066 いくら寛容でもこの対応は…

 アルは1階を走り回ってスライム狩りに精を出し、何が起こっているのか分からない成り立て冒険者たちがビビり始めた所で、今日は引き上げることにした。

 初心者の獲物をなくしてしまうのはよくない。リポップはするが、一定時間を経過しないと出て来ないので。

 アルが冒険者ギルドに戻ると、まだ十時半だった。


 誰も待っていない買取カウンターへ行き、


「シャドーマントヒヒを討伐して来た。どこに出せばいい?」


と訊いてみる。


「何匹だ?」


「大小合わせて32匹」


「…群れじゃねぇか。裏の倉庫に行くからついて来い」


 アルは買取担当のひげのおじさんの後をついて倉庫に行き、指定された場所にシャドーマントヒヒを出した。


「マジで大量だな…ん?んん?何で倒したんだ?どれも外傷がない」


 外傷はあるが、毛皮の下というだけだと思う。


「殴る蹴るで」


「おもしろくない冗談だ」


「いや、ホントに。弱過ぎだった」


「…おい、ギルドカード出せ」


「ほれ」


「Cだとぉ?パーティメンバーのランクは?」


「ソロ。このやり取り、いっつもやるんだけど、いい加減飽きたぜ」


「……いい装備だ。面倒だからランクを上げないタイプか」


 買取をやってるだけあって、目が肥えてるのだろう。


「それもあるけど、そもそも、Cランクになってまだ三週間なんだけど」


「ギルマスにランクアップの推薦をしとこう」


「いやいや、すんなって!上げたくないって言っただろ」


「もったいないにも程がある。影魔法が面倒なシャドーマントヒヒを素手で倒す奴が他にいるか?」


「腐る程いるって。影魔法にはおれも期待したんだけど、魔力だだ漏れで位置バレバレっつーお粗末さだったし、魔法の発動速度も大して速くねぇし、防御力も『実は物理攻撃が弱点なんじゃねぇ?』って程、あっさり死ぬし」


「…この毛皮が防刃衝撃耐性ありなんだがな…」


「え、そうなの?…うわっ、マジだった。何で衝撃耐性があってもあっさり死ぬんだよ。…あ、ブラックベアとどっちがタフ?」


「圧倒的にベア」


「なら、今度、体術だけでチャレンジして来よっと」


 アリョーシャダンジョン10階のフロアボスに、チャレンジだ。


「それはともかく、ほら、査定して討伐証明証書いて」


「あ、ああ、すまん」


 アルが促すと、ようやく買取担当のひげのおじさんは、他の人にも手伝わせ、査定して書類を書き出した。

 少し待った後、アルは討伐証明証と買取金額書類をもらって、ギルドの中の受付へと行き、ギルドカードと共に受付の職員に渡した。朝とは違うが、男の職員である。


「…あの、シャドーマントヒヒに目立った外傷はない、とありますが、どうやって倒したんですか?」


「殴る蹴るって書いてねぇの?書類に」


「……ありますが、とても信じられなかったので。ソロで討伐したのも間違いありませんか?」


「ああ。何度確認すれば気が済むんだ?書類が信じられねぇのなら、買取担当の人に聞くなり、倉庫行って現物見てくればいいだろ」


 ここまで疑われるのは、さすがに気分が悪い。何のための書類だろうか。


「では、見て来ますので、ここでお待ちくだ…」


 アルは出した書類とギルドカードを職員の手からさっと引き抜き、空いたばかりの隣の受付に行く。


「どうも書類もおれの言うことも信じられねぇそうだから、担当変わって依頼達成処理してくれ。ほぼ無傷のシャドーマントヒヒ、売るのはやめて全部引き上げる」


 え?え?と事態が分かってなさそうな隣の職員だったが、最初に担当した職員に問題があるのか、詳しい話は訊かず、普通に依頼達成処理をして報酬も現金でくれた。


 そして、アルは再び買取カウンターに行って、買取金額書類を返してキャンセルし、再び倉庫に行ってシャドーマントヒヒも引き上げる。

 高値が付くので非常に残念そうだったが、さっきの職員といい受注した時の職員といい職員教育もなってないギルドに儲けさせたくない。

 商業ギルドに持ち込むか。

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