043 みんなでお風呂

 夕食の片付けまで終えると、マジックバッグから二段ベッドを出した。

 野営場所は最初に土魔法で平らにならして固めてあるので、ガタガタ座りが悪いといったこともない。

 そして、次々と布団セットをベッドのそれぞれにセッティングして行く。枕もだ。

 アルの布団は自分だけカバーありの羽布団なので、場所は勝手に決めて下の段にする。


 ウラルたちはいい意味で思っていたのと違ったようで、二段ベッドにも布団にも大はしゃぎだった。上の段がやはり人気らしく、じゃんけんが始まる。

 もう一つ二段ベッドがあるので、三人全員上の段、ということも出来るのだが…まぁ、そうやって争うのも楽しいだろう。

 中身は十歳前後上のアルは自然と保護者的ポジションだった。


「絶対、売って下さいねっ!アルさん!」


「分かった分かった」


 想定以上の高額で売れそうだ。


「塀も作ったし、せっかくだから、風呂も作るか」


 アルは土魔法で四人入っても余裕な大きさの湯船を作り、その周囲の足場は洗い場としてもう一段高くした。風呂椅子と洗面器も土魔法でさくさくっと。


 魔法でお湯を作って湯船に溜め、入浴剤替わりにフルーツの皮を布に入れてお湯に入れる。これだけでもすべすべになるのだ。

 身体を洗うものはヘチマタワシと石けん、シャンプーとリンス。これは雑貨屋に普通に売っていた。

 その辺の草で脱衣カゴを錬成して配り、荷物置き場として土魔法で机も作った。


「よし、入ろうぜ」


 羞恥心があまりないアルは、さっさと服を脱いで脱衣カゴに入れると、かけ湯をしてから一番に湯船に入った。【クリーン】を使って清潔さは保っていても、やはり風呂に入りたいのだ。

 ものすごく何か言いた気だった三人だが、今更かと苦笑しつつ、それぞれも服を脱いでかけ湯もちゃんとかけてから、湯船に入って来た。


「あーいいですね、お風呂」


「ダンジョンでお風呂に入ったことのある人、きっとぼくたちだけですよ…」


「普通は魔力の節約をするもんだけど、湯船をマジックバッグに入れてれば、後はお湯を出すだけだぞ?」


「湯船をマジックバッグに入れるっていう発想はまずしないですから~」


「風呂好きは結構多いと思うんだけどな。マジックバッグの容量の問題か」


「マジックバッグ自体、持ってる人はお金持ちだけですって」


「ダンジョンで見つけた冒険者も、だな。このダンジョンも深層に行くと出るらしいぞ。ギルドの資料によると」


「そうなんですか。宝箱から、です?」


「宝箱もあるけど、魔物を倒したドロップ品でもレア確率で出たことあるってさ。そうなると、狙って出すのは難しいだろうな」


「フロアボスのドロップってどうなんでしょう?」


「決まった物が出るんじゃなく、ランダムでそこそこいい物が出るぞ。だから、リポップ待ちになることもある。10階のフロアボスは半日ぐらいでリポップするそうだから、まだマシかな」


「そこそこいい物って、アルさんは何が出ました?」


「10階のボスはブラックベアで、魔石と毛皮と素早さアップシューズと防御力アップの丈夫なマント。20階のボスはワイバーンで、魔石と飛竜の槍とエスケープボール」


 エスケープボールはその出たダンジョン限定でしか使えないが、転移魔法が封じられており、どこからでも出入口に転移する、という非常用脱出アイテムだ。当然ながら高額で取引されている。

 転移魔法が使えるアルには必要ないが、解析して似たような物を作れないか、と研究したいので売らずに取り置いてあった。

 飛竜の槍も同じく、素材として残してあるだけで「違う物に錬成しようかな」である。


「すごくいい物に思えるんですが、上には上があるんですか?」

「ああ。隠し部屋の番人から出るドロップの方が遥かにいい。何が出たかは内緒だけど」


 ゴーレムが作れる手袋なんて、天文学的なお値段が付きそうだ。普通の鑑定では詳細が出ない、というのはその辺りの配慮なのかもしれない。


「ぼくたちもフロアボスにチャレンジするんですか?」


「空いてたらな。明日には10階まで到達出来そうだけど、その後はどうする?もう一泊するか、フロアボスが倒されていたならリポップを待つか」


「え、二泊三日じゃないんですか?」


「最長二泊三日、一泊は必須、坊っちゃんたちを連れて10階まで到達する、早く終わる分には構わない、というのが昇格試験の内容なんだよ。君たちのマジックバッグももういっぱいだし、一度、ギルドに売りに行ってからまた戻ってもいいし、二泊した後に帰ればいいのなら、ダンジョンに限らず、もう一泊は自分の稼ぎで街の宿に泊まる、市場で買い物するってのもありじゃねぇの」


「アルさんは付き合ってくれるんですか?」


「いいぜ。報酬はもらうけどな」


「じゃ、カーラを連れて来たら…」


 ウラルは妹のことが気になっていたらしい。


「我儘言わず、日帰り限定なら。また別の機会におれに指名依頼出すってのも出来るんだぜ?この街には当分はいるつもりだし」


 知り合いも増えて来たし、思ったより過ごし易いので。


「あ、そっか。そういったのもありなんですね」


「おれらだけ楽しんでるってのもちょっと後ろめたいけど、カーラは自業自得だろ。またぎゃーぎゃー言われるだけかもしれないし」


 ジョルジュはカーラを加えるのは、気が進まないらしい。


「ちょっとあれは酷かった。悪いの叔父様なのに、アルさんに八つ当たりしてたし」


 ラズも兄と同じくのようだ。


「でも、アルさん以外の冒険者だったら、これだけ安全に楽しく、ダンジョン探索は出来ないよ。ぼくたちは見学だけで冒険者はがっちり守るだけっていうのなら、他の冒険者でもいいかもしれないけど、そんなのつまらないし、カーラだって不満ばっかりだと思う」


 だから、ウラルはアルに頼みたいらしい。


「アルさんは結構好きにさせてくれるしな。ちょっと前ぐらいから、危ない攻撃だけは防いで、おれらの身体近くの結界はなしにしてくれてるし」


 ジョルジュがそう言う。


「おれの便利さに慣れると、危機感が薄れてマズイからな」


「本当に万能ですよね。知識も相当あるようですが、どこかの学校に通っていたことがあるんですか?」


 ラズが踏み込んだ質問をする。


「さぁて。っつーか、冒険者はワケありの奴も多いから詮索はタブーなんだぞ」


 アル程かなりのワケあり冒険者は滅多にいない。


「すみません」


「一般的にはな。…さて、そろそろのぼせるから上がれよ」


 温めのお湯とはいえ、のぼせそうなので、アルはそう促して自分も上がった。

 頭と身体を洗って、もう一度湯船を堪能してから着替えた。

 いくら、結界内で安全は確保している、とはいえ、万が一の備えは必要なのでパジャマじゃなく、スパイダーシルクとコットン混の長袖シャツと同じくのズボンだ。肌触りをよくした斬撃・衝撃耐性がある装備である。アルが錬成すると軽減じゃなく、耐性だった。


 風呂上がりには水分補給。

 アルはスポーツドリンクのようなものを作って、みんなにも飲ませる。


「寝てても遊んでてもいいぞ」


 アルはそう言ってから、露天風呂を壊して戻し、お風呂セットは収納、ペンと紙を出す。

 さて、報告書を書くか。

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