072 いまだに鳥肌モノ

 アルは宿の食堂でハーブティを頼む。

 喫茶としても使える食堂だった。


「おはよう、アル君。まだ出かけてなかったのかい?」


 そこに、パスカルが相席して来た。パスカルは遅く起きたらしく、通りがかった店員に朝食を頼んでいた。


「おはよう。パスカル。君付けはなしで呼び捨てでいい。一度出かけたけど、精神的ショックにより帰還」


「精神的ショック?アルく…アル、図太そうなのに」


「そうなんだけど、あれはキツかった…思い出すだけで鳥肌が。鬼婆が出たんだよ…何で鬼婆…」


「って、魔物かい?」


「そう。ラミア」


「…あーたまにとんでもなく怖いのがいるよね。人型の魔物って」


 パスカルは似たような怖い魔物に遭遇したことがあるらしく、察したらしい。


「じゃ、ハーピーとかアラクネとかも、かなり?」


「そう聞くね。ぼくが会ったのはセイレーン」


「…半魚人?」


 セイレーンは歌声で狂わせ船を座礁させる人魚の魔物だが、怖いとなると。


「サハギンの方がマシ、かなりマシ!」


 思い出してしまったのか、パスカルも鳥肌を立てていた。


「それにしても、ラミアなんてダンジョンのどこにいたんだい?」 


 パスカルはさっさと話題を戻す。


「隠し部屋。運がいいんだか悪いんだか、なんだけどさ」


 【変幻自在の指輪】のドロップは嬉しいが、あのラミアだと知っていたら、可能な限り、後回しにしたと思う。


「隠し部屋かぁ。なるほどね。アルはダンジョン攻略するつもり?」


「いや、ドロップを集める予定。鉱山フロアなんてかなりおいしいし」


 スパイダーシルクは19階なので、黙っておく。


「人気フロアだね。ぼくはそろそろ別の街に行こうかと思ってるんだけど、どこかお薦めある?」


「ほとんど知らねぇって。こっちが聞きたいぐらい。別に目的がねぇんなら、護衛依頼見て決めれば?」


「そうしよっかな。同じ所に長く滞在してると、何かのきっかけがないと中々動けなくなっちゃうんだよね。定住には向いてないクセにだらだらするのは好きなんで」


「どう過ごしても自由だろ。冒険者なんだし」


「なんだけどね。結構、長く生きてると時には反省するワケで。気付いてるだろうけど、ぼく、ハーフエルフなんで見た目の四倍ぐらいは生きてるんだよ。だから、驚くことも滅多になくなっちゃったんで、アルと話すのは新鮮だった」


 パスカルの見た目は二十五歳ぐらいなので、百歳か。

 …サバ読んでやがった。鑑定すると124歳だ。

 見た目年齢の自覚が違うのかもしれないが、大雑把過ぎのような気もする。


「そりゃよかった」


 そこに、店員がパスカルに食事を持って来たので、パスカルは食べ始めた。

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