047 初の稼ぎでお買い物2


 ウラルの妹カーラには、少しお高い【防御+5】の魔道具の指輪を買った。ウラルだけじゃなくジョルジュとラズも合わせた三人からのプレゼントで。

 一見は普通の可愛いアクセサリーにしか見えないので、ファッションとしてもいいだろう。数ある効果の中で防御を選んだのは兄、従兄弟心だ。


「あ、一番下の五歳の妹、キャロルにもプレゼントを買いたいです!」


「え、いたっけ?会ったことないんだけど?」


「聞いたことも…いや、あった。二番目の奥さんのトコの子じゃない?」


 従兄弟のジョルジュは知らなかったようだが、ラズは思い当たった。

 側室の子か、とアルもちらっと聞いたことを思い出した。


「お父様がやらかしてキャロルが出来たから側室に迎えたっていう経緯なんで、シェナさん…キャロルの母親も気を遣っててあまり表に出て来ないんだよ。お母様は思う所があるようだけど、ぼくたち兄妹とキャロルの仲はよくてね。お父様がカーラに強く言えなかったのも、その辺りの負い目が関係してるワケで」


「そうだったんだ」


「でも、爵位持ってる貴族が側室持つのって普通じゃないの?子供が出来てからっていうのが問題?」


「問題だよ。浮気しててってことだから」


「…あ、そっか、そうなるのか」


「側室になるには、正妻にも認められてからってのもあるんじゃねぇの?」


 中国の一夫多妻制を思い出しながら、アルはそこで口を挟んだ。


「そうなんですよ。揉めないように手順が決まってるのに。お恥ずかしい話なんですが、子供に罪はありませんしね」


 腹違いでも妹は妹、ということか。

 大人になれば、またその辺りの考えも違って来るかもしれないが、父親の評価が更に下がるだけのような気がしなくもない。


「それで、何がいいと思います?金属使う髪飾りは怪我しそうで、まだちょっと早いと思いますし」


「ぬいぐるみでいいんじゃね?ダンジョンの魔物がデフォルメしてあって珍しい物も、全然違うけど、可愛いのもいるし」


 リアルなタイプは受けないらしく、まったくない。需要がないか。

 この店はぬいぐるみも扱ってるので、そちらのコーナーに移動する。


「違い過ぎて脱力するのは何故だろう…」


「ジャンピングゴートのこの愛くるしさはどうなの?跳び回る悪魔だったのに…」


「無難な所でベアでいいんじゃね?一番種類が多いってことは、人気だからだろうし」


 実際にダンジョンにはいないだろう子グマもある。こちらの世界もクマのぬいぐるみは人気らしい。


「そうですね!キャロルがぎゅっと抱っこ出来るようなサイズで」


 ウラルはそんなに大きくないが、作りが結構いいぬいぐるみを選んだ。ドロップ品のラビットの毛皮を使っていてふわふわだ。ベアの毛皮は少し硬めである。


「ホーンラビットも可愛いよね。…ぼくも買って行こっかな」


 ラズがそう言ってホーンラビットのぬいぐるみを手に取ると、


「メリナちゃん、喜ぶだろうぜ~」


とジョシュアがニヤニヤと笑った。


「武器の方が喜ぶような気がしなくもないんだよね…」


 ラズは開き直ってるらしく、兄のからかいは取り合わず、そちらが心配になったようだ。


「どっちも買えば?普通のナイフならそう高くねぇし、何かと使えるし」


 アルがそうアドバイスしてやった。あの時、やっぱり買っていれば、パターンだと思ったので。ドロップ品はかなりたくさんあったので、予算的にも余裕だろう。


「そうします!」


「好きな子いるんだ、ラズ…」


 ウラルは知らなかったらしい。


「お年頃だしな~。ウラルは?」


「そんなの全然だよ。ジョシュアもでしょ」


「おれは好きな子はいっぱいいるけど、一人に選べなくて~」


「はいはい」


 ぬいぐるみを購入した後は、商業ギルドに行った。

 受付は行列が出来ているという程でもないが、誰もが忙しく立ち働いている。


「こんにちは。商業ギルドへようこそ。本日のご用件は何でしょうか?」


 年若いアルたちにも丁寧に対応してくれる。


「筆記用具にネームを入れてくれる所を教えて欲しい」


「かしこまりました。専門店はございませんが、細工師か錬金術師なら出来ると思います。手数料はかかりますが、紹介状は必要でしょうか?」


「お願いします」


 手数料は銅貨5枚だった。ウラルが答えてお金を払う。

 紹介状はすぐに用意してくれたが、細工師も錬金術師もどちらもいる店はアルにも馴染みのある商会だった。

 アルがミンサーと製麺機を買った錬金術師セラの店である。紹介状がなくてもよかったんじゃ、と思ったが、何事も経験か。

 場所は教えてもらわずとも分かるので、アルが案内した。


「いらっしゃいませ。…ああ、アル様。先日はお買い上げありがとうございました。調子の方はいかがですか?」


 つい最近の話なので店員にも覚えられていた。


「バッチリ。今日は筆記用具にネーム入れを頼みたい。この子達が」


「商業ギルドから紹介状をもらってます」


「拝見させて頂きます」


 紹介状を見た店員は奥の応接室に通し「こちらで少しお待ち下さい」と席を外した。


「アルさん、ここで何か買ったんですか?」


「ミンサーと製麺機」


「何ですか?それ」


「肉をミンチにする魔道具とパスタやうどんの麺を作る魔道具」


「え、売ってますよね?もうミンチにした肉や色んな麺って」


「あ、ドロップ品の肉で色々作ろうと?」


「ジョルジュ正解。麺は自分で作った方が美味いし、色々混ぜても楽しめるから。まぁ、どっちも趣味だな」


 そんなことを話していると、もう店員が戻って来た。

 連れているのはこの前の錬金術師、オーナーでもあるセラである。

 ウラルたちに自己紹介をして、何にネームを入れたいのかを聞き、筆記用具を出させ、と話がさくさく進んで行く。


 ネームを入れるのは簡単だが、素材によって金か銀か他の金属かインクか…と何でネームを入れるのかを選ばないとならないし、削ってそこに色を付けた接着剤を入れて、と作業をする細工師には細かい物は難しいらしい。ヘタすると元の素材が割れたり欠けたりするので。


 油性ペンと万年筆はペン軸が黒で映えるし、さほど高くなかったので、銀で入れることになった。

 髪飾りは金具の所にインクで、ブレスレットは細い細工なので、イニシャルのみをインクで、指輪もインクで内側に。

 セラは腕のいい錬金術らしく、さくさくこなして行く。

 アルも簡単にやれそうだが、ここは黙っていることにする。

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