065 何か弱いんだが?

 続いて、アルは依頼掲示板をチェックすると、ダンジョンドロップ採取や商人護衛依頼だけじゃなく、周辺の魔物の討伐依頼や薬草採取依頼も普通に出ていた。


 近くの西の森はシャドーマントヒヒの生息地域らしく、討伐依頼が出ていた。Bランク依頼だ。

 シャドーマントヒヒ自体はCランクだが、群れで行動するので討伐依頼になるとBになる。

 影魔法を使う猿だ。影魔法は闇魔法の中の一つで、シャドーボールやシャドーアローを撃つだけじゃなく、影に潜ったり、影に攻撃することでダメージを与えたりするらしい。

 影魔法!


 よし、受けよう!上手く行けば、影魔法か闇魔法を覚えられるかもしれない。

 ダンジョンのスライムは逃げないが、依頼は先を越されることもあるのだ。


 依頼票を剥がして受注受付に並ぶ。

 そういえば、こうやって掲示板から剥がしての受注は初だ。

 よく考えなくてもアルは実績がほとんどないのに、Aランクとかよく言うぜ、である。

 程なく順番が来て依頼票と一緒にギルドカードを出すと、


「これ、パーティでの受注が前提の依頼なんですが…」


と男の職員に渋られた。


「書いてねぇし?」


「シャドーマントヒヒの群れ相手なのに、ソロの冒険者が受注するなんて、誰も思いませんよ。しかも、アルさん、Cランクに成り立てじゃないですか」


 物知らずが、イキがってんなよ、という心の声が聞こえて来そうな呆れた受付職員の口ぶりだった。

 ギルドカードにランクアップした日付が書いてあるので、それはバレバレだった。


「何かダメなのか?おれの装備をよく見てみろよ。ギルド職員なら多少目が肥えてるハズだろ」


 レア素材をビシバシ使いまくっているのだ。買ったじゃなく、狩ったという推測ぐらいは付くハズ。

 その通りで、職員は一瞬で青ざめた。

 有望な冒険者はこの街に居着いて欲しいのに、失礼な態度を取ってしまったからだろう。


「…申し訳ありませんでした。すぐに受注手続きをします」


 職員は手早く受注手続きをし、西の森の簡単な地図も書いてくれた。


「討伐証明は右耳ですが、シャドーマントヒヒの素材は高く売れますので、出来る限りお持ち下さい」


「丸ごと持ってくれば、討伐証明で耳を切り取る必要はないってことでいいんだな?」


「はい」


「じゃ、なるべく、傷付けねぇようにしよう」


 そうなると雷か、剣で喉を突くか。

 …ああ、凍らせるのも…また解凍しないとならなくなりそうなので却下。

 ある程度、影魔法を打たせないとならないので、結界で分けて一匹ずつ地道に倒すことにしよう。


 アルはさっさとギルドを後にし、近くの西の森に向かった。

 近いと言っても歩けば三十分はかかっただろう。アルはバイクで乗り付けたので五分もかからず、だ。

 森の奥に鬱蒼とした木々があり、昼間でも暗い所にシャドーマントヒヒの巣がある。

 洞窟を利用しているかと思いきや、木の掘っ立て小屋を建てていた。猿系はやはり知能が高いということか。人語は解さず、襲って来るが。


 探知魔法によると、シャドーマントヒヒの群れの個体数は32匹。気配の小ささからして子供もいる。猿系もすぐ増えるので殲滅しなければならない。

 影魔法で影に潜るらしいので、まとまりごとに床もカバーしているドーム状の結界に閉じ込め、まずは2匹だけを相手にし、攻撃を体術だけでよけによけ、魔法を使って来る時に魔力の流れを含めてじっくりとよく見た。

 アルの影をシャドーボールで攻撃したが、アルは影ごとよけたのでノーダメージ。

 …いや、受けてみないと耐性が付かないか。

 高HPだし、ポーションもあるので大丈夫だろう、とワザと攻撃を受けてみた。今度は少し攻撃が違い、猿が魔力を込めた爪でアルの影をひっかく。


 しかし、防御力も高く、魔法防御力も高く、【物理・魔法・状態異常全耐性】スキルもあるアルには、まったく利かなかった。

 HPもまったく減らない程、ノーダメージ。


「おいおい、もっと気合を入れろよ」


 アルが煽ってみると、猿は影に潜り、アルの後ろの木の影から出て来た。


「姿は隠しても魔力を隠さずに移動してるから、位置がバレバレなんだっつーの!」


 アルは思わず、蹴り倒した。思ったより使えない攻撃だった。

 影魔法には期待していたのに失望がでかい。


「えー?この程度で死ぬの?」


 怒りの蹴りは魔力なんか使ってないし、身体強化もしておらず、手加減もしていたのに、蹴った猿の気配が消失…つまり、死亡した。

 そんなバカな、ともう1匹を殴ってみると、これまたあっさりと死亡。

 シャドーマントヒヒ、思った以上に弱い、弱過ぎるぞ!

 2.5m~3.5mはあるので平均的な身長の人間から見れば巨体なのに!

 安全策がこれ程、無駄になったことは初めてだ。


「もう体術でいくか」


 猿たちが逃げないよう、大きくドーム状結界を張り、まとまりで張ったドーム状結界は一斉に解除。


 1 vs 30のバトルロワイヤルだ!

 しかし、実際は、ワンサイドゲームで一方的な虐殺。

 しかも、ちょっとやってみたら影に潜って移動する【影転移】が出来た。

 もちろん、シャドーマントヒヒの悪い所は改善し、自分の魔力を隠したままの移動なので、どこから出て来るか分からない、と思う。

 弱過ぎる猿どもでは検証出来ないので、今後の課題にしよう。


 五分程で全滅させると、シャドーマントヒヒの死体はマジックバッグに全部収納。

 掘っ立て小屋は解体し、クリーンと浄化をかけて空間収納にしまい、地面は土魔法でならして終了。


 あまりに早く依頼を完遂したので、アルはダンジョンに行き、当初の目的だったスライム狩りを実行した。

 時々酸攻撃をして来る分、シャドーマントヒヒより、戦う気概はあるような気がする。

 倒すが。

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