085 どっかのサーバーかっ!
色々作ったせいで、綿の在庫がそろそろ少なくなったアルは、朝からアリョーシャダンジョン5階の森林フロアに来ていた。
転移で。
森の中に綿の木が群生しているので、さくさくと集めて行く。
ギルド資料には乗ってなかったが、報告するつもりはない。
情報が広まれば採取に来る人たちも出て、夢中になって採取してるうちに魔物にさくっと殺られそうなので。
…いや、それ以前に道なんかない森の中で迷ったり、途中で殺られたりしそうだ。
ソファーに使って減った羊毛とソーセージのための腸も補充しておこうと、6階のスリーピングシープを狩りまくる。
素手でもオーバーキルだった。羊毛製品に「虐殺の…」という枕詞がまた付いてしまうかもしれない。
次は10階に行くと、フロアボスのブラックベアは倒されており、リポップ待ちだった。
しまった。【冒険の書】で確認してから来ればよかった。
見なくては、せっかく便利な書も意味がない。
20階のワイバーンは健在なんで、20階に移動する。
今回は転移魔法陣で。
前回のドロップは、魔石と飛竜の槍とエスケープボール、という中々いいものだった。
自分が使わないので飛竜の槍があるのをすっかり忘れていたが、キラキラ宝箱との交換で使えたかもしれない。
さて、今回もバジリスク同様、肉弾戦で勝負しよう。
他のボス部屋よりかなり広く天井もかなり高く、そこを飛んでいるワイバーンだが、アルも飛行魔法が使えるし、不規則で速い動きが出来る結界を足場に使った移動法でもいい。
アルは飛行魔法でワイバーンに近付いてから結界を足場に急加速し、眉間に拳を入れ、連打する。
さすが、飛竜と言うだけあって、ふらついたが、墜落はしなかった。
アルはちょっと思い付いて背中に乗ってみる。
ゴツゴツしていて乗り心地はよくないが、ブレスや爪攻撃は絶対届かない。
やはり、羽は舵の役目で飛行自体は魔法だった。
ワイバーンがウインドカッターを放って来たが、アルはあっさり避ける。
すると、キリモミ、回転と振り落とそうとし出したが、飛べる相手に意味ない、と考えないらしい。
せっかくなので、背中に張り付いていたが、乗り心地の悪さがちょっと。
そうだ!鞍を作ろう!
全体はカウ革で羊毛綿でクッション製も高め、スライム皮でベルトにゴムを入れフィット感を増す。
ワイバーンの背中に乗ったままだと、素材を落とすかもしれないので、水槽風の結界を作って腿で支え、その中に素材を出し、一瞬で錬成すると同時に結界も解除、鞍の位置をワイバーンの長い首の根本に調整して、風魔法でワイバーンにベルトをかける。
固定するのは魔法では難しかったので、アルは自分の手で固定した。
うん、中々いい乗り心地だ。
「待たせたな。いいぞ。暴れろ」
ファイアボールやエアカッターを放って来ていたワイバーンだが、命中精度が悪かったので、結界を張るまでもなかったのだ。
アルは鞍を設置するために、動いていたので位置がよく分からなかったのかもしれない。
アルが促してやっても、ワイバーンは普通に飛んでいるだけ。
あまり知能はなさそうだが、戸惑っているのだろうか。
「えーもっと激しく動けよ~」
アルは目の前のワイバーンの首の根本を殴るが、ビクッとしただけで暴れなかった。
怯えてる?
ちょっと思い付いたアルは、【冒険の書】を取り出し、アリョーシャダンジョン20階の情報を見てみた。
【ワイバーン・テイムチャレンジ中】
討伐中、ではないのか。
「え、いらねぇし、テイムチャレンジなんかしてねぇんだけど」
ワイバーンは可愛くないし、造形的な美しさも乏しい。
大角トカゲの方が余程可愛い。
アルはさっさと【冒険の書】を収納に戻すと、作ったばかりのワイバーン騎乗鞍も収納した。
ちゃんと倒すことにし、バジリスクのようにピンボール攻撃を繰り返すと、それから五分程で絶命した。
そして、またしてもすぐにドロップしない。
「三回目ともなると慣れたもんだよな~」
アルは念のため結界を張ると、ソファーセットを出し、ティータイム。気分で紅茶にする。お茶菓子はチョコチップクッキー。
【冒険の書】には今の状況はどう表記されてるのか気になったので、もう一度出して見てみた。
【20階・システムエラーにつき復旧中】
「どっかのサーバーかっ!」
アルは思わずツッコミを入れる。
しかし、そうか。
自分が分かる表記になってるだけだろう。
ソロ、武器なし討伐、鞍を作って乗る、と想定外なことばかりだと、システムに負荷がかかりまくりか。
こうなると、ドロップ品もますます楽しみになって来た。
待ち時間の間、【冒険の書】でアリョーシャダンジョンの隠し部屋を探してみる。
ランダムに移動しているので、タイミングが重要だ。
1階ごとによく見て行かないと見逃すので、じっくりと……。
「んん?綿の木のこと載ってねぇんだけど」
【冒険の書】ですら把握してないのだろうか。
…いや、ドロップ以外の素材はあまり載せてないだけか。川の魚もなかった。
そうこうするうちに十五分経過し、ボコボコにされたワイバーンが淡く光りドロップに変わった。
魔石と木箱と手のひらサイズの宝石は付いてない小さなキラキラ宝箱の三つだ。
魔石はすぐに収納し、長方形の木箱と宝箱は罠がないことを鑑定し、まずは木箱から開けると、やはり書物だった。また三冊。
【魔法陣の書(入門・基礎・応用)三冊セット…かつて栄えたレムリア文明の叡智をまとめた本。知性、豊富な魔力量、知的好奇心、この三つを備えた者に与えられる。
入門編を修めれば『伝説の魔導師』、基礎編を修めれば『比類なき叡智を持つ者』、応用編を修めれば『神の領域に踏み込む者』と称号が付くことになるだろう】
……ものすごくものすごくとんでもないものだった。
パラパラめくると、本当に入門編にダンジョンの転移魔法陣とマジックバッグの魔法陣が載っている……。
どれだけ先は長いんだ……。
丁重に収納した。
さて、続いては手のひらサイズのキラキラ宝箱だ。
ラミアのドロップで出たサイズであり、あの時は【変幻自在の指輪】という素晴らしいアイテムだったので、どうしても期待が高まる。
まずキラキラ宝箱を鑑定すると、【人魚の鱗】という素材が合金に含まれていた。更に鑑定。
【人魚の鱗…他の素材と合わせて、水中で問題なく過ごせるマジックアイテムを作ることが出来る】
中々いいアイテムだが、水中に潜ることがあるのだろうか。まぁ、備えとしてはいいか。
宝箱の中には、六芒星の真ん中に透明感のある緑の石が入ったデザインの銀色の鎖のペンダント。
【ディメンションハウス(Level1)のペンダント…異空間の別荘に行けるアイテム。常に身に付けていると、魔力を蓄えレベルが上がる。キッチン、トイレ、風呂完備。
レベルが上がると家もスペースもカスタマイズ出来るようになり、材料や植物を持ち込んで手を加えることも出来る。安全のため、空間魔法の使い手にしか所有出来ない】
……えーと。
……うん。
「危険なシロモノなのか便利で素敵な別荘なのか、どっちかにして欲しかったな…」
テンションも上げていいのか、下げていいのか、よく分からなくなった。
つまり、転移魔法が使えれば、アルにとっては危険じゃない、ということでいいんだろうか?
もうちょっと詳しいことを教えろよ、鑑定様。
【ディメンションハウスに一度行った後なら、転移魔法でも移動出来る】
じーっと【ディメンションハウスのペンダント】を見つめていたら、追加情報が脳裏に表示された。
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