045 冒険者ランクは強さのランクではない

 昼食の後は転移魔法陣でダンジョンを出て、ギルドにドロップ品を売り払い、市場で買い物、街の宿で一泊。朝、初依頼を受注して達成したら解散、という予定になった。


 アルが今泊まってる宿は、先払いで一ヶ月払ってあるのでもったいないが、必要経費なのでアルが損するワケでもない。

 三人共もう少しダンジョンに潜りたい気持ちはあったが、半端な所で切り上げるよりは、今度にチャレンジした方がいい、と街泊になったワケである。貴族の子弟にはこれも中々出来ない。


 しっかり食休みをしてからダンジョンを出て、アル、ウラル、ラズ、ジョルジュの四人でギルドに行くと、受付嬢がアルの顔を見るなり、奥へと走った。


「別にギルマスには用事がないんだけどなぁ」


 心配はしていたのかもしれない。出発時にカーラがごねたので。

 アルたちが買取カウンターの列に並んで待っていると、ギルマスが奥から出て来た。


「おーちゃんと帰って来たな!みんなもお疲れさん」


「ご心配をおかけしたようで」


「すごく楽しかったです!」


「アルさんのおかげで、ぼくたちでブラックベアを倒せるようになったんですよ!」


 嬉しくて自慢したかったらしいウラルがそんなことを教えてしまった。


「…アル」


 ギルマスリックは笑顔のまま、名前を呼ぶ声のトーンだけが下がる。


「無理させてねぇっつーの。戦い方は教えたけど、素質もあったんだろ。おれもいい意味で予想外だった」


「無理させてなくて、どうやったら、初心者が丸一日でブラックベアを倒せるように出来るんだよ?」


「パワーレベリングのおかげってのも当然あるぞ。本当に無理させてねぇって。報告書見ろ」


 ほら、とギルドに渡す分の報告書を渡した。


「…そこまで言うなら信用するしかないか。で、ここで解散か、もう一日もダンジョンか?」


「いや、街で一泊することになった。ドロップ品を売った金が初めての稼ぎになるだろ。貴族の子弟だと中々市場にも行けねぇしな。おれが護衛に付くから問題なし」


「そうか、分かった。で、ナバルフォール子爵から伝言で『娘がバカな脅しをしてすまなかった。娘の教育をやり直す』だとさ」


「そもそも、子爵が娘を説得出来てればよかったっつー話だよな」


「身も蓋もないこと言いやがるし」


 その言い方、こちらでもあるのか。


「ぼくからもお父様に抗議しておきます」


 ウラルも伝言に思うことがあったらしく、そう言った。


「じゃ、ついでにおれを敵に回す厄介さも教えてやってくれ」


 アルの戦闘力の一端を知られるだけでも勧誘が酷いことになりそうだし、お買い上げ予定の二段ベッド、寝具セットもうるさくなりそうなので、牽制しておいた。


「それはもう重々」


「…よく考えたら、アルさんの便利さがバレたら、王族に召し上げられちゃうんじゃない?」


 ラズがそれに気が付いた。


「強制はされないぞ。冒険者ギルドは国に属してない独自機関で各国主要都市にあるし、引き上げられたら詰むのは国だからな。それに強い冒険者はどの国も欲しいから厚遇するのが慣例だ」


 ギルマスがそんなことを言うが、あくまで表向きは、の話だろう。


「それもまたウザイ。スルーしていいのに。Cまででランクアップはやめとこうかな」


「ランク詐欺になるからさっさと上げろっ!」


「買いかぶりだって。おれが戦ってる所、見たことねぇクセに。伝聞ばっかだろ」


「戦ってる所、速くて見えませんのでSSSランクでいいと思います!」


「結界魔法だけでもSSSランクでいいと思います!」


「冒険者ランクは強さのランクじゃないんですから、詐欺と言うのはおかしいと思います」


 ジョルジュとラズはSSSランク推しらしいが、ウラルが一番マトモなことを言った。


「そうだそうだ。ギルマスがそんなんだとマズイぞ」


「詐欺は言葉の綾だが、ギルマスだからランク上げろって言ってるんだ。たとえば、スタンピードが起きた際、ランクで持ち場を決めることになる。どう考えてもAランクより強い奴がいるのに、その辺のザコの相手をさせてるのはもったいないし、死者が増えるだけだろ」


「スタンピード、魔物の暴走か。言い分は分からねぇでもないけど、その時は総力戦になる前に何とかなる気がするなぁ。森や山がなくなるかもしれねぇけど」


 自分が解決するとは言わない。色々と壊しまくるに決まってるので責任を取りたくないので。


「…って、お前の仕業しわざか、やっぱり!川の近くの森が不自然に100m以上も伐採されてたり、その近くの岩も広範囲で粉々になってた件!」


 誰か見付けてしまったらしい。

 やっぱり、とか言われるのも不本意だが、その通りなのでアルは笑うしかない。


「あははははは」


「笑って誤魔化すな。何やったらあんなんになるんだ!また大物が出たのかと調査させてるんだぞ」


 そう遠くないので、ギルマスも見に行ったらしい。


「ダンジョンで手に入れた物がヤバくて」


 ダンジョンの隠し部屋で手に入れたキラキラ宝箱を使って錬成したら、伝説級レジェンダリー武器が出来てしまって試してみたらヤバくて、とは言えないので省略してみた。


「お前の仕業しわざなんだな?」


「意図的に破壊したんじゃなく、素振りしただけなんだけど、それを仕業しわざと言うならそうだな」


「……ここじゃ出せない武器だな?」


 ギルマスがこそっと小声で確認するが、アルの称号【転移者】のせいで、とんでもない武器をゲットした、と思ってそうだ。まぁ、あながち間違いでもないか。

 アルの武器の知識がなければ、いくら錬金術が使えるようになっていても、あれ程の物は出来まい。


「それはともかく、アル、ランクアップはしろよ。ダンジョン攻略、ついでのダンジョン内採取かドロップ納品依頼、ソロで達成でAランクだ」


「だから、ランク上げてもいいことなさそうだしさぁ。指名依頼料も上がっちまうと気楽に引き受け難くもなるし」


「いやいや、指名を受ける本人が納得すれば、どんな依頼料でもいいんだぞ?」


「そうなんだ。でも、これ以上目立つのも…」


「とっくに手遅れだ!」


「いや、間に合うハズ!まだDランクだし!」


「…おい、手続きしないとか言うなよ?」


「Dランクはたった四日で、もうCランクになるのって、どうなのかなぁ、と改めて思うワケでさ」


 チキンな連中ばかりなので、冒険者に妬んで絡まれるといったことはなさそうだが。


「ものすごく今更なことを言い出すし~」


「あ、アルさん、順番来ましたよ」


 買取の順番になったのでラズが教えてくれた。

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