049 魔法陣が面白い!
翌日の昼下がり。
アルは冒険者ギルドに依頼達成報告をし、続きの報告書と依頼主に提出する分の報告書と経費請求書、ギルマスに報告書作成報酬請求書を提出した。
報酬は全部まとめてなので後払いだ。
ウラルたちの初依頼受注はFランク定番、薬草採取で街の外には出たものの、何のトラブルもなくスムーズに終了。
グリーンウルフが一匹出たが、三人で難なく倒している。
そして、お昼を食べてから貸し馬車屋で御者ごと馬車を借りてアルも一緒にウラルの屋敷まで行き、二段ベッドと寝具セットを所定の位置に置いてから、再び冒険者ギルドに戻り、馬車の中で書いていた報告書を提出したワケだ。
大容量マジックバッグはアルしか持ってないので仕方ない。
「アルさん、ギルドマスターが…」
「聞こえなーい」
受付嬢の言葉をアルは遮った。聞こえないのだから仕方ない。
どうせ、ヤバイ武器が見たい、とか、Bランク以上の昇格試験についてとかのことだろう。
アルはそそくさと依頼掲示板前に行く。
受けるかどうかはともかく、どんな依頼があるのか、朝は混雑していて見えなかったのだ。
Cランクもダンジョン内採取が多いが、他の街に行く人の護衛依頼もそこそこあった。
空間収納に蓄えてある素材を提出すれば依頼達成になるだろうが、あまり実績を稼ぎたくない。
よし、宿に帰ってゴロゴロしつつ、魔法陣の本を読もう!
アルはさっさと冒険者ギルドを出て、宿に向かった。
受付嬢が何か言っていたような気がするが、やっぱり気のせいだろう。
******
魔法陣というものは、中々面白い物だった。
色々と書き込む所は機械の基盤に似ているような気がする。
読んで行くうちに法則性が見えて来て分かった所、記載されている魔法陣の無駄な所もメモに書き出して行く。
「おーい、アル、帰ってるんだろ。飯食わないのか?」
アルが夢中になっていると、ダンに呼ばれた。
いつの間にか日が落ちて暗くなっている。無意識でライトを使っていたので気付かなかった。
「おー悪い。行く行く」
腹も減ったので、さくっと切り上げたアルは、本とメモを空間収納に入れておき、ダンと一緒に食堂へ降りた。
持って行くバッグはダミーの方、ライトブラウンのボディバッグだ。紺の大容量マジックバッグはとっくに空間収納にしまってある。かなりのレア物だと分かったこともあって。
「何かあったのか?まだ日が高いうちに帰って来たけど、それからは見てないって女将さんが言ってたけど」
「単に本を読んでただけ。面白い本が手に入ってさ」
「ダンジョンで?」
「いや、買って。魔法陣の本」
「…あーかなり高そうだな」
「錬金術教えてくれた人の店で結構な買い物もしてるから、安くしてくれたよ」
「それはよかった。依頼は無事…は無事か。そうトラブルなく達成出来たのか?」
「ああ。素質がある子たちで驚く程、成長してたぜ。時間はかかったけど、三人だけで10階のブラックベアが討伐出来たし。おれのサポートなしで」
「それはアルがやらかしたんじゃないのか?」
「ギルマスと一緒のこと言うし~。無理させてねぇっつーの」
「アル基準で、だろ」
「世間一般で!楽しかった~って帰ったんだからな」
食堂に入ると、ボルグ、グロリア、マーフィ、ヒューズと他の四人もいてパーティメンバーが揃っていた。
ダンたちは五人でパーティを組んでいるが、いつも一緒に行動しているワケじゃなく、結構、気分次第で二人で組んだり、三人で組んだり、たまには誘い合わせたりとランダムだった。
これぞ、自由を愛する冒険者で、アルもそういった方が好きだ。
夕食を注文すると、口々に二泊三日依頼達成を労われる。
「じゃ、アル、Cランクになったことだし、そろそろ20階以降におれたちと一緒に行く?」
「あー悪い。そのつもりだったんだけど、ギルマスがもっとランクアップしろってうるさいから、実績作るワケには行かなくてさ」
パーティで潜るなら、到底、内緒には出来ないワケで。
「逆かよ」
「期待に応えないワケだな。面倒臭いことになりそうだし」
「そうそう。ギルマスが落ち着くまで、しばらくはおとなしくしていようかと」
「表向きは?」
「ははははは」
「三ヶ月に一度は依頼を受けないとランクダウンするぞ」
「あ、いいな、それ。一年以上依頼を受けねぇと剥奪ってのは聞いた」
さじ加減が大事だ。
「それにしても、ギルマス、アルにどれだけランクアップしろって?」
「Aランク」
「余裕って思われてるワケか。そう短期間に上げちまうのは、ギルマスの評価が下がると思うんだけど」
「だよなぁ。ダンジョンソロ攻略、ついでに採取依頼をいくつか、っていうのがAランクの昇格試験でいいって言ってたけど、よく考えたらダンジョンボスってキマイラなんだから、魔物のランクからしてAよりもっと上じゃね?」
キマイラは山羊の頭とライオンの頭の二つの頭に山羊の身体、蛇の尻尾にコウモリの羽…という合成獣のような魔物である。
もちろん、かなりの大型で20階のボスのワイバーンの二倍ぐらい大きく、魔法もバンバン使って来るらしい。山羊頭、ライオン頭、蛇、とそれぞれ別々に。
「キマイラは個体差でかいけど、ここのダンジョンボスはA+ぐらいって聞くぞ。ソロで討伐したら文句なしのSだろ」
「そこが罠か」
「だろうな。Aランクとか言いつつ、実はSランク」
「アル、倒す自信ありまくり?」
「そこそこ。色々やりようがあるしな」
そうも強いキマイラなら、風竜刀のデビュー戦にしてみようか。
結界魔法がなくても行けそうだが、ボス部屋を破壊しまくり、ダンジョンコアまで…となったら怖いので、ダンジョンコアに結界を張ってからにするか。
食材・素材豊富な有益なダンジョンなので、もし、ダンジョンコアを見付けた場合は破壊禁止なのだ。
「あ、ブレス吐くって聞くけど、結界保つのか?」
「多分な。頼り切ることはしねぇから大丈夫」
「チャレンジするなら、もうちょっといい武器を用意した方がいいんじゃないか?」
「それも大丈夫。錬金術で色々やれるようになってるし」
「錬金術ってこの前始めたばっかりなんだから、まだポーション作る程度じゃないのか?」
「普通はそうなんだろうな」
「普通じゃないワケか、錬金術も」
「あはははは」
笑うしかないだろう。
わいわいと雑談をしながら夕食を楽しんだアルは、夕食後は再び魔法陣の本を読みふけった。ダンジョンボスより今は魔法陣優先だった。
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