第6章・パラゴの街

063 フルーツたっぷりオムレット

 アルはさっさとバイクをスタートさせて、すぐにスピードを出す。

 金貨75枚を稼いだとはいえ、結構なタイムロスになってしまった。


 日が暮れる前までにパラゴに到着したかったのに、四時少し前の現在、手前のトボッロにも到着してない。

 パラゴの閉門までに間に合うだろうか。

 ダンジョン最寄りの街は宿も多いが、長期滞在者も多い。宿も取れるかどうか。


 まぁ、宿が取れなかったらトボッロで泊まるか、アリョーシャに転移して帰るか。盗賊に遭遇して、と事実を言えばいい。


 こうなると、野営設備をもう少し充実させてもいいんじゃないか、と思う。

 せっかくの大容量マジックバッグ、無制限かも?な空間収納。

 テントと言わず、小屋を準備すればいいんじゃないだろうか。

 杭を打たない自立型で、どうせならトイレと風呂も欲しい。

 そうなると、排水と汚水が問題になるが、風呂の排水口、トイレの下は土魔法で穴を深く掘って、退去する時にクリーンと浄化をして埋める、という感じか。


 魔石か魔力充電でシャワーも使えると、更にいい。

 宿にあるような魔石シャワー、店で見たことがないのだが、どこに売っているのだろうか。水魔法でレインにして使っているものの、旅先ならなるべく魔力節約した方がいいワケで。


 小屋はしっかり設計図をひいて、材料を揃えれば、錬金術で行ける、だろうか?

 一度には無理でもパーツごとにやって行けば、出来るだろう。

 小屋の中にはベッドはもちろん、キッチンもダイニングテーブルもソファーも欲しい。

 …あ、毎回毎回作ろうと思って忘れていたが、ソファーだよ、ソファー。

 ふかふかのが欲しかったのだ。寝そべられるよう三人掛けで。

 素材はカウよりも使い勝手のいいトカゲ革。冬バージョンに柔らかい毛皮のカバーも作ろう。


 スペースの都合があるので、キッチンはカウンターキッチンでダイニングも兼ねる。

 …いや、待てよ?小屋の中は空間拡張にすれば、スペースなんて考えなくてもよくなる。小屋もいっそ扉ぐらいのサイズで、どこにでも設置出来れば理想だ。

 …ああ、どこ○もドアっぽい。


 問題はどう付与するのか?…という点だ。また色々と研究せねばなるまい。


 考え事をしながらでも、ちゃんと運転にも意識を向けており、騎士たちと別れて二十分程で、ようやく、トボッロの街の防壁が見えて来た。

 時間がないので、今回は通り過ぎる。地図の縮尺がそこそこ正しいのなら、もう一時間走るとパラゴだ。

 馬なら一週間の距離なので、どれだけバイクが速いのか、なのだが、道が舗装されていればもっと速かった。


 閉門に間に合わなさそうなら、転移も交えてショートカットするしかないか。

 街道側は他の旅人もいるし、遠くから目撃されそうなので、転移はあまり使いたくないのだが、背に腹は代えられない。


 休憩もバイクの上で、作り置きのアイスコーヒーとお茶菓子はフルーツたっぷりオムレット。結界で風よけを作っているので、砂埃や虫は問題ない。

 何人かの旅人や商人、馬車を追い抜く。驚いたように見るが、「何か駆け抜けて行った」ぐらいしか分からないだろう。転生、転移者以外はバイクを知らない。


 道中、魔物も出た。

 異世界初遭遇の魔物だが、狂犬みたいにヨダレたれまくりのコボルト三匹だったので全然嬉しくなかった。

 Eランクで魔石もいらないので燃やし尽くす。アルはバイクから降りず、焼き残しがないかどうかの確認だけはした。


 どんどん魔力の流れが濃くなって来たので、パラゴのダンジョンがもうすぐなのがよく分かった。ダンジョンから歩いて十分ぐらいの所に街がある。

 地図の縮尺がかなり適当だったらしく、結局、騎士たちと会った所からパラゴまで一時間半ぐらいかかり、もうすっかり夕暮れ時で、門が閉まるまでさほど時間がないのか、慌てて門の中に入る商人も多かった。

 並んでいる列はなく、警備兵のチェックも形骸化しており、皆、挨拶だけで通って行く。こういった緩い街もあるらしい。


 アルは適当な所でバイクを降りてマジックバッグに収納し、やはり、挨拶をして門をくぐった。

 他の街と比べると小さく、メイン通りの舗装も一部しかされておらず、中世ヨーロッパのような少し古い町並みだった。

 都市計画がされておらず、ごちゃっとした街並みでも、メイン通りは石畳で土魔法で固めて舗装もされている道も多いアリョーシャは領都だし、イリヤの街も都会な方だったらしい。


 さて、まずは宿を、と懐の温かいアルはメイン通り沿いの高めの宿から泊まれるか聞いて行ったが、やはり、時間的に難しかった。

 胸当てを着けたいかにも冒険者という格好なのもあるのだろう。


 カーキ色のライダーズロングジャケットは尻下までの長め丈で、素材はスパイダーシルク混コットン、ズボンも同じ素材のブルージーンズ、同じくな白シャツ、ジャケットの上にベルトを巻きナイフホルダーを着け、胸当てはキングレッドベアの爪で強化してあり、斜めがけしているボディバッグは大容量で時間停止機能も付いているマジックバッグ、ショートブーツは素早さアップのレアアイテム。

 宿の人間の見る目がなさ過ぎていた。


 それでも、三本ぐらい入った通りの食事なしの素泊まりの宿なら確保出来た。狭い部屋でシャワーもなく、衛生・清潔面でも難があるが、まぁ仕方ない。

 クリーンと浄化をかけまくり、ベッドは自分の物と入れ替えた。そして、防音防臭耐物理結界。

 これで、問題なく休める。

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