084 一般的な魔法使いなら二十人必要
「ちょっと貸して」
何だかすごいアイテムに思えたアルは、オーブを手に取って鑑定してみる。
【特級オーブ・色んな使い途のあるオーブだが、まだ何も手を加えられていない。日々魔力を注いで溜めて、大きな魔法を使う時に引き出したり、あらかじめ魔法を封じ込めて魔力の少ない者に使わせたり、魔道具の素材として使ったり、オーブに魔力を込めて触媒として使えば、回復薬の質を上げることが出来、材料を集めればエリクサーも作成出来る。また、ゴーレムの核として使うのなら学習機能を付けられる】
つまり、魔道具やロボットのAIとしても使えるということか。
【うさぎの後ろ足】を使ったラッキーアイテムはまだ作ってないが、ステータスの幸運が仕事しているらしい。
「…うっわ、無茶苦茶とんでもねぇアイテムだぞ」
「え、魔法を封じ込められるんじゃなかった?」
「それだけじゃなかった。もっと色んな用途で使えるものだった。他の魔法使いの鑑定はおれ程、見えてなかったのは確実。国を挙げて確保に走る程の逸品。ってことで、ソファーの代金にはもらい過ぎなんだけど」
詳しくは言わない方がいいだろう。
他の鑑定スキル持ちには【オーブ】としか見えないようなので。
「アルがとんでもないって言うもんを、おれにどうしろと?引き取ってくれよ~国とか出て来ると身の危険を感じるし~」
「あーまぁ、おれなら有効活用出来るのは確かか。じゃ、ソファーだけじゃなく、マジックバッグも作ってやる。時間停止の」
図太いアルでもいつまでも出しておくのは怖いので、オーブはさっさと空間収納にしまった。
「…やっぱり、ダンのマジックバッグ、アル製だったか…やっぱ天才か」
察してはいたらしい。
「って、このオーブ、それ程のもんだってことかっ!」
「そうだって言ってるだろ。マジックバッグの形はどうする?ウエストポーチ型でも機能面に不足はねぇぞ」
「あーじゃ、カッコイイのお願い。色は目立たない方が」
「カーキ色。素材はゴートだな。柔らかくてバッグ向き。ソファーの色は?」
「一緒のこの色がいいなぁ。薄い黄色?」
「クリーム色。…うーん、材料広げるのにちょっと手狭だな」
アルは一旦、自分のベッドを収納にしまい、クリーンをかけてから替わりに作業テーブルを出した。
まずはウエストポーチ型マジックバッグ。
ベルトには調整金具だけじゃなく、ゴムも使ってフィット感も上げる。
さすがに一発錬成は出来ないので、作ってあった金属ファスナーを使ってウエストポーチを作った。
ホックで留める飾りベルトを付けた蓋付きポケット二つを前側に、上がファスナーで開くようになっているが、パッと見は分からないようファスナーが隠れる革を付けたコンシールファスナーだ。
そして、バッグの内側をマジックバッグにする。
時間停止にするにはAランク魔石が必要で、一時はバイクに使い不足していたが、パラゴダンジョンに潜った後の今ならたくさん持っている。
いつものように魔石を重力魔法で粉になるまで粉々に砕きインクと接着剤に分けて混ぜ、マジックバッグの中に魔石粉入りインクで魔法陣を描き、その上に接着剤を塗って風魔法で乾かし、空間魔法付与。
容量はダンの物と同じく10m四方。十分だろう。
「ほら。直して欲しい所があれば、今のうちに」
「ありがとう!…っていうか、何?そんなに簡単に作れるもん?」
「おれだから簡単に見えるだけで、消費魔力量だけでも一般的な魔法使いが二十人ぐらいは必要だぞ。魔石を砕くのも多分、数日かかる」
Aランク魔石となると、大きさはピンポン玉ぐらい、魔物を焼き尽くしても残るぐらいの硬度があるのだ。
ダンジョンだとドロップするので、魔石ごと燃やし尽くす心配はしなくていいが、破格の魔力量のアルは気を付けねば。
「…そうだよな。簡単に作れるんならとうに出回ってるか」
「そ」
ボルグは早速ウエストポーチ型マジックバッグを装着し、ファスナーを開け閉めし、あれこれ入れたり、前のマジックバッグから移し替えたりして楽しんでいる。
その間にアルはソファーを作成した。
こちらは錬成よりも過不足なく素材を出す方に気を使う。
錬成した後、ボルグの方には名前を入れてやった。肘置きの所にオシャレな飾り書体で。
「アル、アル、こっちもこっちも!」
気に入ったらしく、ウエストポーチの方にも名入れを要求されたので、裏側に入れてやった。
「って、アル、そろそろ魔力ヤバくね?平気?」
「まだまだ平気だって。まぁ、帰って来たばかりで王族関係に巻き込まれたから、精神的な疲労はしてるけどな」
こんな時はハーブティだろう、とアルは片付けてベッドを戻した後、茶器を出してお茶にした。
もちろん、ボルグにも淹れてやる。お茶受けは饅頭。
どこまで食べ物を美味しく錬成出来るか?と試しで作った物で、美味しかった。
一人掛けソファー二つとなると、足の踏み場が狭くなるが、まぁ、たまにならいいか。
まったりお茶した後、ボルグは出来立てソファーを大事そうにマジックバッグに収納してから、自分の部屋に帰って行った。
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