044 フロアボスに挑戦!

 ダンジョンツアー二日目。

 8階のワイルドカウ、ランニングバード狩りはそこそこにしたものの、9階は遺跡のような建物があるため、見通しが悪く、オークの数も多いので少し手間取ったが、アルたち四人は昼前には10階のボス部屋前に到着した。

 幸いにしてフロアボスは倒されておらず、リポップ待ちの冒険者たちもいない。


 早めに昼食を食べてからボスにチャレンジするか、ボスを討伐してから心置きなく昼食にするか、で多数決で決めた所、後者になった。


「時間をかければ、ブラックベアぐらい三人だけでも倒せるハズ。おれはヤバイ攻撃しか防がねぇから。頑張れ」


 アルのサポートは最小限にした。

 三人とも身体強化を使うのも慣れて来て、魔力を通した斬撃、攻撃も出来るようになっているので、全然ダメージを与えられない、ということはないハズだ。後はいかに連携して効率よく、魔法の使いどころも考えれば行けるだろう。


 ブラックベアは今日もまた可愛くない顔だった。

 3m弱ある巨体なのもあるが、動物じゃなく魔物ですよ、と主張し過ぎな怖い顔だ。いや、動物の熊も戦闘力は可愛くないか。

 先手必勝とばかりに、まずジョルジュが距離を詰め、槍を振るう、と見せて横にそれ、鉤爪をかわし、ベアの喉を突くが、浅い。緊張したのか、魔力の通りが不安定になっているのが原因だろう。


 間髪入れず、ウラルがベアの左足を斬り飛ばし、ラズの魔法が右足を燃やす。少し焦げた程度で火力不足だったが、片足を失ったばかりのベアはふらつき、それを押すようにジョルジュの槍がベアの左脇腹を抉る。


 チャンスとばかりに、ベアの身体を足場にして高く跳び上がったラズがベアの顔を斬り付けるが、空中なのと姿勢を崩していたため、かすり傷程度にしかならない。


 そこに、剣術は一番上手いウラルがもう片方のベアの足を斬り飛ばした。機動力を奪ったのなら、後は時間の問題だった。

 ベア系はタフだと言われる通り、それでも討伐まで二十分はかかった。


「はいはい、お疲れ~。殊勲賞はウラルだな」


 アルはテーブルセットを出して、冷やした果実水を配った。


「あ、ありがとう、ございます」


 ウラルはまだ息が整わない。


「ほ、本当に…タフ…過ぎ……」


「…つ、つかれ……た…」


 ジョルジュもラズもまだまだ肩で息をしていた。

 ここまで長い戦いは初めてなこともあるだろう。


「ジョルジュもラズもよく頑張ったな。おれのサポートなしで討伐出来るとは思ってなかったぞ」


 アルという保険があるので、かなり、思い切ったことが出来た、というのあるだろうが、丸一日でここまで成長出来たのは素直にすごい。

 まだ動きたくなさそうなので、アルはドロップした魔石と毛皮と木製宝箱を机の上に持って来てあげた。

 作業デスクサイズの無骨なタイプの木製宝箱で、外観はアルの時と同じだ。

 喉を潤した後、三人はお互いを見やった。


「みんなで一緒に開ける、でいい?」


「もちろん」


「そうしよ」


「こらこら、開ける前に罠があるかどうか確かめろよ」


 アルは注意してやる。


「どうやって、です?」


「分からねぇ時は離れて宝箱の正面には立たず、横から槍か棒でそっと。まぁ、罠はねぇけど、手順としてはそうなる」


「分かりました」


 三人で一緒に木製宝箱を開けた。

 中には【防刃ベスト(防御力+10)】が入っていた。これだけだった。


「ベスト?」


「防刃ベスト。防御力+10。そこそこ、どころか結構いい物。宝箱の中身は討伐人数に左右されるって話、本当だったな」


 アルはソロだからいい物が三つだったんだろ、とダンに言われたのだ。


「…価値があんまり分からないんですが」


「防刃ってことは刃は防げても、牙や爪はダメってことなんです?」


「いや、そこまで捻くれた防具じゃねぇって。防御力に+10なんだから、何の攻撃でも。衝撃は防げねぇだろうけど、そこまではおれの鑑定では分からねぇ」


「親たちに見せて相談した方がいいかもしれません。アルさん、マジックバッグに入れておいて下さい」


「いや、ウラルのマジックバッグの中身を出して、ウラルが持ってろよ。ギルド内で出したり入れ替えたりすると目立つから」


 それもそうか、と思ったらしく、ウラルは防刃ベスト入り木製宝箱と毛皮が入るようドロップ品を出した。出したドロップ品はアルのマジックバッグにしまって行く。


「後でどれを売ってどれを取っておくか、決めた方がいいですね。大量にありますから」


「その前に飯だな」


 アルは机の上を片付けるとクリーンをかけた。汗をかいてる三人にも。

 それから、冷たいハーブティをグラスに入れてやり、作業台を出して魔石コンロや食材や調理道具を出し、料理して行く。

 朝食はパン、ベーコンエッグ、サラダ、スープ、フルーツといった典型的洋食朝食にしたので、昼食は牛丼ならぬカウ丼定食(味噌汁、サラダ付き)で。丼ももちろん用意してある。


「あーもうっ!胃袋に染み渡るっ!」


「…おお、美味過ぎて泣きそう…」


「くぅ~これ、おかわりが止まらないヤツだ…」


 ウラル、ラズ、ジョルジュがそんな感想を述べた。

 食べ盛り男子が熱烈支持している牛丼(カウ丼)なだけある。

 たくさんお食べ。

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