068 何かまた変な称号が…

 ちょっとした商談を終えたアルは、今日の宿はまだ決まっていないので、確保することにした。

 まだ昼前のこの時間なら、さすがに昨日よりはいい所に泊まれるハズで…思い付いたアルは受付で風呂付き宿の紹介状を書いてもらった。


 昨日は到着が遅過ぎて使えない手だったが、今日は違う。

 商業ギルドの受付嬢に教えてもらった宿は、大通りから遠くはないのに、知らなければ見過ごすような立地だった。当然ながら、昨日は来てない。


 紹介状を渡すことなく二日間宿が取れたが、紹介状を渡すと、同じ金額で部屋のグレードがアップした。元々結構なお値段の宿なこともあり、部屋や家具、小物ですらもセンスがいい。


 チェックインしたら、まずは風呂だ。

 掃除の関係上、二十四時間とは行かないが、かけ流しのお湯で温泉気分を味わえる大浴場だった。

 十人は入れるので、そこそこ大きい湯船だ。そこにアル一人で貸し切り状態。お昼前の半端な時間なので、他に入りに来る客はまずいないだろう。


 アルはまったりと湯船に浸かり窓の外の坪庭を眺めながら、思索に耽る。

 スライムの皮とゼリーがたくさん手に入った。

 色々作りたいのだが、中でもこれは早目に作りたい、と思っていた物があったのだが……ど忘れしている。

 何だっけ?

 ゴムで作れる物だったハズ。ゴム手袋?

 まぁ、バイクのメンテをする時にちょうどいいので作りたいが、そうじゃなくて、まだ何か生活に密着した……あ、靴か!


 【素早さアップシューズ】はマジックアイテムなのでサイズもベストフィット、不具合も出てないのだが、形がショートブーツなのが時には困る。

 寒い時だけじゃなく、スネは急所なので防御したいし、蹴ったり蹴り飛ばしたり蹴り上げたり蹴り倒したり蹴り潰したり、と活躍するのでショートブーツだと傷み易い。錬成で直してはいるが、一足だけに頼っていると、壊れた時に困る。

 靴のドロップは心待ちにしているのだが、一般的にも中々出ないものらしい。


 …というワケでゴムの代用素材が手に入ったので、膝下ブーツを作ろう。

 足の間の内側にファスナーを使って着脱、かっこよく飾りベルトを付け、つま先の外側は攻撃力アップするので硬い方がいい。

 単に硬くするだけなのも面白みがないので、瀟洒な飾りみたいにしてみるか。貴金属も結構ある。底は少し高さのあるヒールを付け、地面をグリップするようジグザグ溝で。


 後は強靭の付与と、足音がしないように防音結界の特性を付与したい。

 魔法陣で固定すれば行けるだろうか。

 今の素早さアップシューズのように、サイズ調整機能も付けたいが、調べてもよく分からなかったのだ。分解するなら何らかのヒントがあるのかもしれないが、そんなリスクは犯せない。


 靴の素材は何にしよう?

 布でも色んな素材と組み合わせれば、革靴のような硬さにも出来る。

 そういえば、ジャンピングゴートの革があったか。山羊革は靴に向いてる革なので、まずはこれで作ってみよう。


 考えをまとめたアルは、風呂上がり後、早速、靴作りに着手した。

 自分の足に合わせた靴底と飾りベルト金具、つま先の硬くて瀟洒な飾りはベアの爪の合金で、ファスナーも長さを合わせて新しく作り、それから全体のイメージをまとめて一足の靴にする。色は染色してチョコレートブラウンだ。

 ぱぁあああ~と淡い光がどんどん強くなり、瞬いてから光が納まる。錬成完了だ。

 全部合わせると十分ぐらいかかった。速いか遅いか基準が分からないが、見た目はイメージ通りに出来た。


 履き心地は…中敷きを作るのを忘れていたので、追加錬成。

 うん、履き心地もバッチリだった。

 部屋が広いのをいいことに軽く跳んだりハネたりしても、素足のようにフィット。

 後は付与してちゃんと作動するかどうか、だ。…というか、靴底に魔法陣を描くとすぐ削れてしまうのでは。


 アルは錬金術で靴底を剥がし、靴と接着する部分に魔石を砕いた粉を混ぜたインクで魔法陣を描いて強靭と防音を付与。

 そして、魔石の粉を混ぜた接着剤でその上をコーティングして乾かし、錬金術でブーツ部分と圧着した。

 バイク作りの時に散々鑑定を駆使したおかげで、鑑定レベルが上がったらしく、こうしたい、と思うと鑑定が導いてくれるようになっていた。回りくどいが、このやり方もそうである。


 素早さアップシューズも同じ部分に魔法陣があるのかもしれないが、やはり、リスクが高いので分解出来ない。


 …ということで成功した。

 跳んだりはねたりしても、まったく音がしない。

 よし、もう一足、似たようなデザインの色違いの黒で予備に作っておこう。

 ついでに普段使いの普通のスニーカーも。


「そういえば、影魔法って覚えたのか?」


 ふと思い出したのでステータスボードを出して確認すると、ちゃんと覚えていた。

 闇魔法(影魔法)となるかと思っていたのだが、そうはならず影魔法単独だった。他の闇魔法の一種を覚えると、そうなるのかもしれないが、他はどの?と想像も付かない。

 ちなみに、レベルHPMPは十分以上の数値だし、どれだけ上がるのかも怖いのでなるべく見ない。


 ……あれ?称号が増えてる。

 何なんだ【ロンリーバイカー】って。


 【ロンリーバイカー・異世界のバイクと外観は同じだが、遥かに高性能なバイクに乗る者。アルの他に作れる者がおらず、他者にプレゼントもせず、商品化もしないので一匹狼確定。路傍ろぼうの石のように商人には価値のある物だと思えなくなる】


 …助かるけど、精神補正が付く称号って大丈夫なのか?

 商人限定なら問題ない、ワケがない。権力者程、自慢出来る物珍しい物好きはいないので、取り上げようとするに違いない。

 ま、深く考えてもしょうがないか。


 作業しているとお昼過ぎたので、アルは1階のレストランのようなオシャレな食堂で昼食にする。

 風呂上がり後のままなので、ラフに開襟シャツとジーパン、作ったばかりのスニーカー。マジックバッグ以外の装備はまったくなし。ギルドカードもマジックバッグの中だ。


 素人には普通の服で、防御力なんてないように見えるかもしれないが、布製品すべてスパイダーシルク混コットン。中級冒険者装備より遥かに防御力が高い。

 まぁ、アルのステータスだとなくても全然大丈夫そうだが、油断はしない。


 お昼のランチメニューは一つだけじゃなく、三つのセットから選べるようになっていたので、アルは生姜焼き定食にした。

 元の世界にあるがままのご飯と味噌汁、漬物付きの定食である。

 オーク肉だが、こんな時、過去の転生者・転移者に感謝する。

 いくら自分で美味しい物が作れるとは言っても、旅行時ぐらいは旅先の美味しい物が食べたいのだ。


 昨日の夕食の食堂がハズレだっただけのようで、ここは美味しい料理だった。

 お値段がいいというのも当然関係あるかもしれない。食材が違うし、料理人も高給を払って雇っているのだろう。


 他の客は服装からして商人が多いようだったが、アルのような成人したての若い年代の人たちも割といた。

 商人の跡継ぎで修行中か、そう高位じゃない貴族・金持ちの子弟なのだろう。隠れ家的な宿なので、派手好きそうな高位の貴族は好みそうもない、と思うのはちょっとした偏見だろうか。


 客の中には冒険者もいる。

 やはり、アル同様、物々しい装備は付けてないし、筋骨隆々というワケでもないのだが、その物腰と雰囲気は中々隠せるものじゃない。少なくともBランク以上だろう。ちゃんとマジメに昇格試験を受けていれば。アルは自分のことは全力で棚上げしまくった。



________________________________________________________________

宣伝*「番外編02 もし、Bがテンプレの勇者召喚されたら」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330657047991181

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る