070 海苔ゲット!
パラゴダンジョンは1階~4階まで洞窟フロア、5階~9階まで草原フロア、10階はフロアボスで1階へと移動出来る転移魔法陣がある。
11階~15階は鉱山フロア、16階~19階は草原・森林フロア、20階はダンジョンボスでこちらも1階へと移動出来る転移魔法陣がある。
分かり易い構成だった。
中級冒険者パーティ向けは14階までで、15階からは上級冒険者パーティ向けだ。Aランクの魔物が続々と出て来て、階層を進むごとにどんどん連携もして来るようになり、20階。
ダンジョンボスはバジリスク。
王冠のようなトサカを持ち、視線で石化させ、強力な毒を吐く蛇の王様。伝説の魔物だが、大きさは個体差が大きく、ここのダンジョンボスは20mオーバー太さは直径2m前後あり、刃が通らない硬い身体で魔法防御力も高く、逆立った鱗まで飛ばして来るらしい。
文句なしのSランクだ。
それでも、倒せるパーティがいるのだから、しみじみと上には上がいる世界である。
もっとも、最後に攻略したのは二十数年前らしいが。
攻略するのなら、石化・毒・鱗対策をし、硬い身体を切れる程の素晴らしい武器を手に入れ、長い身体に巻かれないよう、押し潰されないよう、気を付け、気化した毒にも気を付けて討伐しなければならない。
更に付け加えると、バジリスクに再生能力はなかった。
「ちょっと待てよ、おい~」
拍子抜けにも程があったアルは誰ともなく文句を付ける。
アルには【魔法・物理・状態異常全耐性】があるとはいえ、あくまで【耐性】だし、どこまで有効か身を持って試したくもない。
毒対策は前もって飲めば、一時的に耐性が付く毒消し耐性ポーションを飲み、石化対策にまずバジリスクの両目を潰し、飛んで来る鱗は切り捨て、巻き付かれないよう尻尾からだいたい等間隔ぐらいで、ザクッザクッと斬って行き、気が付けばバジリスクはドロップに変わっていた。
今、ここ。
アリョーシャのダンジョンボスの特大キマイラ討伐は約五分。
反撃を許さないワンサイドゲームでダンジョンの天井まで崩してしまった。
風竜刀まで使うのはやり過ぎだったかな、と反省したアルは、今回のボス戦はミスリル刀を使うことにし、魔力を通しても斬れなかったら風竜刀を出す、或いは魔法で片付ける、と算段していたのに、噂で聞いた程、硬くなかったのだ。
武器も腕も悪かったんじゃないのか疑惑。
アルのバジリスク討伐時間はだいたい三十秒。
そのほとんどが移動時間である。
ぶつくさつぶやきながら、アルはドロップを確認する。
バジリスクの魔石、牙、今回は宝石は付いてないキラキラ宝箱の三つだ。宝箱の鑑定をしてみると罠はなし。
宝箱は合金製で、やはり、レア魔物素材が入っていた。
特に使えるのは【ユニコーンの角】である。
聖属性を付与する性質があるので、アンデッドに効果的な武器が作れるのだ。
宝箱の中身は巻物。スクロール。
開くと使うことになってしまうので、そのまま鑑定すると回復魔法のスクロールだった。
もう覚えているアルはいらないが、もし、売るのなら回復術師が少ないだけに、ものすごいお値段が付きそうだ。適性がなければ覚えられないとはいえ。
取りあえずは、高ランク冒険者とのアイテム交換交渉に使おう。
あまり疲れてもいないのですぐに転移魔法陣を使って1階に行き、駆け出し冒険者たちの邪魔にならないような所でスライムを狩りまくってから宿に帰った。
まだ夕暮れだ。
午後からダンジョンに潜ったのに、もう20階まで行って攻略しているのは、今回は滞在期間が短いため、さらっと見学、邪魔なら斬る程度で流したり、【影転移】や【影斬り】を試したり、でほとんど走り抜けたからだ。
目ぼしい所は明日以降、また行くつもりで。
15階の鉱山フロアのレア金属ゴーレムと19階のジェネラル・ロードスパイダーシルク狩りは外せない。
上位種なのでその分強いが、Aランクの魔石だし、ドロップ品のスパイダーシルク糸も更に品質がいい物になり、量も多くなるのだ!
もうそこそこ狩りまくっているが、まだまだ欲しい。
食材があまりないダンジョンはやはりちょっと淋しい。
宿に帰ったアルはすぐに風呂へ直行した。
本日二度目だが、働いたからいいのだ。
昼前の貸し切りと違い、今回は先客がそこそこいる。
挨拶は欠かせない。
中高年三人、少年二人で商売の話をしている所からすると、商人ばかりのようだ。
「なぁ、君、何やってる人?」
アルが頭と身体を洗ってから湯船に入ると、少年の一人、アルよりは上らしき少年が声をかけて来る。
「冒険者。まだまだ成長期なんで、鍛えてもあんまり筋肉付かねぇんだよ」
アルのガリに近い細身の体格で何の職業か迷ったようなので。
「そうなんだ。ここにはパーティで泊まってんの?」
「ソロ。こう見えても稼いでるんで」
「あはははは。言ってみたいな~その言葉」
本気にしてないらしいが、別にいい。
「冒険者って上下関係あるの?まだ駆け出しなら大変じゃない?」
「上下関係は別にないけど、絡むバカはどこでもいるな。おれ、Cランクだから」
「…本当に?もう?」
「もう。教えとくけど、これみよがしの筋肉もりもりのヤツの方が弱いぞ。筋肉って重たいから素早さが下がるんだって。攻撃力はアップするかもしれねぇけど、当たらなければ意味ねぇし、力なら身体強化すればいい話」
「……何かもっともらしく聞こえる」
「事実だし。…お前は商人だろ。扱ってる商品に海苔ない?海の海藻を干して薄く固めたヤツ」
海苔は見付けていなかった。
「海苔の佃煮じゃなくて?」
「あるんじゃねぇか。訊いてみるもんだな。風呂上がったら売って」
「へい、まいど。その干した海苔って黒く…深い緑?でおにぎりとか包むヤツ?」
「その海苔。どっちも売って。でも、何で最初には出て来なかったんだ?」
「海藻って言うから違うのかと。海藻だったんだ」
「材料知っとけよ~」
覚えることが多くて、というのはあるにしろ。
「ごめんごめん。パンの方が食べる地域から出て来てるから、ピンと来なくてさ。でも、結構なお値段付いてるけど、大丈夫?海苔の佃煮は一瓶銀貨2枚、干してある海苔はおにぎりに巻くサイズで二十枚入って銀貨1枚。
…でしたよね?会長」
少年が年配の人に話を振る。
「おう。風呂の中でも商売するのは、商人の鏡だな。しかし、人を見る目は磨かれとらん。
…客人、出来れば海苔の佃煮も海苔もあるだけ欲しいと思ってるんじゃありませんか?」
「正解。干した昆布もあれば尚いい。出せるだけでいいから買わせてくれ」
「かしこまりました。後程、ご用意させて頂きます。お名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「アル。そう丁寧な口調で対応しなくていいって」
そうして、アルは風呂の後、海苔の佃煮、海苔、干し昆布をたっぷり手に入れた。金貨5枚も行かなかった所からして、値引いてくれたのと、元々そう高い値段を付けてないのだろう。
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新作読み切り*「番外編02 もし、Bがテンプレの勇者召喚されたら」
https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330657047991181
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