042 楽しい夕食の邪魔者たち

 Cランクパーティとはそこで別れ、アルたちはジャンピングゴート狩りに向かった。

 ついて来ようとした魔法使いは、さすがに他のメンバーが力尽くで止めてくれた。

 そうじゃなければ、アルは魔法使いをソルジャーアントの巣に放り込んで蓋をしていただろう。


 ウラルたち三人のジャンピングゴート狩りは、最初は手間取ったものの、次第に行動パターンが分かって来たのか、中々の善戦を見せ、休憩を入れつつ満足するまで狩った後は、スムーズに8階に進んだ。


 湖のある草原フロアだ。

 この頃になると日が陰って来る。

 ダンジョン内のニセ夕日だが、外と連動しているのだ。魔物にも体内時計があって、ダンジョン外と同じ環境でなければ弱ってしまう、と言われている。夜空も普通にあるそうだ。


 みんなでワイルドカウとランニングバードを少し狩り、カウ肉でカレーライス、ドロップしたランニングバードのモモ肉は焼き鳥にする。キャンプと言えばカレーでしょう、というワケだ。防臭結界内なのでまったく問題ない。


 大分、体力が付いて来た三人は、これまでと違い、食事の支度の手伝いを申し出て来たので、材料切りと肉を串に刺すのを頼んだ。ご飯もたっぷり炊く。


 まぁ、ハーブティにローズマリーをブレンドしており、その効能は「集中力・やる気アップ、強壮」なので、疲労回復にも効果があったりするワケだ。密かなドーピングである。

 疲れがどんどん溜まって行くと楽しめないし、副作用もないので問題なしだ。


「ガラムマサラ?カレースープですか?今日のメニューは」


「カレーライス。何でかカレースープの方がメジャーだけど、おれの好みで」


 色々話を聞くと、カレーライスがメジャーの所は地域が違うらしい。


「ぼくも好きです~」


「ヤギチーズをトッピングしてもいいですか?」


「もちろん。それもまた美味いんだよな~。…あ、サンドイッチの残りをホットサンドにしよっか。こういった道具があってさ」


 アルは残りのサンドイッチとホットサンドメーカーを出し、挟んで魔石コンロにおき、様子を見てひっくり返す、と教えると、ジョルジュがやりたがったので任せた。たびたび開けて焼き加減を見ても問題ない。


 少し野菜が少ないかな、と蒸し野菜サラダも付けることにした。

 カレーを煮ている鍋の上に耐熱ザルを載せ、切った野菜を入れて蓋をするだけだ。この耐熱ザルもアルの錬金製である。素材は鉄だ。


 串焼きは焚き火の側に刺して、頃合いを見て回して行く。

 そう時間がかかることなく出来上がり、夕暮れ時には夕食を食べることが出来た。

 すぐ暗くなりそうなので、魔石ランプをいくつか点ける。冒険者に必需品で元々持っていたが、このダンジョンツアーのために更に増やしてあった。これも経費で請求する。


「おいぃっっっっしーっ!」


「こんなに美味しい料理、初めてです。カウの肉もすごくジューシーで美味しいですし」


「ランニングバードも、だね」


「ホットサンドもまた食感が変わってて、美味しいです」


 好評でよかった。


「おかわりもたくさんあるから、腹いっぱい食えよ。吐かない程度に」


「はい!」


 普段より食が進んでいるのは確かだろう。たくさん動いた身体もカロリーを欲しているのだ。

 しかし、楽しい夕食も半ばで途切れた。

 アルの探知範囲に、ランニングバードの群れから逃げている四人パーティがひっかかったのだ。


「ちょっと助けて来る。結界はそのままだから安心しろ」


 返事を聞くのもそこそこに、アルは走り出した。木陰に入った所で転移を使う。

 もう暗くなっているが、白い羽のせいか、魔力のせいかランニングバードはうっすら光る。

 なので、夜間なら集まってしまう前に逃げるのは容易いハズなのだが、経験の浅い冒険者たちなのだろう。

 夜目も効かないらしく、魔石ランプ片手にあちこちひっかかりながら逃げていた。


 アルは風魔法で十数匹のランニングバードの首をさっくりね、ドロップも風魔法で集めて収納する。大した怪我はしていないし、後は自己責任なので、さっさと転移でウラルたちの近くまで戻り、軽く走って結界の中に戻った。


「思った以上に早かったですね。結構、近くだったんですか?」


「まぁまぁ。…土魔法で塀を作るか」


 灯りがあるだけに、遠くからでも見付け易いのは分かっていたが、距離を取ってついて来ている護衛たちは見えないとマズイかな、とちょっと配慮したワケだ。

 結界に沿うようぐるっと塀を作る。

 高さは3mでいいだろう。ついでに結界内にトイレ小屋も作り、深い穴にするように。和式風だ。


「そんなに面倒そうな人たちだったんですか?」


「ここまで進んで来ているのが奇跡、という感じ。気配察知が出来る奴がいるんだろうけど、索敵範囲が狭けりゃ逃げる時間もねぇわな。ランニングバードは薄く光るから、目視出来るんだけど、頼り切りだったっぽい」


 アルは食事を再開しながら、そう推測してみた。


「なるほど。色んな用意も不足してそうですね」


「そういえば、アルさん、ベッドがどうのと言ってましたが、本当にベッド持って来てるんですか?」


「ホントホント。食ったら出してやるから、寝る場所の話し合いをしとけよ。二段ベッド二つだ」


「…って、何です?」


「貴族の坊っちゃんは知らねぇのか。狭い家でも快適に過ごせるよう考えられた寝具。二段ベッド、三段ベッドをずらっと並べた雑魚寝宿もある。泊まったことはねぇけど、質は断然おれが作った方が上だな」


 断言してやる。


「わざわざ作ったんですか?木工のスキルを持っていて?」


「いや、錬金術。大工のように手作業でも作れるけどな」


「…何かもう本当に何でもありですね」


「でも、このダンジョン探索が終わったらどうするんですか?」


「売ってもいいけど、欲しい?超シンプルデザインだけど。貸しベッド、貸し寝具で経費は請求するから、おれとしてはどっちでもいいし」


「見てから決めます。何かとんでもなさそうですし」


「このテーブルセットもすごい値段が付きそうだよな」


「これは気に入ってるから売らねぇって。何気に背もたれの角度とか結構調整してあるし、この先も使えるし」


「この耐熱マグカップグラスは売りませんか?」


「売らない。作るのが結構面倒なんだよ。ガラス製品は川の底の砂さらって、ってトコからだし、耐熱の技術はどうも出回ってねぇようだし」


 アルは他で稼いでいるので、売り出すことは考えていないのだ。

 ファスナー同様、アルにしか作れないのなら延々と耐熱付与しないとならなくなるような気もするし。


「物が耐熱になってるのは初めて聞きました。武器や防具の火の耐性はそこそこ聞きますけど」


「それって火竜の鱗や素材、或いは火属性の魔物の素材を使って作ったから、自然と耐性がってヤツ?」


 素材のせいで自然と、と言うと風竜刀が正にそうだ。


「え、それ以外あるんですか?」


「アルさんがそう言ってる時点で、違うやり方ってことですよね。商売にしないのなら黙っていた方がいいかも」


「だよな」


 アルが思っているより、付与魔法は広まってないようだし、ヘタな物は世の中に出さない方がいい。

 この世界に対する知識が少な過ぎるので、もう少し勉強した方がいいか。

 元の世界に帰る手段か、繋がる何らかのことを知ることが出来るかもしれない。

 素性を知ってるギルドマスター、副ギルドマスターのツテか何かで、何でもよく知ってる知恵者を紹介してくれるとか、様々な本を読むことが出来るツテとか、どうにかならないものか。

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