第7章・ラーヤナ国
093 旅の方針は『面倒はさける』
「ん~?思ったより魔物が多いな」
アルは上空を飛びながら首を傾げた。
山の奥は魔物の生息域なので当然と言えば当然だが、ギルド情報に載っていない高ランクの魔物がちらほらいるのだ。
人里や街道の方まで来ないのなら何もしないが、あいにくと二匹は街道に近過ぎた。
バイコーン。
二本角で毒ありの馬型のBランクの魔物である。
発見した個体は普通の馬の二倍ぐらいあった。
この毒が厄介で普通の毒消しポーションがほぼ効かず、バイコーンの毒から作り出した毒消しじゃないと完全回復は出来ない。
他には高レベルのキュアポイズンなら治せる。
アルは【状態異常全耐性】があるし、防毒リングもあるので、まず、大丈夫だが、バイコーンの毒も入手して防毒リングの強化をしよう。
アルは空を飛んだまま、サクッとバイコーンの首を
エアカッターである。
アルは地面に降りると、採取用のガラス瓶を錬成してスライム皮の手袋をはめると角の毒だけ垂らして入れる。
この毒以外の素材は毒抜きして使えるようにするまでに、かなり手間も時間もかかるので売っても大した値段にならない。魔石を出した後は燃やして【浄化】もかけてから埋めておいた。
続いて、やはりBランクのバーサクゴート。
ジャンピングゴートの上位種で、一定以上の攻撃を受けると狂ったように興奮して、攻撃力、防御力共に上がることから、バーサクと名付けられた山羊の魔物だ。
体長は3mぐらいあり、風・雷の魔法を使って来る。敏捷性も高いので発見しても追いつけず中々討伐出来ない、ということでも厄介な魔物だった。
…まぁ、障害物があっても遠距離攻撃が出来る、影転移が使える、バーサクゴートより敏捷性が高い、転移魔法も使える、というアルには普通の魔物と大差なかった。
中々討伐出来ない、ということは素材が高く売れるので、なるべく無傷で、と蹴り一発で倒した。
ちょっと吹っ飛び過ぎて木にぶつかったので、その辺りは反省である。
もし、この場面を第三者が見ていたら、手のひらに乗るようなよく見る小さな小鳥が、バーサクゴートに体当たりをして倒した、と見えて混乱したことだろう。
そう。
アルは【変幻自在の指輪】で小鳥に見せかけていたのだ!
空を飛んでも目立たない姿、となると小鳥が最適で、見せかけだろうと何だろうと、本物にしか見えないのなら問題ない。
ダンたちにしっかりと確認してもらっているので、余程、カンがいい人じゃなければ、違和感に気付かないだろう。
ちなみに、ダンたちにも【変幻自在の指輪】を使用させた所、ちゃんと姿は変わったが、数分が限界、という魔力消費は結構するものだった。
豊富な魔力を持つアルだと魔力自動回復スキルで間に合うぐらいなので、見せかけの姿のまま、魔法攻撃というのもまったく問題なかった。
バーサクゴートを丸ごとマジックバッグに収納すると、アルは再び空を飛んだ。
予定通り、上空から見える所まで転移、を繰り返している。
転移の連続はさすがに魔力消費が激しいので、休憩によさそうな所を見付けてたびたび休む。
1000もの魔力を回復するアル専用高魔力回復薬…エキストラMPポーションを自作して持っているが、さほど急ぐ旅ではないし、味の改善が出来なかったので、飲まずに魔力自動回復スキルに頼る。
味をよくすると効果が落ちる、効果をよくするごとに薬草臭く苦く後味も悪く、と1000以上回復するものもあるのだが、本当にそれは最終手段にしておきたい。
味見だけで悶絶し、キュアをかけた程のマズさだったのだ。
薬草各種を煮詰めて作るものなので、どうしようもないのかもしれないが、効果を落とさず味がよくなる素材でも何かないのだろうか……。
少し甘めの方がいい、と今回のお茶はアップルティーではちみつをたらして、ほんのり甘くした。お茶菓子はなし。たびたび休憩しているのでお茶だけでいい。
進む方向が合っているのか、確認するために【冒険の書】を開き、その地図を見る。
リアルタイムで更新されているため、世界で一番詳しい地図だ。
自分の現在位置が表示されたらナビで更に使えるのに、と思ったら、少し前から表示されるようになった。ユーザー対応も抜群である。
「ありゃ、少しそれたか。目印少ねぇと仕方ねぇもんがあるけど」
【冒険の書】がなければ、アルはとうに迷子になっていたかもしれない。
街道や道を通っていれば、それ程派手に迷うということはないのだが、最短距離を進んでいるアルは簡単に迷うワケで。
目的地がない旅なら問題ないが、今回の目的地はラーヤナ国キエンの街、たびたび確認せねば。
山を越え、草原に出た所でアルは移動手段をバイクに変更した。
魔力貯蔵タンク利用で魔力消費節約になることもある。
【変幻自在の指輪】は解除し、普通の見た目のままに。さすがに人間以外が運転していると不自然なので。
こちらの夏は日本程、暑くはない。正午過ぎが一番暑い時間帯なのは同じでも、日陰に入っていれば脱水を心配する程、汗が流れる、といったことはない。
歩いていれば生ぬるい風でも、バイクで走れば適度に涼しい。そこまで日差しも眩しくないので、色を入れたゴーグルも過剰装備だったか、と少々思わないでもない。
…いや、アルのステータスが高いから、日差しが強くても眩しくないだけでは。
そんなことに気付いてしまった。
街道に出ても、探知に人間はまったくひっかからなかった。交易はしているが、川からの方が盛んで山方面に行く用事が中々ないのだろう。
ここは山と山の間の地域。
それはエイブル国アリョーシャの街から見てのことで、南側が
アルのバイクはその小さな街に入らず、通り過ぎる。急ぐ旅ではなくても、明るいうちじゃないと進めないので。
街の近くにはさすがに人がいたが、商人や旅人ではなく、街の人が近くの森に狩りや採集にでも行くような感じだった。
道なりに進んで行くと、行商人らしきまとまった人数の気配を察知。アルは面倒なことになる前にバイクを停めて収納し、小鳥になって空を飛び転移する。
優秀な魔力自動回復スキルのおかげで、もうそこそこ魔力が回復していた。
今回の旅の方針は『面倒はさける』である。
姫一行に関わったおかげで、後々も関わるハメになり、ひいては領主の増長を招いてしまったのだ。学習はするべきだろう。
そうして、転移を繰り返して進み、もう一山を越え…ようとして、絡まれた。人間ではなく魔物に。
『待てぇいっ!貴様は何だ?ただの鳥ではあるまい』
いきなり現れた見かけは小鳥、怪しくないワケがなかった。
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