第4章・Cランク冒険者
046 初の稼ぎでお買い物1
はいはい、あっち行った、と邪魔なギルマスは追い払い、買取してもらう。今日は休みなのか、シフト制なのか、いつものおじさん…ヤンじゃない。
続々出て来るドロップ品に応援を呼ばれたが。
買取は個人ごとじゃなく、パーティで。四人分のドロップを三人で分ける、というのも気が引けるそうなので、いくつかの肉とランニングバードの羽はアルがもらった。もちろん、空間収納の方へ移動してある。
買取金額の査定と計算には少し時間がかかるので、その間にアルは受付に依頼の中間報告をし、仕方なくランクアップ手続きもして、Cランク冒険者になった。
Aランクになるメリットはほとんどないような気がする。たまに面白い依頼もあるそうなのに、かけ離れたランクの依頼を受けられないのはデメリットだろう。
高ランク冒険者が低ランク冒険者の依頼を取らないように、という配慮のルールだろうが、もっと融通を利かせて欲しい。
メリットを考えると、Aランク依頼は高額報酬ということが挙げられるが、その反面、国絡み、金持ち絡みばかりになり、しがらみも面倒も増えて行くことになるワケで。
やっぱり、Cランクのままが一番いい気がする。
昇格試験とは関係なしで、面白そうだし、食材も素材もいいアイテムも欲しいからダンジョン攻略はするが、攻略しても内緒にしていよう。
ドロップ品は空間収納なら腐らないし、金にも困ってないので早急に換金する必要はなく、ドロップ品をギルドに出さないのならバレないハズだ。
しかし、あまりに収納が多くなり過ぎても把握するのが大変なので、ここのギルドじゃなく、他の街のギルドに行って買い取ってもらうのもありだろう。
転移を繰り返せば、短時間で行けるし、一度行けば、次からはダイレクトで行ける。冒険者は流れ者が普通で、他の街でダンジョンドロップ品を換金することもよくある。
他国に行くのもありだ。
国内ではギルド間で普段から通信魔道具を使って連絡を取り合っているが、国外まではやっておらず、せいぜいテイムした飛ぶ魔物を使って連絡を取ってる程度で、それも、余程、大変な事態以外は使わないだろう。
そして、すべてのギルドと横で繋がってるワケでもなく、ギルドカードはステータスや討伐記録なんて出ないし、一度魔力登録すると、他国で新しく作れない、ということもない。
つまり、一人の人間がどう行動しているのかも、買取履歴も分からないし、ヤバイ事態になったら他国に逃げて、新しく冒険者登録してやり直すというのも出来るのだ。
よし、方針が決まった。これで行こう。
程なくウラルたちの買取査定が終わり、書類をもらって来たので受付でお金をもらった。
ほぼ三等分にして、それぞれすぐにマジックバッグにしまう。初めての稼ぎでとても嬉しそうだ。
では、街に繰り出そう。
最初にするのは宿の選定、予約。
遅くなればなる程、選ぶ余地がなくなるからだ。アルのように長逗留する冒険者もいるので、宿の空き部屋は、さほど多くない。
冒険者向けの宿は一人部屋が多く、宿によってはパーティ向け大部屋もあるし、さほど部屋数のない宿ならワンフロアをパーティで貸し切ることもある。
もちろん、貴族・金持ち向けの高級宿もあり、そういった所は規模が違い、宿丸ごと、一棟丸々借り上げるのだ。当然、お値段もケタ違いである。
高級宿は当然除外するとして、中ぐらいレベルでそこそこキレイで、周囲があまりうるさくなくて…は、アルが遮音結界を張ればいいワケだが、なるべく、普通の冒険者体験がしたいのなら、騒音のことも考慮した方がいいだろう。
…ということで、繁華街から遠くて外観もしっかりしていて、よさそうな所に行ったワケだが、そういった所は既に予約が満杯で、何軒か巡ることになった。それでも一時間もかからずに宿が決まったのだから、早めに動いて正解ということだ。
アルが一人で護衛するので、パーティ向け大部屋で四人部屋である。人数によってベッドを入れることも出来る。
貴族の子弟が初めて自分で稼いだお金での買い物、となると、就職して初任給をもらった時の使い途同様、親兄弟へのプレゼントとなるのはこの異世界でも一緒だった。
貴族だからといって、何もかも高級品を使っているワケでもなく、ヘタすると、外箱だけ立派で中身は市場で安く出回っている物をかなり高く買って自慢している、ということもあったりするワケである。詐欺ではなく、貴族様仕様としてどこも普通に用意しているものだった。
市場を見て回っていると、ああ、あれ…と時々うなだれてるウラルたちなので、貴族様仕様のことを悟ったのだろう。
ウラルたちが最初に買った物は串焼きだった。
屋台の食べ物は貴族の子弟にとっては、ある意味憧れだったらしい。
欲しがっても周囲に止められるので。串物は特に歩きながら食べてはいけない、とアルは注意しておく。どう危なくてどんな事故があったのかもしっかりと説明した結果、空き地で座って食べることになった。
食べてる間に、何を買うのか目星を付けるといい。
「うーん、難しいなぁ。大半はもう持ってるだろうし、って思うと、何を選んでいいのか、余計に分からない」
「最近、流行りの物は?」
「何が流行ってるか、ラズは知ってるの?」
「知ってたらもう言ってるよ」
「子爵は文官なんだから、筆記用具でいいんじゃね?いくつあっても使うし、差別化したいんなら、ネーム入りにするとかさ…って、そんなサービスがあるか分からねぇけど、見たことはあるからどっかでやってるだろうし」
アルは定番プレゼントを教えてみた。
「それいいですね!じゃ、筆記用具が売ってる店に行きましょう。置いているのは雑貨屋ですか?」
「個人の店にも色々と」
個人の店はいわゆるセレクトショップである。自分が置きたい物、売りたい物を売っている。
串焼きを平らげてから近くの雑貨屋に行ってみると、色んな種類の筆記用具が置いてあった。
広く普及しているのは羽ペンだが、万年筆、水性、油性ペンも普通に手に入る。現代日本の物と質は劣り、頻繁にインクの補充が必要だが、使用するのには問題ない。
他にも文鎮やペーパーナイフ、色んな種類の紙、少しいい素材のレターセット、等々、どれを選んでも喜ばれることだろう。
ただ、ネーム入れはやってないし、仲介もしてなかった。
「鍛冶屋か細工師かな?」
「商業ギルドで訊いてみたら分かるんじゃね?」
ウラルは父に油性ペン、ジョルジュは父に万年筆、ラズは父にペーパーナイフを選んで購入した。今は名入れが出来なくても、後で入れればいい、と。
母・妹にはアクセサリーがいいだろう、と扱っている雑貨屋を覗くことにした。
ダンジョン産の素材、爪や牙を使ったアクセサリーも多かった。特殊な効果が付く物はかなりのお値段が付いていたが、そうじゃなければ、さほど高くはない。
店員によると、リーズナブルなのは細工師スキルや木工スキルで短時間で作れるからだ。スキルもイメージが重要なので、見本があれば同じ物を作るのは容易くなる。
ネックレスのような目立つ物は気が引けるし、貴族の奥方にふさわしい程の豪華さと質の物は買えないので、ウラルとジョルジュはそんなに目立たないブレスレット、ラズは髪飾りにしていた。
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