096 コミュニケーションの基本は挨拶から

 魔力はすっかり回復しているので、今度の連続転移でキエンの街が見える所まで到着した。

 地上に降り、バイクを出して乗り込みスタート。小鳥は解除して【変幻自在の指輪】も空間収納にしまう。


 一人なのに何にも乗り物なく、徒歩で旅をしている人はかなり少ないのだ。

 街と街の間に距離があるから、馬かそれに類する魔物に乗るのが普通なので。商人護衛で徒歩の時はあるものの、集団だ。

 アルはキエンの街の防壁近くでバイクを降り、マジックバッグにしまう。

 防壁の門の入街審査で並んでいた商人一行がぎょっとして固まっていた。


「こんにちは」


 コミュニケーションの基本は挨拶から。


「…こんにちは」


「ここ、キエンの街だよな?」


「そうだ。初めてか?」


 答えてくれたのは、商人の護衛、おそらく冒険者だろう。


「そう。ダンジョン目的で来た。ここから徒歩で三十分ぐらいかかるんだっけ?」


「ああ。朝と夕方は有料の乗り合い馬車が出てるからそれに乗っても…って、お前、何かすごい乗り物に乗ってなかったか?」


「ダンジョンでたまたま手に入れたんだよ」


 素材の大半はダンジョン産なので間違いでもない。

 魔道具と言うより、マジックアイテム、と言う方が他にないと思うだろう。一点物も多いのだ。


「へぇ?乗り物が出るなんて初めて聞いた」


「え、そう?おれはあるけどな。いじくり回して壊しちまったそうだけど、空飛ぶ乗り物」


 これは本当の話だ、多分。世間話で錬金術師のセラから聞いた。


「それも聞いたことない。お前、他国から来たのか?」


「そう。エイブル国から。国によってもダンジョンドロップ品はかなり違うのかもな。ダンジョンボス、素手で倒すととんでもないお宝が出るって噂もあるし」


「素手でだぁ?誰か試したのか?」


「さぁ?噂だし。フロアボスぐらいなら行けるんじゃって、誰かチャレンジしそうだけど」


 アルはどちらもやった。


「あんたは、ここのダンジョン、結構潜ったことあるのか?」


「ああ。前は拠点にしてたんで。でも、30階のフロアボスが倒せなくて、諦めたけど。ここ、まだ誰も攻略してないんだぜ。塔型なのに50階以上あるそうだし」


 知っている。【冒険の書】によると60階まであり、冒険者の最高到達階は52階までだ。

 塔型で高い建物とはいえ、そこまで階層があるように見えないのは中は異空間になっているのである。ダンジョンなので。

 そんな話をしていると、列が進み、アルの番になり入街審査を受けた。

 エイブル国よりちゃんとチェックしており、ギルドカードをアルに返すと、


「この水晶に手を当てて」


と警備員に促されてアルは手を置いた。

 犯罪者だと光る魔道具だ。

 初めてやるが、話は聞いている。エイブル国でも他国人はチェックするらしい。

 もちろん、光らない。

 アルがスムーズに街の中に入ると、先程の冒険者とその仲間が待っていた。もう護衛は終わったらしい。


「お前、ギルドに行くだろ?おれたちもここで依頼完了でギルドに行くから一緒に行こうぜ。あ、おれはゲイル。Cランクだ」


 アゴが逞しいゲイルは二十代半ばぐらいなので順当な所だろう。


「おれもCランク。アルだ。よろしく」


 ゲイルとその仲間と一緒にアルも歩き出した。


「まだCランクなのか?ギルマスに嫌われてたとか先輩冒険者の顔立ててとか?」


「ないない。Cランクになってまだ一ヶ月ぐらいだって」


「そんなに最近の昇格なのか。じゃ、冒険者登録したのが遅い?」


「半年ぐらい前かな。実績もあんまりないんだって」


「そうなのか。それじゃランクは中々かもな。でも、アルってすっごく強いだろ?」


「どこに基準を置くかにもよるな」


「おれ、【直感】スキルを持っててさ。ヤバイ奴は分かるワケ」


「便利そうだな」


「否定はしないんだ?」


「『ヤバイ』ってのはゲイルの主観だろ。おれが何を言った所で、だし」


「それはそうかもな。アル、ほぼ手ぶらだけど、魔法使い?」


 いつもながら、短剣しか腰に差してなかった。


「魔法も使う剣士…って、しばらく、剣使ってねぇな。戦士?」


 バーサクゴートも蹴っただけだった。


「疑問系だし~。装備はすごく高そうなの揃えてるクセに、自分の戦闘スタイルぐらいは決めとくもんだろ」


「戦い方は敵に合わせた方が効率的だし」


「そうかぁ?」


 疑問らしい。

 アルのようなオールラウンド型ではなく、特化型なら当然の反応か。


 ******


 冒険者ギルドまでそう離れておらず、程なく到着した。

 ダンジョンが側にある街は活気があり、それは冒険者ギルド内でも同じだった。そろそろ依頼達成報告時間なのだろう。結構、混雑していた。


 行く場所が違うのでゲイルたちとはそこで別れ、アルは買取・解体カウンターに並ぶ。やはり、ダンジョンのドロップ品が多い。

 ここキエンダンジョンは、他のダンジョン同様、色んな物をドロップするが、魔石は比較的確率が高いらしい。


「解体と買取をして欲しい。魔石と皮と肉は戻して、他は買取で。…ここに出せる大きさじゃねぇんだけど、どこに出せばいい?」


「ものは?」


「バーサクゴート丸ごと」


「…バーサク?」


「バーサクゴート」


「もう一度言ってくれ」


「だから、バーサクゴートだって」


「…倉庫に案内する」


 信じられないので、見たほうが早いと思ったらしく、買取担当のお兄さんは先に歩き、アルはついて行った。

 すぐに解体場も兼ねた倉庫に到着。

 指定された場所にバーサクゴートを出す。


「…本当にバーサクゴートだ…」


「近くにはあまりいねぇのかもしれねぇけど、信じなさ過ぎ。解体にどれぐらいかかる?」


「ちょっと待て。傷がまったくないんだが、どうやって倒した?」


「蹴って。首の骨折れてるだろ」


「…折れてるな。ギルドカードを見せてくれ」


「ほらよ」


 アルは首にかけたギルドカードを外して渡す。


「……何でCランク」


 どうしていつも、そう言われてしまうのか。


「はいはい、ランクなんか関係ねぇだろ。さっさと解体時間の目安を出せよ」


 アルが苛立ったのはよく伝わったようで、買取担当は慌てて色々とチェックをし出した。

 ガリに近い細身の見た目でどうも舐められる。年齢は見た目が若い種族がいるので、そう侮られないのだが。


 バーサクゴートの皮と肉をもらっても、まだ頭と足と尻尾、それに内蔵もあり、それぞれ需要もあるので高く売れる。

 スキル持ちがいるらしく、解体は三十分程で出来るそうなので、ギルドカードと引換票をもらい、アルはギルド内食堂で待つことにした。

 早目の夕食を食べてる人たちもいるが、アルはおやつがカウシチューだったので果実水だけに。受付はまだまだ行列なので、おすすめの宿を紹介してもらうのに並ぶのはちょっと。


 暇なので紙とペンを出し、行動記録を付けてみることにした。


『アリョーシャの街を出て、山を越え、山間の街を越え、街道に出て来そうな魔物(バイコーン、バーサクゴート)を倒し、山に入った所でフェンリルのイディオスに呼び止められた。おやつしてからキエンに来た。ゲイルというアゴが立派なCランク冒険者に門の側で会い、冒険者ギルドまで一緒に来た』


 ……ゲイルのアゴだけ強調しているような気がするが、それだけ立派だったワケだ。


『擬態をフェンリルでさえ、気付かなかった。あのアイテムはかなり優秀』


 追記するならこれだろう。

 誰にも見せる予定はないが、アイテム名称は念のため書かない。さっさとマジックバッグ経由で空間収納へしまう。

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