041 どうして首が落ちた?

「何?あるさんって名前か?」


 大剣使いの人がそんなことにツッコミを入れる。


「アル、までが名前」


「似たような年頃に見えるけど、何でさん付け?友達同士ってワケでもないのか?」


「違う。依頼でダンジョン探索体験させてるって言っただろ。おれはDランク冒険者」


「D?嘘だろ。こんな結界張れる奴がか?」


「実績不足なんでな」


「ちょっとっ!まったくの無詠唱って何なのよ?」


「そのまま。魔法名もいらねぇだろ。明確なイメージがねぇと魔法は発動しねぇんだから」


「そんなに言うならやってみなさいよ。ほら、ちょうどパラライズホークが飛んで来たし」


「いいけど、面白くねぇぞ?」


 アルは座ったまま、パチッと指を鳴らしてエアカッターで首を落とした。

 何かしら動作をするのはタイミングが自分に分かり易い、というだけで、まったくなしでも問題ない。

 標的を視界に入れるだけ…いや、探知魔法で分かる範囲なら問題ないような気がする。魔法の飛距離や影響距離が足りないだろうが、アルには転移があるので。今度試しておこう。

 結界に包まれたままでも、アルが魔法を使うのはまったく問題なかった。どちらも自分の魔力だからだろう。

 外から結界に向けて魔法を打つと弾くが、自分でそういった設定にしているだけで。


「…はぁああああっ?」


 落ちて来たパラライズホークは二匹。

 ドロップに変わってすぐにアルは風魔法で引き寄せ、結界魔法でひかかるので手を伸ばして普通に拾ってマジックバッグにしまった。ドロップは二つとも硬い羽根だ。


「どうして首が落ちた?何をやったかまったく分からん」


「エアカッター」


「でも、今のエアカッターって大半の人がやるように手から打ち出したんじゃなく、ホークの近くの風を魔力で動かしてザクッて感じですよね?」


 使って行くうちに魔力も増えて来たラズがそんな確認を取った。


「そう。魔力の流れが見えたのか。成長してるな」


「お褒めに預かりまして。少し魔力を節約出来るようですし、前に障害物があっても関係なく使えますから、ぼくも練習します」


「頑張れ。曲げるよりは魔力の節約だしな」


 曲げる場合はずっと干渉していないとならない。


「水辺でその水を使ってウォーターボールを打つ、の風の攻撃版ってことですか?」


 ウラルがそんな質問をして来た。


「そ。アースランスだって離れた所から敵の足元に出すんだし、慣れれば普通に出来ると思うぞ」


「そう言われてみればそうですね」


「し…師匠!弟子入りさせて下さい!よろしくお願いします!…あたっ」


 女魔法使いは驚愕していたが、我に返ると手のひらを返し、近寄って来ようとして結界にぶつかった。


「却下」


「ずうずうしいですね!散々バカにしておいてそれですか」


 ウラルが怒る。


「まぁ、女ってそんな所があるよな…身勝手で…」


 ジョルジュは十五歳なだけに、とっくに何か痛い目に遭ってるようだ。


「ちょっとリーダーさん?…あ、こっちの人?パーティメンバーの教育、ちゃんとしといて下さいよ」


 ラズは本人に言っても無駄判定をして、リーダーに文句を言う。大剣使いがリーダーと思ってたようだが、槍使いだった。


「それはおれの役目じゃない。シド…剣士に言ってくれ。魔法使いの恋人なんで」


「おいおい、幼馴染だからって勝手に恋人扱いすんなよっ!まっぴら!」


「何だかんだ言いつつ喧嘩友達ではあるだろ」


「呑気に言い合ってる場合じゃねぇだろ。今度は十匹来るぞ。距離20mぐらいの土の下。ソルジャーアント」


「アルさん、ぼくにやらせて下さい!まだ土の下なら炎で…」


 ラズはやる気でそう言い出した。


「全部は焼けねぇぞ?よくて二匹。おれらよりでかいんだって、あいつら」


「…フォローお願いします。みんなも」


「はいよ」


 アルはさっさとお茶セットをマジックバッグにしまうと、結界を解除した。

 Cランクパーティはまだソルジャーアントたちの位置が分からないようで、辺りを探している。


 アルはラズをソルジャーアントがいる穴の所まで案内してやった。

 違う出口にはウラルたちを張らせる。ラズがファイヤーボールを打ち込めば、ウラルたちの方から出て来るハズだ。


「覚えてると思うけど、酸攻撃して来るから口の向きに注意。当たるなよ」


「気を付けます!」


 そして、作戦は実行されたが、仕留めたのは気配からして一匹だけ。ソルジャーアントたちは、ウラルたちが張っていた穴だけじゃなく、新しく穴を掘って出て来る。

 三人にはアクティブ結界を張ってあるので、好きにやらせてみたが、思ったよりも戦えるようになっていて少し驚く。

 外殻が硬くてウラルの剣とジョルジュの槍では傷付けるのがせいぜいでも、関節を狙って上手く切断していた。時間はかかっているが。


 三人が対応出来なさそうなソルジャーアントは、アルが蹴り倒したり、足を踏み付けて潰し、と行動不能にしておき、三人にトドメを刺させた。

 穴の中に逃げたソルジャーアントはエアカッターでアルが仕留め、ドロップも風魔法で運ぶ。位置が分からないラズにはちょっと難しいので。

 探知魔法も覚えて欲しいが、どう覚えさせるのかが分からず。気付いたら覚えていたアルとしては。


「…身体強化使ってなくてその強さってさ…」


 出番がなくて観戦に回っていた大剣使いが呆然と感想を述べる。


「あーよかった。普通は驚く所ですよね。何かもう感覚が麻痺して来て」


 ウラルがそう言うと、ジョルジュもラズも分かると思いっきり同意していた。

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