081 姫様を説得してみる
「少し一服してから行く?疲れてそうだし」
「お願いします!」
アルの言葉にウラルは二つ返事だった。
ウラルはレベル上げしたおかげでまだまだ余力がありそうなのだが、精神的には疲れてるのかもしれない。
他の三人は「何言ってんの?」な反応だったのでスルー。
ダンジョンの出入口からすぐ見える木陰の下に、アルは六人掛けテーブルセットを置き、ハーブティを用意した。
お茶菓子は一切れずつ切ってしまってある、バナナのパウンドケーキ。小皿にパウンドケーキを載せ、フォークを添える。
棒立ちの姫、騎士たち二人も促して座らせ、一応、結界も張った。
「遠慮なく頂きまーす。…美味しい!これもアルさんが作ったんですか?ケーキまで?」
「おう。オーブンがねぇと上手く焼けねぇんだけど、そこは錬金術で。レベルが上がったらしくてさ」
「更にすごくなってますね!アルさん、何か魔道具の乗り物?を作ったようですが」
「ああ、これ」
アルはテーブルの脇に、マジックバックからバイクを出した。
「…ええっ?何か思ってたのと大分違います。馬っぽいのかと。その車輪が回って走るんですね」
「そう。走ってる所を見た商人が騒いでたらしいけど、ウラルはおれが作ったって何で分かった?」
「それは経験からですよ。何でもありなアルさんなら、とんでもない物も作れるんだろうなって。でも、姫様の前で出してしまってよかったんです?」
「逆だ。姫様の前だから。…姫様、この乗り物の価値が分かる?」
アルが話を振ると、姫は驚いてケーキを食べる手を止めた。
出された物を疑いなく普通に食べてる辺り、箱入り姫様である。
五番目ということもあって、教育もそう厳しくされてないこともあるのだろう。それは太めの体格が物語っている。
騎士が止める前に姫が食べ始めていたので、騎士も苦笑だったが、さすがに今回のアルの言葉は注意した。
「ちょっと待て、失礼だろう。言葉を改めないか」
「平民がちょっと取り繕った所で見苦しいだけだろ。王族なら笑って許す器の大きさも必要だと思うが?公式の場じゃねぇんだし」
「その通りです。言葉遣いは構いません。申し遅れました。第五王女、キャデリーヌ・ボルソワ・エイブルです。その乗り物の価値は、まだ性能を見せてもらってませんので、まだ何とも言えません」
「じゃ、まずは性能を紹介しよう。ここからパラゴの街まで急いでも馬で一週間半はかかるそうだけど、この乗り物、バイクだと二時間ぐらい」
「…ご冗談を」
「本当に。ただ、魔力駆動…駆動って分かる?魔力で動かしてて、このバイクは消費する魔力も多い。大半の人は動かせも出来ねぇ程に。なのに、おれがバイクに乗れるのはかなり魔力が多いから。騎士さんたちは見たな?盗賊たち十人全員を空に飛ばしても、おれが全然平気だったのを」
「…ああ。あの時は目を疑った」
「その前に盗賊たちのアジトの小屋を解体して整地して、腐ってる食材その他を燃やして、ともやってるワケだ。それでもまだまだ余裕でバイクに乗れる。おれしか乗れねぇバイクだけど、高性能。最先端技術も使ってる。さて、姫様、このバイクの価値が分かった?」
「バイクに使ってる技術を応用出来れば、かなりの発展を望める?」
「不正解。こんな高性能バイクを偶然とはいえ見付け、王様の前に出すだけでも姫様の功績になる。珍しい物は自慢になるんだろう?ちなみに、このバイクはおれにしか作れねぇ。最先端技術も応用どころかマネすら無理。何故なら、高ランク魔石とレア素材をたくさん用意し、錬金術、魔法陣、付与魔法、各種属性魔法、そのすべてが使えねぇと作れねぇから。あ、器用さもか」
「…あなたは冒険者では?」
「冒険者だから、速い移動手段が必要だったんだよ。色々各地を巡ってみたいしな」
「アルさん、ちょっといいです?何故、姫様に助言なんてしてるんですか?そのバイクよりアルさんの方が格段に価値が高い。ヘタに関わると囲い込まれてしまいますよ。いや、ぼくが助けを求めておいて何ですが」
ウラルがそんなことを言う。
「それが理由。姫様は功績上げて発言力を強くして、円満に王宮にお戻り頂こうってワケ。おれを捕まえるのは相当難しいと思うけど、居辛くなったら他の国に行くだけだし」
「そんなに簡単に言わないで下さいよ…」
「ん?二度と会えなくなるワケじゃねぇぞ?ダンジョンの転移魔法陣を解析中だから、実用化出来れば一瞬だな。思うに、あれも魔力消費が多過ぎて、魔力の少ねぇダンジョンの外では発動しねぇんだって」
「…アルさんってさ…色々とデタラメ過ぎるよね…」
「快適な生活のために色々頑張ってるだけだって。【快適生活の追求者】っていう称号が付いたし」
その頭に付いてる【時には虐殺もする】は言わない。誤解されそうなので。
「…それもまたすごいですよね」
「それで、姫様、おれと交渉する?王宮にバイクを見せに行ってもいいけど、タダとは行かねぇ。かかる諸費用は当然そちら持ち。報酬はそちらが用意出来るだけの書物。王宮図書室にいつでも入れる権利でもいい」
この条件ならアルにもメリットがある。
「悔しいですが、わたしにはそんな権限がありませんし、お金もありません」
「交渉しないってことでいいんだな?」
「仕方ありません」
「じゃ、ウラルはどうする?おれへの依頼は『姫様のダンジョン探索を手伝うこと』でいいのか?その場合、期間は?根本的解決にならねぇ、その場しのぎの依頼なら断るぞ。おれだって暇じゃねぇ」
「父とも色々相談したんですが、アルさん。姫様の政略結婚を白紙にして宮廷に戻すことは出来るんですか?」
「今さっき断られた方法以外でってことか?」
「はい。それはアルさんのリスクに比べて、見合う報酬が用意出来ませんから、他の方法で」
「いくつか方法はある。時間をかけるものなら派閥作って根回しして、どんどん発言力を強くして行き、第五王女でも他国にやるのはもったいない、と思わせること。これは資金もかなりかかる。てっとり早くだと姫様より偉い人たちを何とかするのはどう?」
「てっとり早過ぎです!もうちょっと穏便に」
「強硬手段を採るとは言ってねぇぞ。王様他重鎮を説得する。政略結婚するのは王命なのか?姫様」
「いえ。ならば、逃げることは出来ませんでした」
「だったら、王宮に帰って話し合いな。今の状態、ナバルフォール家を巻き込んで迷惑かけてるだけなの、分かってる?率直に言って、第五王女に大した政治的価値なんざねぇよ。交渉もロクに出来ねぇし。なのに、後妻とはいえ、隣の国の貴族…当然、有力な貴族との縁談って、案外、いい話だったかもしれねぇぞ。相手に会ったことはねぇんだろ?」
アルの問いに泣きそうな姫はコクリ、と頷いた。
打たれ弱い。
「でも、アルさん、親子程年が違うって話なのは…」
可哀想に思ってか、ウラルがフォローに入ろうとするが……。
「年の差夫婦って平民でもよくいるじゃねぇか。だいたい、姫様まだ十三歳だろ?親子程ってなると+二十歳としても三十三歳、男盛り。有能な人物なら気配りも上手く話も面白いだろうし、他国の姫様を妻にもらうのなら、体面上、待遇だっていいハズだ」
「…そういえば、アルさん、随分と事情に詳しいですが、どこかで調べたんですか?」
「いや、パラゴの街でスゲェ噂話になってるぞ。戻ってすぐこっちに来たんでアリョーシャではどうか知らねぇけど、王様の耳には入ってるだろ。これを放置してるってことは、自国内で結婚させるつもりがねぇのかも。今回の縁談が白紙になって他の縁談が持ち上がったとしても、『ああ、あの姫様』ってずーっと言われることになるんだぜ?」
「…それはキツイですね。でも、今更、姫様が帰った所で話し合うことが出来るんでしょうか?閉じ込められるだけでは?」
「何かお咎めはあるだろうけど、大丈夫だろ。姫様の出奔自体、王様のお膳立てだし。なぁ?騎士さん方」
「…どこで気が付きました?」
「報酬もらった時から。値切りもせず、金貨75枚もぽんっと払えねぇんだよ、普通の騎士は。主に窺いも立てず、騎士の裁量で決めるには額が大きいし」
関わりたくないので、全力で気付かないフリをしたかったのだが。
「…それは迂闊でした」
「大して政治的価値のねぇ姫様に、貴重な宮廷騎士が六人、しかも一人はもっと貴重な女性騎士も付いてる所からして怪し過ぎだし、そもそも、誰かが手引きしたとしても、世間知らずな姫様を連れて抜け出せる程、王宮の警備は緩くねぇだろ。逃亡資金も潤沢過ぎ。『適度に発散させて落ち着いたら戻って来い』って感じ?社会見学と息抜きも兼ねて」
これも当たりらしく、騎士たちは苦笑するしかなかった。
ここに騎士が二人しかいないのは、対外的には十分だし、後の四人は中々目が届かない地方の領地を視察しているからだろう。
もし、姫に何かあったとしても五番目だし、自分から出奔したのだから自業自得、と。
一挙両得、それが権力者の思考だ。
国王の手のひらの上で踊らされていた、と知った姫は、薄々は何かおかしく感じていたらしく、深いため息を漏らした。
「王宮に帰ります。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。ウラル様。子爵にもこの後、挨拶に参ります」
引き際を間違う程、愚かな姫ではなかったらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます