082 バイクで遊覧飛行

「姫様の説得の報酬は?ウラル」


「我が家の書斎の本を読める権利でいかがでしょう?持ち出しは父に相談しなければなりませんが」


「何冊ぐらいある?」


「二百冊ぐらいはあります。政治経済他国の情報だけではなく、物語もいくつか」


「報酬はそれでいい。ギルドは通さなくていいから、この後は解散ってことで。ギルマスには言っとくし」


「ぼくも行きます。カーラのダンジョン探索、ずっと延期になっていたので指名依頼出します。日時は後日でもいいでしょうし」


 誰かさんのおかげで、という遠回しのイヤミが入っているが、姫は気が付かないようだ。

 カーラも姫と一緒ダンジョン探索に、というのは護衛の面からしても無茶過ぎる。


「そうそう、ウラル、バイクに乗ってみる?ウラルぐらいの重さならかろうじて後ろに乗せられるぞ」


「是非!」


「じゃ、ゴーグルは作ってやろうかな」


 カウ革、ガラス、スライム皮、フレームには軽いミスリル合金。銀の合金だと重さのあるガラスを支えるのに向いてない。

 アルはマジックバッグ経由で材料をテーブルに出すと、ゴーグルを錬成した。後ろのベルトで調節も出来るが、横がゴムにもなってるのでフィット感は問題ない。


「…どれだけアルさんが何でもありなのか思い知ってましたが、実際、錬成する所を目にするとやっぱり驚きますね」


「そ?」


 他の錬金術師ならどれだけ時間がかかるのか、部品ごとにやるのかも?で想像が出来ない。


 ウラルにゴーグルを着けさせてベルト調整をした後、姫と騎士二人に辞去の挨拶をすると、テーブルセットお茶セットをさっさと片付けて、結界も解除した。

 そして、アルがバイクにまたがり、シートの後ろにウラルを乗せ、手をアルのウエストに回させる。


「落ちてもすぐ拾えるから安心しろ」


 結界でキャッチ出来る。


「それ以前に落とさないようにして下さいよ~」


「じゃ、動かすぞ」


 アルはいつもよりゆっくりスタートさせた。


「えー?何で揺れないんですか?」


 馬車の悪い乗り心地の方に馴染みがあるウラルは、揺れるのを覚悟していたらしい。


「特殊な車輪、タイヤのおかげ。徐々にスピード上げるけど、無理だと思ったら言えよ」


「分かりました」


 まっすぐ門に行くとすぐ着いてしまうので、アリョーシャの街をぐるっと防壁に沿って回ってやることにした。


「気持ちいいです~。でも、音はあまりしないのはどうしてです?」


「タイヤのおかげと路面が荒れてねぇからだろ。まだ平気?」


「大丈夫です。…わわっ!速い!」


 喜んでるのでまだスピードを上げても大丈夫か、とアルはスロットルを開ける。

 のんびりな馬車しかないので、スピード耐性がないかと思いきや、若いからかウラルはすぐに順応した。

 余計な力も入ってない。


「楽しいです~♪けど、魔力平気なんです?」


「まったく平気。おれ専用バイクだしな。…よし、周囲に人影なし。飛ぶぞ」


「……ええ~っ?」


 バイクを飛行モードにすると、ウラルは驚いていたが、思ったよりは驚かなかった。10mぐらいの高さを飛んでやる。


「飛べるって…えー?どうやって?」


 驚きより混乱したらしい。


「飛行魔法。もうちょっと高度を上げるぞ。街を見下ろせる滅多に出来ない体験」


 街の中に入るとさすがに目立ってしまうので、防壁の外から回る。

 走行モードより飛行モードの方が魔力を使う、とはいえ、魔力貯蔵タンクのチャージしてある魔力を使ってるので、アルの負担はあまりない。


 ウラルは飛行モードもすぐ慣れて、遊覧を楽しむ。

 一周が終わる所で、地面に降りた。着地の衝撃は全然なく、スムーズに走行モードに切り替わる。


 そして、門の所に到着した。

 門前で待ってる人たちが驚いてこちらを見て来るが、アルはすっかりスルーしてバイクからウラルを下ろし、バイクをマジックバッグにしまった。


「あーもう終わってしまったんですね。楽しかったです」


「そりゃよかった」


「飛行魔法ってアルさんが使ってたワケじゃないですよね?魔力の流れからしてもバイクが発動したってことです?」


「そう。飛行魔法を内部の魔法陣に付与してあるんだよ。ほら、ダンジョンの転移魔法陣があるだろ?あれは魔法陣に転移の魔法を付与してあるワケで」


「…あっ!そういうことですね。あのバイクの速さなら二時間でパラゴに行けるのも納得出来ます。バイクはアルさんにしか作れないとのことでしたが、飛ばなくてスピードももう少し抑えたタイプなら他の人が乗れる物が作れませんか?」


 欲しくなったらしい。


「無理だな。すぐ魔力が尽きる。おれが平気で乗っていられるのは、魔力自動回復スキルと魔力操作スキルがあるからってのも大きいんだって。誰でも乗れるようにするなら、魔力じゃない違う動力を使う物を開発するしかねぇな」


「そんなのあるんですか?」


「帆船は風のエネルギーを利用してるだろ?陸上では障害物が多いから、余程の強風じゃないと進まねぇけど」


「ダメじゃないですか」


「自分じゃない力を使うのなら魔物をテイムする、召喚魔法で使い魔を召喚して使う、ゴーレム…は作る時に魔力がかなり必要になりそうだな」


 アルたちはそんな話をしながら街に入り、冒険者ギルドに向かった。

 錬成したゴーグルは、そのままウラルにあげた。パラゴは土産に出来るような物がなかったし、空を飛んだ記念で。

 何とか円満に姫関係が片付いたようで何よりだった。

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