038 いやいや、まだまだ

「アルさんの剣技見たいです!」


 ラズがそんなことを言って来た。


「身体強化を使わなくても見えねぇと思うけど」


「目に魔力集めても無理ですか?」


「違う方見てたら意味ないし」


 見たい見たい、とみんなにせがまれたので、昼食後、三人は結界内に置いたまま、アルだけ出た。

 よく考えたら、結界は自分の魔力なのだから普通に出れるかも?と思ったら解除せずとも出れた。


 結界の外に魔物が集まって来ていたので、長剣で首をねて行く。

 初心者はフォレストディアの角とホーンラビットの角と機動性に翻弄され勝ちだが、アルはもう動きを見切ってるし、初見からもまったく苦労してない。元々動体視力も運動神経もいいこともあるのだろう。

 ドロップ品は風魔法で集めて、長剣もマジックバッグに入れると、結界内に戻る。


「見えなかったみてぇだな」


 三人の表情からして。


「…気付いたら首が飛んでました」


「アルさんの剣って名のある鍛冶師が鍛えたレア物ですか?」


「まさか。盗賊の討伐報酬にもらった盗賊が持ってた剣だし、鑑定しても一般品だぞ」


 ここで風竜刀を出したら、ものすごく騒がれそうなので出さない。

 自分でもヤバイと思ったレジェンダリーだ。


「じゃ、魔力を通してたんですか?」


「いいや。刃を立てれば、割と何でも斬れるって」


「それはアルさんだけだと思います!」


「あ、ラズとウラル、剣見せて。そろそろ、傷んで来てそうだし」


 無理に切ってる感じなので。

 アルがチェックしてみると、どちらの剣も細かい刃こぼれをしていたので、錬金術で修復した。

 ついでに切れ味が増す風魔法を付与、したい所だが、腕が上達しないのでなし。


「……はぁ?」


 修復しただけでも驚かれてしまった。


「錬金術だって」


「……どんだけ万能なんですか、アルさん…」


「いやいや、まだまだ。召喚魔法や闇魔法も覚えたいんだよな」


 闇魔法はどんなものかのイメージがし辛いので、使い手に会ったら見せてもらおうと思っていた。


 いつの間にか、回復魔法は覚えていた。

 念のため、ダンジョンツアーに持って行くポーションを作っていたのだが、治れ治れとイメージした所、中級ポーションだけじゃなく、鑑定で出た他の薬草も加えたら上級ポーションもあっさり出来てしまったワケで。

 魔力のゴリ押しで品質アップが可能らしい。

 上級ポーションは部位欠損や失った血や臓器までは治せないが、切り落とされて時間が経ってなければ、くっつけることが出来るすごいポーションだ。


 回復魔法は怪我がつきものの冒険者なので、人体実験もしてある。細かい傷だったが、ダンたちで。

 回復魔法が使える人は割といるらしいので、別に隠す予定はないが、これだけの種類の魔法を短期間で覚えたという辺りは隠すべきだろう。

 普通じゃなさ過ぎるので。

 …今更も今更だが。


 ******


 食後の休憩もそこそこに、ダンジョン探索を再開した。

 魔物一匹を三人で倒すようアルが調整する。

 群れで魔物が出て来る時はアルが魔法で足を拘束し、トドメを刺させる、というパワーレベリングになる。

 レベルアップはしていても、三人で群れを倒せる程、強くはないので普通に戦いたいと言われても許可出来ない。


 そうして、いいペースで倒しつつ進んで6階。山もある高原フロア。

 ここにはスリーピングシープがおり、スリープ魔法を使って来る。魔石以外のドロップ品が羊毛と肉と腸。

 文字通り美味しいので是非とも自力で手に入れてお土産に持って帰って欲しい。

 スリープ魔法さえ何とかすれば、スリーピングシープ自体の戦闘力は高くない。

 ここで有効なのは眠気覚ましポーションだ。普通に売っているので、ツアー客のために買っておいた。


 アルは他の魔物が来ないよう気を付けているだけで、後は三人に任せてみる。

 …つもりだったが、探知圏内にスリープ魔法にやられて眠ってしまった四人パーティを発見した。

 このままではなぶり殺しになってしまうので急行する。

 念のため、ウラルたちにはアクティブな結界魔法を施してから。


 眠ってしまったパーティの周囲のスリーピングシープを殲滅し、怪我をしてしまっている冒険者たちにヒールをかけた。

 眠らされたのは状態異常なのでキュアで治るが、今はまだ治さず、風魔法でドロップを集めて収納すると、眠ってる四人は【重力魔法】で軽くして担ぎ、ウラルたちの元まで運んだ。

 こういった状況もまた勉強なので、教材にさせてもらおう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る