095 超技術程、快適生活に


「イディオス、もうちょっと食べる?他の食べる?」


 アッという間に平らげて前足で口元を拭うイディオスに、アルはそう訊いた。


『…いや、いい。キリがなくなりそうだ。人間が作る料理は何度か食べたことがあるが、ここまで美味しくなかった。アル、お前が作った物か?だからか?』


「それはあるだろうな。元の世界でも料理得意だったし。…っつーか、イディオス、人間の料理を食べたことがあるって、街の外でのことなら保存食じゃね?硬いパンとか干した肉とか野菜とか」


『火を使って作ってた。思い返せば、保存食と言ってたような気もする』


「だろうなぁ。保存食で作ったスープなら、もうちょっと工夫しねぇとただの温かい塩水スープだろうし、作る奴にもよるしな。おれは元の世界の知識があるし、錬金術で調味料の類いや火加減が難しい菓子も作れるようになったから、大半の人よりは美味いもんが作れるワケで。過去の転生者・転移者が作れなかった物でも。…いや、この世界のどっかにあるかもしれねぇけどな。まだ一部しか見てねぇし」


『…錬金術で食べ物が作れるのか?』


「ああ。もちろん、材料は必要だけど。『そんな超技術を食べ物に使ってていいのか』というツッコミを友達たちに入れられたけどな」


 美味しく食べておきながら。


『…よかった。我が人と関わり合ってない間に、価値観がかなりズレて来ているのかと誤解しそうだった』


 フェンリルから見ても、アルは規格外らしい。


「超技術こそ、快適生活に使わねぇと、なんだけどな。おれに言わせると」


『ふむ。文明の発展も小さなことから少しずつ、か』


「そんな大層なこと考えてねぇぞ。自分が快適生活したいだけ。物作りも楽しいしな。で、ある薬草目的でキエンの街のダンジョンまで行く途中なワケだ」


『ダンジョンか。アルは冒険者なのか?依頼で?』


「いや、個人的に。Cランク冒険者」


『Cは真ん中辺りという認識でよかったか?』


「合ってるよ。中堅。ベテランが多いランク」


『アルには合ってないんじゃないか?転移魔法を使える人間はもう滅多におらんのだろ』


「だから、隠してるんだよ。ちょっと基準が分からなくて色々やらかしちまったから、一ヶ月で二ランクも上がってるし、ランクアップもせっつかれてるんだけど」


『やらかした、とは?』


「結界魔法もあまり使える奴がいなかったらしくて。だいたい、ギルドのランクは強さじゃなく、実績も関係あるんだからCランクでも分不相応なんだよ、本来なら。依頼受けて達成したの三件ぐらいしかねぇし」


 ウラルたちのダンジョン探索体験ツアー、シャドーマントヒヒ討伐、カーラとウラルの日帰りダンジョン探索体験、の三つだ。

 依頼が出ていた素材採取を事後達成したのは、そこそこあるが。


『別に冒険者として頑張りたいということではないのか?』


「適当で。たっぷり稼いでるし。後は自分の趣味を満喫するだけだろ」


『いいのか、それで』


「いいんだよ。ダンジョン探索も趣味で楽しんでるし」


 さて、片付けるか、とアルは食べた食器はクリーンをかけてから、マジックバッグに収納する。イディオス用に作った物は進呈で。

 一人掛けソファーとコーヒーテーブルもマジックバッグへ収納。


『もう行くのか』


 誰かと話すことがあまりないのだろう。淋しそうだ。


「ああ。明るいうちに街に入っときたいんで。また来るよ。一度来た所なら転移で一瞬だしさ」


『あ、そういえばそうか。では、またな。アル。馳走になった』


「いえいえ」


 アルは再び小鳥になってから、片手…片羽を挙げてから転移した。

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