071 ひぃぃいい~な魔物!

 翌日の朝。

 アルが商業ギルドに顔を出すと、受付に伝言されており、高ランク冒険者たちとの交渉日時は今日の午後二時、商業ギルド応接室にて、となったそうだ。

 問題ないので了承し、アルは午前中だけダンジョンに潜りに行った。


「そういえば、昨日、変な反応の場所があったな」


 思い出したアルは、その場所、パラゴダンジョンの4階に行った。

 使い続けているうちに探知魔法も成長し、脳内地図上で罠の察知まで出来るようになっているのだが、よく分からない反応をしていたのだ。

 昨日は攻略が目的だったのでスルーしたが、それは、4階の洞窟フロア、その真ん中辺りの通路の途中。

 ぐるりと集中して見てみても、おかしな所はない。鑑定も反応しない。


 こういった時は案外盲点なのは床と天井だ、と調べてみた所、天井に小さなスイッチがあった。

 これが探知魔法にひっかかったらしい。


 結界をいくつか張って階段状にし、スイッチの真下に少し広い足場を作る。

 何が起こってもいいよう、アルは自分の周囲に防音防臭、耐物理耐魔法結界を張った。

 念入り過ぎるかもしれないが、『転ばぬ先の杖』だ。

 スイッチも手で触れず、風魔法で空気の塊を作って操作した。


 カチッ。

 小さな音が聞こえたが、何も起こらない。

 しばらく様子を見てから、そっとスイッチの周囲を触るとスライド式の扉になっていた。

 そして、扉の中、上の部屋に罠があると探知魔法にひっかかる。

 鑑定もかけてみた結果、アルはスイッチの場所を中心に通路の両端を塞ぐ結界を張り、自分はスライド扉のすぐ横で、スライド扉を一気に開く。


 すると、ゴロゴロと部屋の奥から転がって来たボールが下の通路にたくさんたくさん落ちて来た。

 何の素材か分からないが、弾まない。綿?鑑定をかけると羊毛ボールだった。

 怪我するのは難しい柔らかさなので、悪意のないイタズラ兼隠し部屋を見付けたボーナスなのかもしれない。

 アルは有り難く空間収納に一気に収納する。


 通路を塞ぐ結界はまだ張ったままにしておき、上の部屋に入り込んだ。扉がある。その先が本当の隠し部屋なのだろう。


 戦闘準備をしてから扉を開けると、やはり番人がいた。

 上半身は女性、下半身は蛇のラミアだ。

 創作物だとキレイな女性として描かれることが多いラミアだが、この世界の…いや、ここの番人のラミアはとんでもなかった。

 ぼさぼさの白い髪を振り乱し、耳まで口が裂け、ギザギザに尖った牙をガチガチと鳴らし、目は血走った鬼婆だったのだ!


 シワシワの皮膚はよく見れば、鱗になっており、まだらに剥げたりささくれていたりして何だか汚い。

 まぁ、そうゆっくり観察したのはサクッと首をねて、ドロップに変わるまでのことだったが。


 アルは生理的嫌悪感で鳥肌が立つと同時に、戦闘では使ったことがなかった転移を発動し、ラミアの後ろに転移し、サクッ、だったワケである。ここまで全力で戦ったことはかつてない。


 ドロップに変わった後も心臓がバクバクしている程、恐ろしい敵だった。

 アルが気を取り直してドロップを確認すると、魔石と宝石なしで手のひらサイズの小さいキラキラ宝箱の二つだった。

 指輪が入っているようなサイズで、開けてみるとやっぱり指輪だった。


 【変幻自在の指輪・姿を思うように変えられるが、見せかけだけなので実物と大きさが違う姿になる時は注意。魔力が続く限り効果は持続】


「とんでもねぇもんが出たな…」


 見せかけだけでも、かなり使えるマジックアイテムだ。

 アルじゃなく、他人として堂々と行動出来るようになるのだから。

 まったく別の装備を用意せねば。

 声でバレるかもしれないので、無口キャラにするか、風魔法で声質を変えられないだろうか。いつも一緒の声で安定して、となると魔道具を開発した方がいい。


 色々試すのはどう見えてどう感じるのか、感想を言ってくれる信用の置ける第三者が必要だ。アリョーシャの街に戻ったらダンたちに頼もう。


 アルはドロップ品を収納すると、隠し部屋から出て、小部屋に入り、スライドドアから外に出て、元通りにちゃんと閉めておいた。通路の結界も解除する。


 ラミアのせいで探索する気分じゃなくなったので、1階の転移陣の側に転移してダンジョンを出て街に戻り、宿に帰った。

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