083 スライム皮は快適生活に貢献

「よぉ、お帰り。ダン」


 ダンが風呂場に入って来た時、他の誰もいなかったので、アルはちょっとイタズラしてみた。


「…誰?」


「おれ。アル。元の世界の顔のおれ。身体に合わせて十六歳バージョン」


 【変幻自在の指輪】を使ってアルは元の世界の顔にしていたので、ダンが分からなくて当然だった。


「……戻れたってことか?」


「いや、残念ながら見せかけだけ。そういったマジックアイテムゲットしたんで。猫にもなれる」


「…本当だ。驚いたな…あれ?」


 ダンは普通に撫でようとした。


「だから、見せかけだけで実体はないんだって。撫でられねぇよ」


 アルは笑って再び元の世界の顔にした。


「この顔、この世界だと違和感ある?」


「違和感と言うか…そうもキレイな顔があるんだな」


「ってことは、やっぱスゲェ目立つ?」


「ああ。風呂場以外は男にも口説かれるんじゃないか。性別間違えて」


「十代前半の時は元の世界でもそうだったんだよなぁ…。母似の女顔なんだよ」


 アルはさっさとアルトの顔に戻し、【変幻自在の指輪】は空間収納へしまった。

 戻さなくてもしまえば解除された。


「アルこそ、お帰り。早かったな」


「まぁな。パラゴのダンジョン、ボスが弱過ぎだった。10階はミノタウロス、ダンジョンボスはバジリスクだったんだけど」


「バジリスクで弱いって何だ?」


「そう思うだろ?全長20mオーバー太さ2mぐらいって図体もでかかったのに、再生能力がなかったんだよ…」


「でも、石化攻撃して来るんじゃなかったか?」


「だから、まず目を潰して、飛んで来る鱗斬って、尻尾の方からざくざく斬ったら終了だったんだよ。毒も吐くからあらかじめ毒消しポーション飲んで備えてもいたのに、たった三十秒ぐらい」


「…アル、何かまた更に強くなってないか?」


「そうかなぁ?錬金術のレベルは上がった実感があるんだけど、他はイマイチ。錬金術でパンが作れるようになった!」


「ほう。美味い?」


「もちろん!でも、おれが理解してない食材だと上手く錬成出来ねぇんだって。そりゃそうだよな。錬金術もイメージが大事」


 土産話をしながら、まったりと風呂を楽しんだ。

 パラゴには土産になるような物はなかったが、一番の目的だったスライム皮が大量にある。

 なので、風呂から上がった後、ダンたちにはスライム皮を使ってゴム入り靴下と下着をたくさん作って、土産にした。コットン製だ。

 もちろん、喜ばれた。

 文明レベルがまた一歩進み、快適なのだから。


 ******


「アルの元いた世界ってすげーもんばっかだったんだなぁ」


 夕食後、アルの部屋のソファーにボルグは座っていた。

 コーヒーテーブルと共に設置したら気に入って居座ってるのである。


「そうだけど、こっちだって便利な魔法がたくさんあるのに生産にはあまり使われてねぇのが不思議」


「錬金術自体、使える人が少ないんだって。構造をちゃんと分かってないと錬成出来ないんだろ?」


「そう。だから、おれは器用に色々作れるんだよ。ソファーの構造知ってるし、靴下だって毛糸で手編みしたことがあるし」


 素材を変えて細くするだけだ。


「…ああ、基本的な知識がない人が多いんだな、つまりは」


「そんなに色々知ってる方が驚きなんだけど、どう勉強したんだ?」


「元いた世界は教育設備も整ってたんだよ。読み書き計算だけじゃなく、この物質はどんな素材から出来ていて、どんな性質を…って感じで。簡単に言えば、そのソファーだって長い歴史の中、色々創意工夫して現時点での最終形態がその心地良い座り心地だ。人類の叡智えいちの結晶とも言える」


「難しい言い方すんなよ~。簡単じゃない~」


「ボルグもそういったソファーが欲しいのなら、マジックアイテムと交換で作ってやろう」


 ボルグもCランク冒険者だし、ダンたちと色んなダンジョンに潜った経験があるので、マジックアイテムもそこそこ持っていた。


「おお~!…あ、でも、もうちょい大きいマジックバッグを買う方が先だな。このソファーを入れると他の荷物が入らないし」


 ボルグも小さいマジックバッグは持っていた。

 ダンジョン産ではなく、人工でCランク冒険者なら手が届くお値段の物だ。


「拠点を移す時はおれかダンに頼むだけだろ」


 アルが作ってプレゼントしたダンの容量が大きいマジックバッグは、さすがにパーティメンバーには隠しておけず、『ツテを辿って入手した』ということになっていた。

 パーティメンバーは信頼はしているが、何も知らない方が安全だ、と判断したワケである。

 アルが規格外だとどんどんバレてるので、もう薄々は察しているだろう。


「あっ、そっか!賢いな、アル」


「この程度で賢い認定されたくねぇな。で、何のマジックアイテムを出す?」


「じゃ、これ。オーブはどう?魔法を封じ込められるから魔法使いが欲しがるって話だけど、こっちが何も知らないと思って安く買おうとする人ばっかで、結局、今も持ってたワケで」


 ボルグがウエストポーチ型マジックバッグからテニスボールぐらいの珠を出した。乳白色で透明感があるが、薄曇りで真ん中までは見えない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る