067 商業ギルドはスムーズな対応

 アルが大通りを歩くと、分かり易い所に商業ギルドの堅牢な建物があったので中へ入った。

 誰もが忙しそうに立ち働き、活気があった。アリョーシャの商業ギルドと同じ雰囲気だ。

 受付の列に並んだが、回転が早いのですぐ順番になった。


「いらっしゃいませ。商業ギルドへようこそ。本日のご用件をおうかがいします」


「ほぼ無傷のシャドーマントヒヒを売りたい」


「かしこまりました。買取ですね。何匹売って頂けますか?」


「32匹」


「…それはすごい数ですね。倉庫にご案内いたします。こちらへどうぞ」


 少し驚いていた受付嬢だが、テンポよく話を進め、さくさくと案内してくれる。…そう、こうじゃないと。

 買取担当の人がアルの対応を受け継ぎ、アルが倉庫の所定の場所にマジックバッグからどんどん出して並べて行くと、さすがに周囲から驚きの声が上がった。

 ほぼ無傷なのはやはり珍しいらしいが、数も驚いているようだ。…ああ、マジックバッグの容量もか。


 そこで、あれこれ訊いて来るようなことはせず、数人でさっさと査定して行った。かなり慣れているらしく、冒険者ギルドの買取担当の人たちより早い査定だった。


 提示された買取金額は冒険者ギルドの1.5倍。

 冒険者ギルドはかなりボッてたらしい。

 もちろん、それで了承すると、職員がアルの所まで現金を持って来てくれた。数え易いよう、金貨を10枚ずつ重ねてトレーの上に並べて。

 アルは手続き書類にサインしてから、現金をマジックバッグにしまった。


「アル様、失礼ですが、事情を伺ってもよろしいですか?」


 手続きが終わってから訊いて来る所も、好印象だ。


「ああ、こっちに持ち込んだ理由なら、冒険者ギルドの職員の対応がなってなかったから。買取担当の人が査定して書いた書類を出してるのに、受付がまたおれに確認するって何だよって話でさ。今までそんな対応されたことねぇぞ。依頼達成処理もしてくれねぇから、書類取り返して隣の受付の人に頼んでようやく、だったし」


「…それはかなり悪い対応でしたね。買取ならこちらでも対応しておりますので、またどうぞご利用下さい」


「機会があればな。あのシャドーマントヒヒ、どうやって倒したか聞きたい?」


「不都合がなければ、是非。魔法でしょうか?」


「いや、素手。殴る蹴るで死ぬ、実は弱い魔物だったらしくて」


「…はい?」


「おれもそう言いたかったって。期待していた影魔法もイマイチだったし。何か毛皮に防刃衝撃耐性があるそうなんだけど、それ程、強力なものでもないっぽいから、防具に加工して使う時はちゃんと調べた方がいいかも」


「そうですね。…あの、アル様、冒険者ランクをお聞きしてもよろしいですか?」


「Cランク。三週間ぐらい前にランクアップしたばかり」


「そうなんですかっ?あまりにそぐわないランクでは。シャドーマントヒヒ、32匹、ソロで討伐したんですよね?」


「そう。あっさり信じてるように見えるけど、疑わねぇの?」


「高ランク冒険者の方々とお付き合いがございますので、強い方が分かるようになりました。アル様は装備もかなりいい物で揃えていらっしゃいますので、分かる方は多いかと思いますが」


 パラゴ冒険者ギルド受付職員の節穴具合を遠回しで揶揄しているらしい。

 Bランク以上の高ランク冒険者は稼ぎがいいので、どうしても商業ギルドとの付き合いも増えるのだろう。買取だけじゃなく、不動産でも。


「マジックバッグは売らねぇから」


 見える所にあるアルの装備で一番高額のものだ。


「やはり、ダンジョン産ですか。かなりの大容量のようですね」


「ダンジョンのドロップ品は不思議な物も多いしな。…そういえば、ダンジョン産で両手のひらに載るぐらいの宝石が付いたキラキラ宝箱って、扱ってる?」


「そんな宝箱があるんですか?ちょっと存じ上げませんね」


「じゃ、高ランク冒険者に訊いてみてくれねぇ?サイズ問わずで、ダンジョンのドロップで出たキラキラ宝箱。持ってるのなら、おれが持ってる素材やアイテムと交換して欲しい、と」


「分かりました。連絡してみますが、中身はなしでもいいんですか?」


「なしでもいいけど、その辺にあるありふれた物が入ってたのなら、一緒に欲しい。で、高ランク冒険者が欲しがりそうなものは、金や素材より魔道具や便利グッズかな?」


「ええ、そうだと思いますが、大半の物は既に持っていらっしゃいますね」


 だからこそ、宝箱がマジックバッグの奥底に眠ってるんじゃないかと、アルは思ったワケだが。


「じゃ、他にない完全オリジナルで『少し涼しい服』は?夏だけじゃなく、暑いフロアの時にもお役立ち」


「魔道具なら魔石利用で着心地が悪いのではないです?」


「その辺は大丈夫。よくある魔道具の構造じゃねぇから。高ランク冒険者が選ぶ時以外は、ちょっと見せるワケには行かねぇんだけど」


 そう簡単にマネは出来ないだろうが、だからこそ、商品にして…とうるさく持ちかけられそうなので。


「残念です。他に取引に使えそうなアイテムはどんな物なんですか?」


 商人だけあって興味津々だった。


「食べ物。特殊な製法で作られていて年単位で日持ちする。材料自体高級品なんだけどな」


 荒節あらぶし本枯節ほんかれぶしである。これは時間をかければ、手作業でも作ることが出来る。無害なカビ採取も味噌やチーズがあるのだから、鑑定がなくても入手出来るだろう。

 そして、ダンジョン産の鰹(魔物)じゃなくても、海に鰹がいるハズである。


「どういった物かまったく想像出来ませんね」


「他には構造自体が細か過ぎて、マネして作れる人がいないかもしれない開閉金具。これは見せられるぞ」


 アルはアイテムバッグ経由で空間収納から、金属ファスナーが使ってあるダミー用のライトブラウンのボディバッグを出した。


「これは?」


「こう開閉する」


 アルがファスナーを動かして開閉して見せると、職員の目が輝いた。


「すごい構造ですね!簡単に開閉出来る所もすごいです!…あーでも、これは熟練の錬金術師でも作れないかもしれません…。確かに細か過ぎてどういった仕組みかがよく分かりませんし。では、このバッグ自体を取引に使うということですか?」


「いや、この金具の部分だけが何本かあるんだよ。このバッグも金具を付け替えただけでさ。つまり、好きな物に縫い付ければ、便利に使えるようになるワケだ。ボタンの代わりに服に使ってもよさそう」


「本当に色々と使えそうですね。これダンジョン産ですか?」


「そう」


 これとか言ってるが、アルは一言もダンジョン産とは言っておらず『他にない完全オリジナル』『特殊な製法で作られていて』と言っただけなのに。

 ファスナーは日常的に使ってる元の世界の人たちでも、いざ、作れ、と言われたら構造理解が曖昧で作れないナンバーワンだろうから、ダンジョン産認定するのは分かる。

 普通に考えると、アルが全部作ったとは思わないか。錬金術が使えることも知らないし。


「後はレアな武器や防具がいくつかあるぐらい」


「…何やらものすごく軽くおっしゃってますが、そんなレア武器、ダンジョンの深層でしか手に入らないのでは?」


「多分。ま、高ランク冒険者と同じ程度のアイテムや素材は持ってるってことだな。いらねぇけど、騒ぎになりそうで売るに売れないヤツとか」


「…その辺り、しっかりと説明させて頂きますね。アル様と取引しても損はない、と」


「よろしく。ちゃんと仲介料は払うからさ」


「ありがとうございます」


 アルがこの街に滞在する三日以内に、高ランク冒険者と会う段取りを整えてもらうことにし、その書類をちゃんと作った。日時はアルがここに訊きに来る、ということで。

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