってもらうことにし、ギルマスの胃に即効性の睡眠薬を転移させ、強制的に眠らせた。
シヴァは大剣を鞘に納めると、ギルマスの襟首をひっつかみ、影転移で街で一番高い時計台の屋根の上に移動し、その屋根にギルマスをひっかけ、顔にらくがきをしてから、普通に転移してディメンションハウスに帰った。
落ちたぐらいで死ぬとは思えないステータスなので、セーフティなしだ。
まったく、バカらしい茶番だった。
シヴァのギルドカードを手に入れただけでよかったと思うしかない。
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